自動車業界
まず、CASEという潮流において、「従来の車」が「次世代自動車」に進化を遂げた。それにともなって、EVのバッテリー等の熱マネジメントが必要となったことからバッテリー冷却システム、自動運転に対応するために自動運転制御システムが新たに必要となった。それらに対応するために、新たな部品が求められるようになっている。
この新たな部品を狙っていく方向性が、「① 次世代自動車向け部品開発・拡販」。この戦略は、これまでのように特定の自動車メーカーの特定のモデルへの個別アプローチではなく、モデルベース開発を前提に他自動車メーカー・他モデルも狙っていけるようにすることが前提となる。さらに、部品単位ではなくプラットフォームやシステム単位で狙っていくのが「② 次世代自動車プラットフォーム/システム開発」。他業界からの参入も相次いでいるEVプラットフォーム等がこの例である。
また、メガサプライヤーがこれらのプラットフォームだけなく、車1台分の製造も視野に入れていることから、「③ メガサプライヤーへの部品供給」という方向性もある。
さらに、自動運転車などの次世代自動車が普及していくには、その安全性を車内外で見守るサービスなどの支援サービスが想定される。EV向け充電サービス等も含めて、「④ 次世代自動車向けサービス開発」という方向性である。
ここまでは、自動車業界の中で、新たなチャンスを掴む4つの方向性である。
他業界
次の3つの方向性は、自動車業界の外に目を向ける基本戦略である。日系自動車サプライヤーが他国・他産業以上の困難に直面すると想定されるのが、ここからの3つの方向性である。
まず、自動車業界で培った自社技術・製品を、ドローンのような他産業に転用する方向性が「⑤ 技術・製品をもって他業界に進出」である。事業ポートフォリオ転換として、想起しやすい戦略である。一方で、図1において逆三角形で描いているように、これまでの「部品サプライヤー」での位置づけでの参入が想定されやすいが、後述する自動車業界の特殊性がない中で「部品サプライヤー」としてのポジションを確保していくことはチャレンジが大きい戦略でもある。
モビリティサービス
次に、図1において上部にモビリティサービスの世界観を逆三角形で描いている。この世界観では、これまで自動車業界の頂点に君臨していた「自動車」が、1つのデバイスでしかなく、ベースに存在している。モビリティサービスは、複数のサービス領域・事業者を横断して最適化され提供されるため、情報連携基盤が同じくベースとなる。その上に、課金や認証等のプラットフォームが存在し、その上でカーシェア、配車、フードデリバリなどの個々のサービスが提供される。消費者はこのサービスを利用することになる。図の配置から明らかなように、自動車部品サプライヤーがモビリティサービスに進出することは、これまでのポジションとは真逆のポジションを取ることを意味する。チャレンジは大きいが、これまでとは違う戦い方に挑むことで企業変革にもつながっていく方向性が「⑥ モビリティサービスの展開」である。
さらに、モビリティサービスが増えてくると、そこで使われる「サービスカー」の台数が増えてくることになる。そこで、それらのサービスカーに対してメンテナンス等の支援サービスを提供するのが、「⑦ モビリティサービサー向けサービスの展開」という方向性である。
以上の7つの基本戦略が、日系自動車部品サプライヤーが生き残りをかけて事業ポートフォリオを転換する方向性である。もっとも、全ての企業が7つの基本戦略を自由に選べるわけではない。例えば、アプリ系のソフトウェアやメカトロニクスに関する能力を有しているか否かによって、とりえる戦略には制約がでてくる。