昨今、地球環境・資源への危機意識の高まりやSDGsの策定等を背景に、欧州を中心にサーキュラーエコノミー(循環型経済モデル)の取り組みを加速する製造業が増えている。本稿では、サーキュラーエコノミーを取り巻く状況や国内外の事例を紹介しながら、サーキュラーエコノミー推進における障壁や、重要成功要因について考察する。
昨今、地球環境・資源への危機意識の高まりやSDGsの策定等を背景に、欧州を中心にサーキュラーエコノミー(循環型経済モデル)の取り組みを加速する製造業が増えている。本稿では、サーキュラーエコノミーを取り巻く状況や国内外の事例を紹介しながら、サーキュラーエコノミー推進における障壁や、重要成功要因について考察する。
まず、図1にサーキュラーエコノミーを取り巻く主な国際動向を整理する。欧州では、2015年の循環型経済行動計画やプラスチック戦略、エコデザイン指令などサーキュラーエコノミーにおいてリーダーシップをとり、経済成長、グローバル社会におけるプレゼンスの向上に大きな期待を寄せているように見受けられる。対して中国は、これまで「世界の工場」としてグローバルのモノづくりを支えてきたが、周辺諸国からの廃棄物の輸入などにより環境懸念が増大してきたため、2017年に「外国ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」を発表するなど廃棄物の輸入を規制しており、自国における環境負荷の低減に向けて注力している。また、米国では2012年にバイオエコノミーに関する戦略・目標を掲げた「National Bioeconomy Blueprint」を制定しており、バイオテクノロジーへの投資を強めている。背景には、自国資源やイノベーションエコシステムの活用を推進したい思惑が透けて見える。
一方で、日本においては、3R(リユース・リデュース・リサイクル)を主軸とする環境活動を推進してきたが、経済活動としての限界を迎えつつあり、サーキュラーエコノミーへの転換が急務な状況となっている。2020年5月には経済産業省が「循環経済ビジョン2020」を策定したものの、諸外国に比べ遅れをとっている感は拭い去れない。
こうした状況を打破していくためには、企業側がより積極的に取り組みを加速させていく必要があると考える。特にモノづくりを通して環境技術やこれまでの3Rにおける経験を蓄積した日本の製造業においては、これらのノウハウを上手く活用できれば、グローバルにおける新たな競争力の源泉になると考える。今後の経営アジェンダとして、ぜひ注力いただきたい。
各国の動向については前述の通りであるが、企業単位でも取り組みは進んでいる。サーキュラーエコノミーの三原則(エレン・マッカーサー財団)と製造業におけるバリューチェーンのマトリクスにより、国内外の主な先行事例の取り組みを類型化し、整理した(図2)。
廃棄物・汚染などを出さない設計や、製品や資源を使い続けるという観点では、国内外ともに先行事例は多数存在する。一方で、自然のシステムを再生するという観点では、特にバリューチェーンの上流においては効果が創出されているような取り組みがまだ少ないように見受けられる。その背景として、企業単独での取り組みが困難であることや、技術革新、まとまった投資が必要であることなどに起因しているのではないだろうか。
先行事例からは取り組みを推進する上で、重要な要素が2つ見て取れる。1つは、デジタルテクノロジーの活用だ。3Dプリンターによる製造や機械学習ロボットによるリサイクル素材の分別、IoTを用いたサブスクリプションサービスの提供など、デジタルテクノロジーは、今後一層サーキュラーエコノミーに欠かせない存在になっていくだろう。もう1つは、外部との連携である。合弁会社の設立や、技術を持った企業の買収、サプライチェーン上での連携など、迅速な立ち上げや取り組みの円滑化、効果の最大化を目指すためには外部との連携も積極的に実施していくべきであると考える。
次章では、サーキュラーエコノミー推進における課題と重要成功要因を整理する。
ここで、改めてサーキュラーエコノミーに取り組む意義を共有したい。俯瞰的に捉えれば、企業のサステナビリティの前提として、地球環境のサステナビリティにおける課題解決は必須である。また今後、株主や消費者など企業をとりまくステークホルダーがサステナビリティへ配慮したビジネスモデルや商品を支持していく傾向はさらに高まっていくだろう。それらの要請に応え、これまで以上に環境負荷を低減し、取り組みを持続的なものにしていくためには、経済的な価値も創出し続ける必要がある。こうした状況下において、企業が経営・事業戦略の一環として、サーキュラーエコノミーに取り組むことは必然であると考える。しかしながら、環境負荷低減と経済的な価値創出の両立は簡単ではなく、サーキュラーエコノミーを推進したくも障壁にぶつかっている日本の製造業も少なくない。図3にサーキュラーエコノミー推進における5つの課題と、それらをの乗り越えるための6つの重要成功要因を整理した。
推進におけるプロセスにおいて、少なくとも意識・知識・常識・組織・認識の5つの観点から課題が想定される。特に日本の製造業においては、高度経済成長期以降の大量生産・大量消費によって成長を続けてきた背景から、「意識」や「知識」が大きな障壁となっていると考える。これまでのサステナビリティの取り組みで十分、収益性への貢献までは期待していない、投資が伴うのであればなおさら躊躇する、そもそも環境負荷低減と収益性貢献の両方を成立させる方法が分からない、専門部署は立ち上げたがプランニングはこれから、という声があるのではないだろうか。
もちろん、いきなりサーキュラーエコノミーに取り組むことは難しい。まずは社内を見渡し、ビジネスやプロセスのムダ(収益化の源泉)を棚卸し、いかに価値に変えていくか、その未来の絵姿をデザインすることが肝要である。そうしたステップを踏むことで社内における共通認識の醸成や巻き込みを進め、実現可能性の判断、期待効果の算定など、取り組みの前提条件を成立させ、ネクストアクションへとつなげていくことが重要だ。
また、絵姿を描く際には、経営・事業戦略との統合・整合、イノベーション思考を前提として、前章でも述べたデジタルテクノロジーの活用や外部連携に加え、最終的な収益性への貢献を意識すれば、顧客視点に立った価値の創出なども視野に入れて検討することが望ましい。そのためには、サプライチェーンやバリューチェーン、自社のビジネスモデルや業務プロセスをいかに変革していくのか、実践的な取り組みと合わせて検討していくことが求められる。例えば、製造プロセスにおいて不良品が多すぎる場合、IoTを活用して不良品率を低減する試みや、不良品を原料として活用できる外部と連携すること、さらには一定の基準を満たさないものについて、説明責任を果たした上でアウトレット品などとして消費者に販売する(D2Cビジネスの立上げ)なども想定できる。まずはこうした資源循環シナリオのデザインから着手することを推奨したい。
アビームコンサルティングは総合コンサルティングファームとして、戦略策定から仕組み・プロセスの構築知見、幅広い外部ネットワーク、デジタルテクノロジー活用ノウハウを有している。その強みを生かしつつ、日本の製造業における環境負荷低減と収益性貢献を両立する未来の絵姿のデザイン、および実行支援を通してグローバルでの競争優位性の確立や企業価値向上の支援を通じてサステナブルな社会の実現に貢献していきたいと考える。
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