東南アジアにおけるマイクロインシュランスのトレンド

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2022.10.07
  • 保険
  • グローバル

執筆者情報

  • Atsuyuki Mori

    Director Head of Insurance sector in Southeast Asia

保険業界の5つのグローバルトレンド

グローバルの保険業界の5つのトレンドは欧米のみならず東南アジアにも存在する

現在、保険業界には、他業界同様に顧客タッチポイントのデジタル化・モバイル化を踏まえたビッグデータの利活用、それを実現するためのプラットフォーマー等との企業間連携(エコシステム構築)、個人特性に応じた商品・サービスの提供等様々な課題に直面している。これらの課題を踏まえ、保険業界には5つのグローバルトレンドが存在する。
1つ目のDirect to consumerはインドのデジタル保険会社の Go Digit General Insurance Limitedを代表例に、仲介者を通さず直接消費者に保険商品を提供するトレンドがある。2つ目のVertical dominationは、中小企業マーケットにフォーカスして多種多様な商品を展開させるトレンドで、米国のNEXTが例示される。3つ目のマイクロインシュランス・利用ベース保険のトレンドは、自転車ユーザーの乗車期間中に限定補償しているUKのLAKAが代表例に挙げられる。また、4つ目のData-driven personalizationは、スマートフォンを含むIoTデバイスの普及によりビッグデータ処理で個人特性を明らかにしていくトレンドであり、最後の5つ目は、商品のシンプル化および顧客への透明性を訴求するトレンドで、米国のLemonadeが代表例として挙げられる(図1)。

これらのトレンドは欧米のみならず東南アジアにも存在する。弊社が東南アジアの保険業界向け支援等を通じて、特に従来のマイクロインシュランスの在り方が変容していると考えるため、本稿では東南アジアにおけるマイクロインシュランスのトレンドについて解説する。

図1.保険業界の5つのグローバルトレンド 図1. 保険業界の5つのグローバルトレンド

東南アジアにおけるマイクロインシュランスの現状

モバイルの活用によって、保険会社が多くの顧客を獲得し、固定費率を下げる役割を果たしている

東南アジア各国を対象にした国際保険振興会(FALIA)のサーベイ結果(フィリピン、インドネシア等)によると、マイクロインシュアランスは、単価が小さく低マージン、シンプルな商品と定義され、直近では特にコスト削減のために引受の簡素化やモバイルの活用により固定比率を下げる動きが加速している。

国別普及度
加入率や契約者数において、 例えば、フィリピンでは国民の約 4人に1人がマイクロインシュランスに加入しており、インドネシアでは国民の約2%の加入と比較的少ない。

販売チャネル
銀行とエージェントが最も普及しており、他には共済組合、小売、携帯会社等消費者との接点が近い物理的なチャネルが存在する。

商品
マイクロインシュランスのタイプとしては、定期預金・ローンに付帯する信用生命保険のような強制加入型でシンプルな保険、個人傷害保険の順で普及している。例えば、フィリピンの CARD Pioneer 社は、個人傷害保険や葬儀費用保険、災害保険を組み合わせた SAGIPというセット商品を販売している。

契約加入方法
オペレーショナルコスト削減の観点から保険引受時に医的選択を行わず、オペレーションコスト削減のために、マイクロ保険会社やパートナーが加入手続や支払事務を容易に行えるように商品はシンプルに設計されている。ほとんどの商品は告知書を求めず、チェックシートによる事前スクリーニングのみの加入で、申込手続や事務負荷を削減するペーパーレス化などにテクノロジーが活用される一方、モバイルの活用によって、保険会社が多くの顧客を獲得し、固定費率を下げる役割も果たしている。近年では東南アジアにおいてモバイル起点のマイクロインシュランスの存在が目立つ。

東南アジアのマイクロインシュランスの直近具体例

SNACK by incomeは保険加入を少額から開始できる事で消費者の心理的ハードルを大きく下げている

昨今のマイクロインシュランスは保険会社がモバイルを起点に多様な層に訴求する動きがあり、その動向を知るために、シンガポールでNTUC Incomeが開発したSNACKとマレーシアにてAmMetLifeとInsurTechのBIMAが提携した取組例を紹介する。

(1)SNACK by Income
SNACKはNTUC Incomeが2020年にモバイルアプリを介して販売開始しており、保険料を支払うトリガーを日常の活動(公共交通機関を利用する、運動をする、食事をする等)に紐づけて、補償額を自動的に少額で積み立てていく新しいコンセプトを持った保険商品である。少額でスタートできるという事が消費者の心理的ハードルを大きく下げている。
現在、定期保険、重病、人身事故の3つの基本的な保険商品を提供している。
また、このアプリはシンプルでユーザーフレンドリーな顧客インターフェイス(UI)と顧客体験(UX)を備えており、誰でも簡単にダウンロード可能で、日常の活動に基づいて自動的にカバーされるように登録できる(図2)。

図2.SNACK by incomeのシンプルなUI/UX 図2. SNACK by incomeのシンプルなUI/UX

BIMAは携帯電話を起点とするデジタル決済チャネルを使って、低所得・中流階級向けのシンプルで手頃な家族向け死亡保険を開始した

(2)BIMA (InsurTech) x 携帯通信会社 x AmMetLife Takaful
2010年UKで設立されたBIMAは新興国でマイクロインシュランス、遠隔医療サービスを提供しており、自社のプラットフォームを保険会社と通信会社に提供して、保険の申し込みや保険料の決済を自動化するソリューションを持っている。今回、マレーシアで、AmMetLife TakafulとBIMAが協業の上、携帯電話を起点とするデジタル決済チャネルを使って、低所得・中流階級向けのシンプルで手頃な家族向け死亡保険「BIMA Life Takaful Plan」の提供を開始した。
マレーシア保険市場における課題として、低所得/中流階級向けの手頃でシンプルな保険がない、保険に対する知識や保険の必要性の認識が低い等が挙げられており、この課題に訴求する商品コンセプトになっている。分かりやすく低額な商品コンセプトに加え、携帯通信料の支払い時に保険料支払いが可能である事、多様な決済手段を提供する事で加入・支払のハードルを解消している。
また、BIMAの販売戦略で特徴的なのは、モバイルを通じてマイクロインシュランスを販売するだけでなく、専属エージェントを用いて加入前の顧客に対し商品の説明を行うことを義務化している点も加入率を上げる工夫とされている(図3)。

図3.BIMAの商品概要・加入方法 図3. BIMAの商品概要・加入方法

まとめ:示唆と取るべきアクション

どのような商品コンセプトでどのような顧客に訴求したいのか、実現するためのパートナーはどこか等の論点に答える必要がある

今回は東南アジアにおける先行事例として、モバイルを起点とする販売チャネルの確立や、モバイルの利用を前提とした商品開発を紹介した。2つの事例を通して、マイクロインシュランスは低所得者向けに提供される商品という従来の概念が変わってきていることが理解できた。顧客接点を持つためのパートナーシップ(決済会社、携帯会社、交通機関等)により、従来リーチしにくかった若年層をターゲットにした商品が展開され、マイクロインシュランスは保険理解がハードルになり訴求が難しかった層に手軽な価格でモバイルを用いて簡易に加入できる商品という位置づけに変わってきている。
保険浸透率が先進諸国と比べて低い東南アジアの現状とモバイルの普及を踏まえると、今後もあらゆる層にリーチするためにモバイル起点で少額の保険を提供するマイクロインシュランスのトレンドが続くと予想される。同時にモバイルチャネルの場合、取得可能な膨大な量のデータを用いて個人ニーズを最適化して商品提供する流れも続くと考えられる。

最後に、得られた示唆を踏まえて、保険会社はこのトレンドにどのように対応すべきか、考えられるアクションとアビームコンサルティングがご支援可能な領域を提示する。

表1.マイクロインシュランスに関して、保険会社が取るべきアクション(案)

領域

保険会社が取るべきアクション

商品開発
(コンセプト)

商品コンセプトの設計:消費者ニーズを踏まえて保険料体系、約款構成を含めてどのような特徴を出すか、誰にどのように訴求するか。

オペレーション
(UI/UX)

顧客が求めるアプリUI/UXの定義:(シンプルさ、手軽さ、わかりやすさ等の観点を踏まえる)
低コストオペレーションの実現:低価格商品なので、圧倒的な低コストオペレーションが必要

マーケティング

現状の顧客ポートフォリオの整理(セグメント別)。
獲得したい新たな顧客層の定義 。

エコシステム形成

顧客にリーチするためのパートナーシップ調査・選定(E-commerce、携帯会社、決済PF、Digital broker等)

データ連携

外部パートナーとの効率的なデータ接続(API Gateway等)

今回見てきた事例も含めて、今や保険会社は新しい取組においては特に様々な企業と協業するトレンドにある(エコシステムの拡大)。完全オンライン保険チャネルの割合は現時点では僅かではあるものの、あらゆる産業で非対面チャネルが重要視されるトレンドを踏まえると保険業界でも上昇する動きが予測できる。どのような商品コンセプトでどのような顧客に訴求したいのか、それを実現するためのパートナーはどこか、どのようなUI/UXが求められるのか、このような論点に答えを導き出していく必要がある。

アビームコンサルティングではこれらの活動に関して、日本・アジアの保険業界向け実績を踏まえて保険ビジネスモデルを高度化させるための協業先の探索・実行支援、外部企業とのデータ連携時の構想策定・実行支援等のご支援が可能です。初期的なディスカッションや意見交換の実施等、お問い合わせいただけると幸いです。

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