新機軸の課題に対する解決手法のもう一つの特徴としては、「グリーン」、「レジリエンス」、「デジタル」の諸テーマに個別に取り組もうとせず、一事業の中で連鎖的な解決を試みることが挙げられる。この傾向は、逆説的に各課題を更に細分化・専門化した個別テーマに対する単独的な解決だけでは社会・ビジネス的に大きなインパクトを与えられないという可能性も示唆している。一方で、複数の課題を一挙に解決するには、異なる産業やバリューチェーンの川上から川下に位置するステークホルダーを縦横にまとめ上げる難しさが存在する。このようなDX推進の現場の中軸で、技術や知識を束ねた総合知※6を用いたサービス開発や、大企業なども巻き込んだ商流を構築するのが、オーケストレーションに秀でた総合商社の役割だと考えられる。
住友商事株式会社は住友三井オートサービス株式会社、日産自動車株式会社との間で「自治体向け脱炭素化支援パートナーシップ」を締結した。これは「2050年ゼロカーボンシティ」の実現に向けた各自治体における、地産地消型脱炭素社会の実現に向けた支援の枠組みである。3社の機能・知見によるモビリティ(EV車両の導入やカーシェアの環境構築)とエネルギー(再生可能エネルギー由来の電力の導入)に関する取り組みにより脱炭素化を図り、更にこれを掛け合わせた再エネ電力取引のプラットフォームの導入により、効率的なエネルギーマネジメントを実現し、レジリエンスを強化するとともに、地域内のエネルギー循環を確立することを構想している※7。
また、伊藤忠商事株式会社は大手総合リース会社の東京センチュリー株式会社と合弁会社IBeeTを設立。同社を通じて伊藤忠商事株式会社と株式会社NFブロッサムテクノロジーズが共同で開発・販売する家庭用蓄電システム「Smart Star」をサブスクリプションサービスで提供する。家庭用蓄電システムや中大型の蓄電システムは、再生可能エネルギーの普及や自然災害に対するレジリエンス向上・停電対策の観点から注目されており、将来的な世の中のニーズの拡大に先んじた取り組みとなっている。更にこの事業では将来的にEVリユース電池を活用した中・大型蓄電システム「Bluestorage」や、業務用蓄電池、太陽光パネル、EV本体及び関連機器などのサブスクリプションサービスの提供も視野に入れており、IBeeTが同サービスを通じて保有する分散型電源から生み出される余剰電力をAI「GridShare」を用いて相互に融通するなど、効率的な分散型電源プラットフォームの早期構築も企図している※8。