自動車産業における「ソフトとハードの分離」をテーマにした本インサイトでは、2回にわたって解説している。第1回では、「ソフトとハードの分離」がもたらす自動車産業への影響を解説した。第2回では、「ソフトとハードの分離」の変化をチャンスと捉えることで、ビジネスモデル変革に向けて日系自動車部品サプライヤー(以下サプライヤー)が取るべきアクションの方向性を示す。
自動車産業における「ソフトとハードの分離」をテーマにした本インサイトでは、2回にわたって解説している。第1回では、「ソフトとハードの分離」がもたらす自動車産業への影響を解説した。第2回では、「ソフトとハードの分離」の変化をチャンスと捉えることで、ビジネスモデル変革に向けて日系自動車部品サプライヤー(以下サプライヤー)が取るべきアクションの方向性を示す。
武藤 彰宏
「ソフトとハードの分離」によって、自動車OEM(以下OEM)が、より水平分業に向かい、アフターサービスを中心とした新しいビジネスモデルへと戦い方を変えていくことで、サプライヤーのビジネスは必然的に大きな影響を受ける。
①水平分業と部品のコモディティー化
ソフトとハードの分離開発が適用される部品では、ハード開発とソフト開発の水平分業が進むだけでなく、OEMで定義されたプラットフォームにおける開発仕様の標準化によって、摺り合わせ開発が少なくなり、部品がコモディティー化しやすくなる。
そのため、サプライヤー間での差別化要素が減り、よりコスト競争力、開発スピードが製造で選ばれる要件になっていく。
②新しいビジネスの創出
OEMの考えるライフサイクルを通じて継続的に収益を生み出すビジネスモデルによって、サプライヤーにも新しいビジネスの機会が生まれる。OTA(Over The Air)による車載アプリの提供、ソフトだけでなくハードも一緒に交換するアップグレードサービス、モビリティーサービスなど、新たなビジネスモデル展開の可能性が広がる。
サプライヤーにとって、自社のビジネス変革を進めるチャンスでもあり、生き残り戦略としてこれを機会に新しいビジネスモデルへと踏み出す機会である。
ビジネスモデル変革は、サプライヤーにとって生き残りをかけるために避けて通れない経営課題である。
OEMが考えるビジネスモデルに基づくと、サプライヤーが取れるポジションは9つ考えられる。なお、必ずしも1つだけのポジションを取るとは限らず、事業規模や戦略によって複数のポジションを取ることも考えられる。
A. ファームウェアプロバイダー
ソフトウェアエンジニアリングを通じて車載ファームウェアを提供する。ファームウェアだけでなくクラウドプラットフォームプロバイダーを兼ねる場合も考えられる。
B. 車載プラットフォームプロバイダー
電気・電子アーキテクチャーとソフトウェアのプラットフォームを提供する。統合ECU(電装基板)とそのECU上で動作するソフトウェアプラットフォーム全体が対象となる。
C. キーデバイスプロバイダー
バッテリー、モーター、LiDAR(Light Detection And Ranging)といった次世代自動車のキーデバイスを提供する。他の部品との違いは、コア技術が確立されていれば、次世代自動車開発での成長が見込まれるため、ビジネス上、「ソフトとハードの分離」の影響を受けにくい。
D. 次世代自動車部品プロバイダー
サプライヤーの既存ビジネスに最も近いポジションで、次世代自動車の新技術による成長を期待して一般車用部品の製造を続ける、もしくはモビリティーサービス向け車両のための専用部品を開発・製造する。モビリティーサービス専用部品は、例えば、ライドヘイリングサービス車両の後部座席に設置される広告表示用の窓ガラス、車内で寛ぐためのリビングシステムなどが考えられる。
E. クラウドプラットフォームプロバイダー
OTAで提供する車載用ソフトウェア、モビリティーサービスのためのクラウドプラットフォームを提供する。
F. 車用アプリプロバイダー
既販車に対して車用アプリケーションの提供を行う。OEMが提供する車載プレイストアを搭載した車であれば、OEM問わず全て対象顧客となりうる。
G. モビリティーサービサー
モビリティーサービスの提供を行う。クラウドプラットフォームといった情報連携基盤を構築し、他産業の事業者との連携が前提になる場合が多い。
H. アップデートモジュールプロバイダー
既販車に対して最新の安全装備や内外装部品のリフレッシュを目的とした追加・変更モジュールを提供する。OTAは、あくまでソフトウェアのみであり、ハードウェアで更新が制約される。そのため、ソフトウェアとセットでハードウェアモジュールの提供を行うビジネスが見込まれる。既にKINTO※1が同内容のビジネスを開始している。
I. メンテナンスパックプロバイダー
モビリティーサービス専用車に対して、メンテナンス用のパッケージを提供する。既存のフリート用には機能を絞っている低グレード車が使われることが多かったが、モビリティーサービスは自動運転といった先進技術、一般車と異なる専用システム、部品が使われることが見込まれる。
J. 異業種参入
自社のコアアセットを生かして自動車だけでなく他産業、新市場への参入を目指す。
自社のビジネスを変革するためには、自社のポジションと共に、ビジネスモデルを描く必要があるが、自社でビジネスのバリューチェーン全てをまかなうことは難しいのが実態である。サプライヤーの多くは、リソースやアセットが現業に最適化されている場合が多いからである。そこで必要になるのが他社とのアライアンスである。
アライアンスを組むことで、描いたビジネスモデルにおいて、自社が持たないバリューチェーンを補完することができ、自動車OEMに組み込まれたビジネスに比べて、サプライヤーがビジネスの主導権を持つことができる。
例えば、アップデートモジュールプロバイダーの場合、中古販売業者とアライアンスを組むことによって、中古車販売業者が自動車を買い取り、サプライヤーが部品を取り付けることによって、付加価値を向上させ、部品販だけでなく、販売価格と買取価格の差異でマージンを取るビジネスが考えられる。
このように、「ソフトとハードの分離」はビジネスモデルの変革の機会をもたらし、これを機にビジネスを変えるチャンスとなりうる。
本インサイトで解説してきた「ソフトとハードの分離」の潮流は不可逆である。アビームコンサルティングでは、サプライヤーにとって、この不可逆の潮流は抗うべきものではなく、その力を自社のビジネスモデル変革の端緒とするべきものだと考えている。
そのためには、現業の製品が、どの程度、「ソフトとハードの分離」の影響を受けるのかを冷静に見極め、その影響力を活用する方策を早急に検討する必要がある。その際、これまでの製造を中心とした視点から、エンドユーザーへの提供価値を中心とする視点へと転換することができるか否かが、ポジションを変えられるか否かを分ける分水嶺となるだろう。
アビームコンサルティングでは、自動車業界はもちろんのこと、幅広いインダストリーにおける実績を有しており、各社が保有する経営資源の棚卸とそれに基づくポジションやビジネスモデルの検討支援が可能である。
また、戦略策定領域の実績も多く、方法論やスタートアップとのリレーションなども保有しており、サプライヤーのビジネスモデル変革という挑戦へ、リアルパートナーとして力強い支援をしていく。
KINTO Webページより
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