では、日本型チェンジマネジメントの5つの要諦(図1)について1つずつみていこう。
① 社員を主人公にしたストーリーを描く
変革の結果、業務がXX%効率化されるというような会社としてのゴールだけではなく、そのことが社員一人一人の日々の仕事やキャリアにどのような変化をもたらすのか、どのような幸福な未来が待っているかを具体的に描き、社員が自分事としてイメージできるようにする。ある企業では、変革後の業務イメージVTRをわざわざ作成したという。社内の関係部門・取引先・顧客にまでインタビューをした上で業務イメージの解像度をあげることで当事者の理解・目的意識を飛躍的に向上させることに成功した。
② スキル・ノウハウの補完により「自分たちでもできる感」を醸成する
変革そのものを実行していくことには日常業務とは異なるマインド・スキルセットが必要であり、変革後のビジネス・業務には今と異なるスキルセットが必要となることも多い。そのケアを十分に行わないと、変革そのものについて「自分たちにできるわけがない」というネガティブな感情を引き起こし、変革への消極的・否定的な姿勢を生み出してしまう。
また、変革に対する漠然とした不安感は、自分の仕事がなくなるのではないか・自分が変化に対応できないのではないかというスキル・能力面の不安に起因することも多い。
従って、変革及び変革後の業務においてどんなスペックの人が求められるのか、そのスペックを満たすためにどのようなラーニング・リスキリングを行うべきかを定義し、社員に示すことは、変革への抵抗感を減らし、むしろ積極的かつ継続的な参加姿勢を引き出すことにつながる。
③ 変革の中で、社員の持つ現場課題感も一緒に解消できるようにする
社員は、変革テーマだけでは解決されない実務上の課題/悩み(足元の課題)を多く抱えており、それを差し置いて別の課題設定をされると、「マネジメント層は何もわかっていない」「自分たちの状況は改善しそうにない」と感じてしまう。変革テーマを実現する過程で彼らが抱える「足元の課題」についても目を向けていく(同時に解決していく、もしくは道筋をつけてあげる)ことが、社員の目線に立つことであり、現場メンバーの変革機運を高めるためには欠かせないことである。
④ マネジメント層(変革を企画する側)も変革の当事者になる
戦略・実行計画を踏まえ、マネジメント層が現場と共に、実現時にどのようにビジネスモデルや業務がかわるのか、具体的な業務の流れがわかるレベルまで落とし込み、共に実行していくことが大切である。自身が答えを持てていない・具体化できていないことを相手にやれと言っても、相手もわからないし教えることもできない。
まずはマネジメント層が変革プロセスを実行し、その背中を見て現場が自発的に動いていくようになければならない。
この過程を通じてマネジメント層の変革に対する本気度・意図が初めて社員に正しく伝わると共に、マネジメント層自身がそれまで把握できていなかった現場の課題感・現実感を初めて認識し、戦略・実行計画にフィードバックすることも可能になる。
一方、全ての実行にマネジメント層が関与することは現実的ではなく、現場に完全に任せる部分が出てくることが当然想定される。この場合、改革の一丁目一番地や改革初期段階には関与し、それ以外は任せるという濃淡の付け方をする。また、任せる部分については失敗を許容する姿勢を示し、うまくいかないことを早急に検知して必要な支援や介入をマネジメント層が行う仕組みを整えておくことが必要である。失敗を許容する姿勢を示すこと自体が“マネジメント層自身が変わった”ことを現場に示すことになり、評価や失敗を恐れて保守的になりがちな現場の取組み姿勢を変えることができる。
⑤ 小さな成功を繰り返す
社員のやる気を継続させるには、早めの小さな成功を作り出すことで変革に対しての期待・信頼を大きくしていくことが必要である(図2)。
このアプローチは、社員の巻き込みという点でも有効である。ステップバイステップで進んでいく方が社員も変化に適応しやすく、早い段階で目に見える効果が出ればその後のモチベーション向上にもつながるからである。