昨今、話題になっているメタバース(バーチャル上の3次元空間)上では、自分のありたい姿で、距離を超えて、リアルタイムに対話するという、新たなコミュニケーションが行われ、互いの関係を深めることができる。
そして、この関係は顧客とブランド・サービスの間の関係性や経営者と従業員、従業員同士の関係性にも通じていて、カスタマー/エンプロイーエンゲージメントを高める、既存の手法にはない可能性を秘めている。
実際、ブランドイメージを表現したメタバース空間を構築し、顧客やファン向けのイベントを開催するなど、新規顧客獲得や既存顧客のファン化を狙った事例が話題になっていることをご存じの方も多いだろう。 例えば、日産自動車のバーチャル新車発表会・試乗体験会や、スマートフォン向け仮想都市空間プラットフォーム「Rev Worlds」での伊勢丹 新宿店のバーチャル出店などもある。
メタバースを活用した取り組みには、日産自動車の例のように「ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)」を活用したものと、伊勢丹 新宿店の例のように「スマートフォン/PC」を活用したものの2つのアプローチが確認できる。
前者のHMDを活用したアプローチは、頭部に装着する特殊なディスプレイによって、没入感をもってメッセージを強く訴求できる魅力がある。ただ現状では、13歳以上の使用が推奨されているといった年齢制限などによりユーザーが少なく、また、どこでも使えるものでないため、メタバースネイティブなアーリーアダプター(初期採用者)がじっくり楽しむコンテンツを提供するといった限定的な使い方にとどまっている。
一方で後者のスマートフォン/PCを活用したアプローチでは、HMDと比較すると没入感は低いものの、広く普及したデバイスであることから、メタバースとの接点の少ないユーザーまで広く対象にすることができる。 過去、同様のサービス(Second LifeやAmeba Pigなど)が普及までに至らなかったケースはあるが、現在は、開発環境やデバイスのスペックといった技術が進歩していること、コロナ禍でWeb会議やオンラインゲームなどに触れる機会が増えて、オンライン上でのコミュニケーションが身近になったこと、そして、ユーザーのオンライン上でのコミュニケーションに対するリテラシーが上がったことが当時とは異なる。メタバースでのコミュニケーションを楽しむための土壌が出来上がっていると言えるだろう。
遠隔地からも参加できる、移動しなくて済むといった、オンラインの利便性を社会全体で実感したことから、コロナ禍における行動制限が緩和された場合でも、オンラインコミュニケーションを使おうとする流れは残ると予想される。その中で「偶発的な出会い」「同じ空間での体験の共有」「アバターコミュニケーション」というメタバースならではの3つの価値をもって、既存のコミュニケーションツール(Microsoft Teamsなど)では再現が難しかった、展示会、ファンミーティング、雑談といった「新たな”好き”や”気づき”が生まれる場」も、今後ますますオンラインで行われるようになると推察される。
そこで、本インサイトでは、スマートフォン/PCを活用したメタバースの価値に焦点を当て、アビームコンサルティング社員を対象にした実証実験の結果から導いた、活用にあたってのポイントを考察する。