人的資本に関連する指標は、様々な活動がランクインしている。特に注目するトピックは「従業員の採用」「従業員の定着」「人材の育成」の3点であり、この人材フロー(採用→定着→育成という流れ)の中でダイバーシティ&インクルージョンに関わる考察が見えてくる。
従業員の採用
まず「従業員の採用」においては、性別を問わず優秀な人材を獲得することが重要であると示唆される。特に、「キャリア採用数」(2位/3位)の指標で男性・女性が並んで上位にランクインしていることが特徴的だ。また、女性の採用に関しては「女性採用比率」(23位)がランクインしているが、実数値をみると、日本企業においてその値が50%に達する企業はまだ少ないのが現状である。このことからも、性別を問わない採用の実現を目指す重要性が認識できる。また、当ランキングでは女性の採用に関する指標がランクインしているため性別に着目して言及したが、これは複数社の結果を総合した結果にすぎない。企業は性別に限らず個社の状況に応じて多様性を考慮し、今までリーチできていない層からも積極的に優秀な人材を獲得していくことが重要だろう。
従業員の定着
一方、「従業員の定着」に関する指標では、性別により順位に差が出ている。「退職者数/離職者数」は男性よりも女性の指標がより上位にランクインしており、企業は特に女性の人材をいかに定着できるかが重要であると考えられる。そして、その第一歩となる活動として、「仕事と育児の両立」があげられる。TOP30にランクインした指標の中には「子の看護休暇取得者数」(15位)、「育児休職取得者数(女性)」(17位)、「育児短時間勤務利用者数」(18位)など、女性の定着とは切り離すことができない指標が多く含まれる。このことからも、企業は女性が働きやすい環境を整備し、実際に活用できる環境・風土を醸成していくことが重要であると言える。
また、「仕事と育児の両立」は女性だけではなく、すべての従業員の働きやすさに関係する。「子の看護休暇取得者数」(15位)、「育児短時間勤務利用者数」(18位)は、女性に限らず全社合計数の指標がランクインしており、女性が働きやすい環境の整備が、すべての従業員にとって働きやすい環境へつながっていると捉えられる。まずはどの企業においても、「仕事と育児の両立」を実現し、女性の定着を進めていくことが、企業価値向上への土台となるのではないか。
人材の育成
「人材の育成」という観点では、「総研修時間」(6位)や「従業員一人あたり研修費用/時間」(25位/26位)といった指標がランクインしており、育成の重要性が示された。特に、「海外トレーニー制度利用者数」(24位)は、グローバル人材の育成といった具体的なトピックに対しての潮流を反映している点が興味深い。一方で、アビームコンサルティングが過去に実施してきた分析の中では、人的資本に関してこれ以上に詳細なKPIを設定し、定量的な情報が収集できている企業はまだ多くはない。研修や育成に対しても本来は従業員の属性ごとに方針や目的、それを達成するための施策があるはずで、それを受けとる側の成長も併せて、属性ごとに細分化して成果を確認していくべきである。これは人材の育成に限った話ではなく、人材フロー全体、ひいては企業活動全体で、一貫して施策と効果の繋がりを確認していくべきと言えるだろう。