「System(プロセス・データ)」:まず「Strategy」を支えるデータドリブンのプロセスを設計する
ありがちな間違いは、目につきやすいDX人材不足を課題にあげることや、拙速にDX組織の箱を置いてしまうことである。最初に焦点を当てるべきは「System」である。「System」とはITのツールではなく、ビジネスを動かすオペレーションの“仕組み・基盤”を指している。
ここで重要なのが、いかに体系立てて“使える”データを蓄積するかである。テクノロジーの進化によって多種多様で大量のデータが扱えるようになったからこそ、情報を持つだけでは優位性は築けない。様々なデータを有効に活用して他者にはできない判断をすることや、他者に先んじた実行に繋がるデータを獲得できることが競争優位の源泉の一つになる。そして必要なデータが蓄積されるようゼロベースで業務プロセスを設計し、そこで蓄積したデータからリスクと機会を可視化し、プロセス再構築を繰り返すことで新たな製品・サービスを提供していくことである。DXを実現するための組織や人材も、ここで設計するプロセスやデータに依存する。オペレーションは、極論、人がデータを使うのでなく、データが人を動かす発想の転換が必要である。一般的に、人がどのように業務を動かすのかをモデル化した業務フローを設計する場合が多いが、データがどのように繋がるのか、データフローの設計を優先し、そこに人がどう関わるのかを設計していくという考え方が重要になる。
「Structure(組織)」:全社をリードし「System」全体を企画・運用するDX推進機能が不可欠
組織の末端までデータ連携しビジネスとオペレーションを再構築していくにあたり、DXを現場任せ・既存事業部任せにしない組織作りが重要となる。全社のDXテーマを掲げ、足並みを揃えたDX企画・推進機能を配置することで、DX構想後の実行フェーズで着実に変革を進める組織能力を高めることができる。例えば、市場と接点をもち顧客情報を持つフロントとバックを繋ぐミドルオフィスとしてDX推進組織を置く場合もあれば、企業の中核としてCEO(最高経営責任者)直下にCDO(最高デジタル責任者)を配置する場合や、逆に本社の外にグループ全体のDXを担う新会社を立ち上げ、全社のDXを推進する権限と役割を持つ場合もある。既存ビジネスを根本的に見直すDXにおいて、社内で誰もやったことがない全社のチャレンジを成功させるには、旗振り役・調整役が欠かせない。自社の現在地、DX Visionとして掲げるゴールや方向性、そして「Why」で突き止める自社の存在意義やコア・コンピタンスに合わせた組織構造改革を伴わねば、ありたい姿や戦略は画餅となってしまう。
「Staffing(人材)」:人事戦略を後付けにせずDX構想の一環と捉え、「System」で定義するプロセスを機能させる人材改革を包含する
最後に、経営を支えてきた人材マネジメントの仕組み・制度を再構築し、テクノロジーを活用して新たなビジネスを創出するチャレンジを促す仕組みが必要となる。ジョブ型雇用への移行や、組織の統廃合によって既存の人事制度ではできなかった専門人材の育成や特別な処遇を可能にするなど、方法論は各社様々であるが、ビジョンと人材マネジメントを繋げる具体的なシナリオに落とし込むことが重要となる。人材戦略は後から検討しがちであるが、組織・人材の成長あってのビジネスの成長であり、この一体変革はDXの前提と心得えたい。
こうして「Structure」「Staffing」にメスを入れ、企業としての行動様式や考え方・価値観といった「Culture(文化)」を“意図的に”作り変えていくことまでがDXの範囲に含まれる。