新時代の物流センターに求められること

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2022.08.08
  • DX
  • サプライチェーンマネジメント
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コロナ禍によるニューノーマルシフト、ホワイト物流の推進要請の高まり、慢性的な労働力不足など、物流環境が大きく変化する中、物流DXの推進が急務となっている。働き方改革、自動化・デジタル化を進めてはいるものの、多くの現場では理想のDX実現に時間を要している。本稿では、物流センターのDX実現に向けて、物流センターの運用全体(ヒト・モノ・ロボットなどの設備・工程)の生産性最大化と柔軟性向上を実現するアプローチ方法とそれを支えるシステム基盤を紹介する。

(本稿は2022年5月27日オンラインセミナー「サステナブルな物流センターの作り方~自動化設備とヒトの融合~」での講演「新時代の物流センターに求められること」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 山中 義史

    Principal

倉庫マネジメントの目指すべき姿

倉庫マネジメントの目指すべき姿とは、企画・設計、運営管理からオペレーションまで、物流センター運用全体の”生産性最大化”と”柔軟性向上”を図る仕組みを構築することである。

ビジネスニーズの変化、物流負荷の高まり、労働力確保の競争激化、災害や疾病のリスクやロボットなどの先進技術の発展、加えて2024年4月に適用される「ドライバーの時間外労働の上限規制」によって物流業界に大きな影響を与えると言われる「2024年問題」を控え、物流現場もこれらの変化に対応していくことが求められる。しかし、マンパワーに依存したアナログで属人的な倉庫管理になっているなど、目先業務を乗り切るだけの短期視点な現場運営が行われているのが実状である。

属人的オペレーションの低減やデータに基づく現場の高度な意思決定、変化に対応するためのアジリティ(機敏性)の向上が、省人化・自動化の推進やデジタル化への追随、ビジネス環境変化への対応力の強化、そしてビジネス起点での柔軟性のある運営管理の実現につながると我々は考える。

現場全体の運用最適化

物流センター最適運用のために必要な仕組みを3つ紹介する。

1つ目の仕組みは、デジタルツインを活用して高い精度で簡易に効果試算し、柔軟性のあるロジスティクスを企画・設計することである。
現場では、現状を正確に捉えられていないケースが多く、試算に必要な条件が整理・整備されておらず、試算をしても精度が低いという事象が表出している。
そのため、投資判断ができずになかなか前に進まない、投資をして設備を導入したにも関わらず期待した効果が得られないといったことが、企画・設計を阻害している大きな要因の一つになっている。
これらの現状を改善するためには、必要な情報を最新の状態で使えるようデジタルデータが整備され、デジタルツインでより精度の高い現場再現性を持ったシミュレーションができる仕組みが必要になる。

2つ目は、リアルタイムで必要な情報にアクセスできるダッシュボードである。
データに基づく“運営上の意思決定”にはダッシュボード機能の充実が大きなポイントとなる。
実際に、多くの現場では様々な形で「情報の見える化」が進められているが、一方で稼働実績が取れていない作業工程が多く、リアルタイムで現場の稼働実態が把握できずに、ブラックボックス化されてしまっていることが多い。作業やリソースの稼働状況をリアルタイムでデータ収集し、可視化することで、問題発生の即時検知・状況判断・アクション決定までの迅速な対応が可能となる。

3つ目に、作業全体を俯瞰して生産性を高める“オペレーションコントロール”ができる仕組みである。
全体最適な計画立案・現場コントロールをするためには生産性や進捗・庫内全体のリソースを把握することが欠かせないが、この業務は経験や勘に依存しがちである。結果、全体ではなく個別最適で留まり、遅延や残業過多などの問題を引き起こしてしまっている。庫内全体の生産性を最大化させるためには、最新の生産性や稼働状況がデジタルデータで整備されており、実行可能な作業・リソース配置の計画立案ができること、また、計画が崩れた時のリカバリとしての計画リプランができる環境を構築することが有益である。
この仕組みを通して、ヒトと設備・ロボットのムダやムリのない作業連携や互いの稼働状況を考慮した工程間の連携を図り、全体を最適化していくのだ。

これら3つの仕組み、つまり、①デジタルツイン活用によるロジスティクス企画・設計の柔軟性の向上、②ダッシュボード機能によるデータドリブンな運営管理、③自律制御された最適オペレーションが有機的に結合し、各機能がサイクリックに回ることで、現場全体の最適化が図られるようになるのである。(図1)

図1 アビームコンサルティングが考える物流センターDX 図1 アビームコンサルティングが考える物流センターDX

阻害する壁と物流センターが目指す姿の実現

ここまで説明してきた仕組みを実現するために、どのように実装・デジタル化を進めていくべきだろうか。
目指す姿の実現のためには、設備やロボットの新規導入やリプレイス、現場の稼働データをきめ細かくデジタルデータで収集することが必要になる。
だが、何をするにもWMS(倉庫管理システム)や周辺システムへの改修負荷が高く、結果として推進ができないという現場が多く存在している。
そこで、WMSをベースとした拡張性の低いシステム基盤の壁を取り払い、マテハン設備・ロボットや最新デジタル技術と容易に接続し、リソースとプロセスを統合管理する新しいシステム基盤WESが必要になる(図2)。

図2 WESの有用性 図2 WESの有用性

そのシステム基盤を実現する手法が、YEデジタル社のWES「MMLogiStation」である。
WES(倉庫運用管理システム)とはWMSとWCS(倉庫制御システム)の中間に位置するシステムで、「物流現場の制御・管理に特化」したシステムである。
従来WMSが行っていた現場の制御と管理をWESに分離することで、システムの役割をシンプルに実装し、将来の機能拡張や自動化設備の追加導入がプラグインで簡単かつスピーディーに実現する。また、設備追加に対するカスタマイズ開発も不要になるため、複雑な設備構成や運用にも柔軟に対応することができる。さらに、マテハンやロボットとの高い接続性があり、リソース毎のきめ細かな稼働データの収集・蓄積が可能で、リソースを一元管理した全体最適なオペレーションの土台を築くことができるのも特徴である。

アビームコンサルティングによる推進アプローチ

物流センターのDX・デジタル化は、実現性分析と効果測定の難度が高いため、難航することが多い。アビームコンサルティングではWES製品を活用してPoC(Proof of Concept/実証実験)をクイックに立ち上げ、構想を具体化していくアプローチを提供している。例えば、ある特定の工程のリソースとプロセスを制御し効果測定をする、自動化設備の導入プランの検証をする、などである。これらの検証から、実効性のあるロードマップを描いていく(図3)。

図3 PoCから始めるDX推進アプローチ 図3 PoCから始めるDX推進アプローチ

ロードマップの一例を挙げると、まずは、WESを用いて、限定的に自動化を進める、既存のブラックボックス化した環境を変えていくなど、自動化・見える化といったあるべき姿に向けてのベースラインを作ることから始める。
これをベースに、さらなる自動化設備の拡張を行いロボ・ヒトの融合、自動化の進化・運営の高度化を図っていく。そして、最終的に目指すのは、プロセスに紐づけたヒト・モノ・ロボットの管理、AIによる最適化、倉庫運営の遠隔管理・自律化、輸送・倉庫のインテグレーションまでもが実現した姿で、ビジネス環境の変化により少ないリソースで対応できるサステナブル(持続可能)な物流センター運営だ。
これは一例にすぎないが、このような将来像を現実的に目指していくべきだと考えている。

アビームコンサルティングは、物流センターの最適化をテーマに、様々なソリューション・研究・顧客サービスを展開している。ロジスティックス全体の将来や2024年問題における対応、企業価値向上の支援を通じて物流DXの実現に貢献していきたい。

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