本章では、海外勘定系システムを「資金の使える化」を支える5つの層に分解し、どこに既存資産を残し、どこを再設計すべきかを見極めるための共通言語を提示する。
既存のレガシー資産(勘定系)を活かしたモダナイゼーションを検討するにあたり、システム全体をブラックボックスとして捉えるのではなく、各機能の役割を分解して理解することが不可欠である。ここではその前段として、海外勘定系システムを「資金の使える化」を支える5つのレイヤー(層)に構造化して定義する。
なお、コアバンキングシステムは各国の特性に応じたソリューションが採用されており、一律には論じにくい。ただし連結会計などの実務を踏まえると、GL層(総勘定元帳)を分離して捉えるほうが日系銀行の実態に即することから、本稿では、コアバンキング層とGL層を分けて論じる。
① チャネル層
顧客や外部システム(ERP/TMS)との接点である。従来は「残高照会」や「振込指示」の画面であったが、現在は「リアルタイム残高をベースに資金移動を動的に制御する」オペレーション基盤へと進化している。
② API/連携層
外部接続と内部接続を制御し、ゼロトラストセキュリティを担保する層である。ここでは、外部ネットワークと内部システムをつなぐ通信(南北通信:North-South traffic)をAPIゲートウェイが担い、システム内部の機能(マイクロサービス)間の通信(東西通信:East-West traffic)をサービスメッシュが制御する。これにより、オープンAPI公開等の外部接続を推進しても、銀行システム全体の堅牢性を維持できる。
③ 業務ロジック層
預金、貸出、決済、流動性管理など、銀行機能のコアロジックを担う。ターゲット・バランシングやノーショナルプーリングの金利計算ルールなど「使える化」に直結する機能が集約される。この層を独立したサービスとして分解(デカップリング)できるかが、ビジネスの俊敏性を決定づける。
④ コアバンキング(勘定系)層
残高と取引記録を保持する中核であり、とりわけサブレッジャー(副次台帳)の設計が鍵を握る。近年は、サブレッジャーが本体から切り離され、「Ledger-as-a-Service(LaaS)」としてAPI経由で独立稼働する形態も登場している。 また、リアルタイム処理の設計原則として、状態を上書きせず出来事(イベント)を追記し続ける「イベントソーシング」と、データの更新処理(Command)と参照処理(Query)の責務(モデル)を分離し、高頻度な更新と高速な照会を両立させるCQRS(Command Query Responsibility Segregation)アーキテクチャが有力なアプローチとなっている。この設計により、勘定系本体の安定性を損なうことなく、照会性能とリアルタイム性を両立できる。既存資産を止めずに俊敏性を獲得できる点に、経営上の価値がある。
⑤ データ/GL(総勘定元帳)層
公式帳簿としての整合性を担保するGLと、意思決定を支えるデータ基盤である。リアルタイムな流動性予測を機能させるためには、前段の4つの層から生成されるデータをタイムラグなく集約・分析できる構造が不可欠である。