外国銀行の先行例が示唆する“使える化”へのアプローチ-顧客との深い関係を生かし 後追いではない独自モデルを追求せよ

インサイト
2026.06.29
  • 銀行・証券
  • DX
GettyImages-1276312812

グローバルトランザクションバンキングの競争軸は、口座・決済を正確に処理することから、企業が必要な場所や時間、通貨で資金を使える状態を作ることへ移っている。外国銀行がこの領域を中核事業として強化した背景には、歴史的な拠点戦略に加え、金融危機後の規制強化と収益構造の転換がある。本稿では、外国銀行が先行する構造的背景と具体例を踏まえ、メガバンクが現在の投資制約やシステム構造の現実に向き合いつつ、独自の競争力を高めていくためのアプローチを考察する。

※週刊金融財政事情 2026/6/16号に寄稿したもの

執筆者情報

  • 渡部 拓也

    渡部 拓也

    Director
  • 古川 理恵

    古川 理絵

    Manager

競争軸は“預かる”から“使える状態にする”へ

トランザクションバンキングは、法人顧客の決済や資金管理、貿易金融、流動性管理を支える銀行業務の基盤であり、キャッシュマネジメント(資金管理)や国際送金、外国為替、サプライチェーンファイナンスなど幅広い業務を包含する。従来、預金や送金、外為、貿易実務を正確かつ安定的に処理することが銀行の提供価値の中心だった。

しかし、企業活動の国際化とサプライチェーンの複雑化が進む中で、顧客が銀行に求める価値は変化している。今日の企業財務にとって重要なのは、単に資金が銀行口座に存在することではなく、必要な国で、必要な時間に、必要な通貨で、事業に使える状態になっていることだ。

グローバルに優位性を持つ外国銀行は、顧客体験を「各国の日中に資金が使えること」と定義してきた。各グループ会社の資金過不足を調整して資金効率向上を図る「グローバル・プーリング」、複数の口座間で自動的に資金移動を行う「キャッシュ・コンセントレーション」などは、単なる資金管理サービスではなく、世界各地に散在する余剰資金を顧客の営業時間に合わせて稼働させる仕組みである。

例えば、米シティグループは、グローバル資金を必要な場所・タイミングでリアルタイムに活用できることを訴求している。英HSBCは、50を超える市場で流動性ソリューションを展開している。

これに対し、日本の銀行は国内決済や外為、貿易金融の事務品質で高い信頼を築いてきたが、海外トランザクションバンキングでは資金を安全に預かり、日末・月末で正確に管理する発想が相対的に強かった。メガバンクが培ってきた確実な残高・事務管理という強みをもとに「資金を機動的に使える状態にする」という領域へどのように発想を転換させていくのか。従前のアプローチの差異が、いまのグローバル競争でプレゼンスの違いをもたらしている。

中核事業として投資を重ねてきた外銀

外国銀行がトランザクションバンキングを戦略の中核に位置付けるに至った背景には、各行固有の歴史的経緯と、金融危機後の構造変化がある。シティや HSBC、米JPモルガン・チェースはそれぞれ異なる歴史的起点を持ちつつも、広範な拠点網と通貨基盤を生かし、決済・貿易金融・流動性管理を一体で提供する体制を早くから築いてきた。シティは多国籍企業の海外進出支援、HSBCは貿易金融、JPモルガンはホールセール銀行の収益基盤強化を背景に、これらの領域を中核事業として発展させた。

2008年の金融危機は、この潮流を決定付けた。バーゼル3に代表される規制強化により、トレーディングや投資銀行業務のリスク資本効率が悪化する一方、トランザクションバンキングはリスクアセットが相対的に小さく、手数料収入と営業性預金による安定収益が見込める事業として再評価された。企業側でも、金融危機時の流動性枯渇を経験し、取引銀行に対して資金の可視性とリアルタイム統制を強く求めるようになった。

とりわけ流動性規制(LCR や NSFR)の導入は、法人顧客の流動性預金の価値を押し上げた。トランザクションバンキングの質を高めれば、企業は日常の資金決済のために預金を滞留させ、その預金が規制上の安定調達として認められる。

大規模な銀行ほど規制上必要とする預金量は大きく、この好循環がトランザクションバンキングへの継続的かつ大規模な投資を支えてきた構造的要因である。こうして多くのグローバル銀行では、トランザクションバンキングが従来の融資等に付随する業務という位置付けから、収益ポートフォリオの安定化を支える極めて重要な事業へ、その存在感を大きく高めていった。

メガバンクは、海外展開の出発点が日系企業向けの融資支援にあり、欧米の主要行と比較して、自立的な預金基盤を広範に築くことが難しかった。特に決済通貨の主軸である米ドルの調達力において米国本拠の銀行との構造的な差は大きく、グローバルな資金プーリングを大規模に展開する上での制約となっていた。

加えて、この領域は欧米銀行がグローバル CMS(キャッシュ・マネジメント・サービス)や流動性管理プラットフォームへの先行投資を長年重ねてきた分野である。そのため、後発となるメガバンクが同様の顧客体験を迅速に構築・提供していくためには、効率的な投資戦略と相応の開発期間を要する状況にある。こうした歴史的経路と米ドル調達力の差が、今日の競争環境におけるそれぞれの得意領域の差異を形成する背景となっている。

三つの側面が競争優位の源泉に

外国銀行の具体的な優位性はなにか。次の三つの側面に整理できる。

第一に、拠点網と決済ネットワークを流動性管理の商品設計と一体化させている点である。ある国の子会社に余剰資金があっても、別の国の子会社が日中に支払いを実行できなければ、グループ全体の資金効率は低い。JPモルガンの複数通貨ノーショナル・プーリングは、余剰資金を他通貨・他口座の不足に充当し短期借入れ依存を減らす仕組みであり、グループ内資金を事業に使える流動性資金へ転換する発想を体現している。

第二に、リアルタイム化の進展である。シティは24年に新サービス「Citi Real-Time Funding」(シティ・リアルタイム・ファンディング)を発表し、顧客が定めたルールに基づくクロスボーダー口座間の自動資金移動を、日中や時間外、週末を含めて可能にした。25年にはプラットフォーム「Citi Token Services」(シティ・トークン・サービス)と24時間365日の米ドルクリアリングソリューションの連携によるクロスボーダー即時決済の構想も打ち出している。これまでの発想を変え、銀行が顧客の事業時間に合わせる方向へ競争が進んでいる。

第三に、AI(人工知能)や API(Application Programming Interface)を顧客の業務プロセスと銀行機能を接続する基盤として活用している点である。決済失敗の予兆検知や入金消し込みの自動化、キャッシュフロー予測、制裁、AML(アンチ・マネー・ローンダリング)チェックの高度化など、顧客の資金運営を安全かつ迅速にする領域でのテクノロジー活用が加速している。JPモルガンは決済例外処理の AI 自動化を推進し、シティも法人顧客向けに AI ベースのキャッシュフロー予測機能を実装するなど、具体的なサービスとして顧客に提供され始めている。

なお、トークン化預金などブロックチェーン活用の試行も一部で始まっているが、現時点ではグローバルトランザクションバンキング全体に変革をもたらすような段階にはない。次世代金融インフラを再設計するような「モダナイズ」の観点で、将来の発展可能性を注視すべきテーマにとどまっている。

壁に直面する邦銀が取るべき現実的な針路

メガバンクがこの潮流を捉える上でのカギは、グローバル CMS を「見える化」の仕組みから「使える化」の仕組みへ進化させることである。各国の残高照会やリポーティングは不可欠な基盤だが、さらなる競争優位の確立に向けて、顧客が各国口座に散在する資金を把握する必要がある。さらには、必要なタイミングで資金を移動し、支払いに充当し、資金不足を予防し、不要なバッファや外部借入れを削減できる環境の提供も求められる。

例えば、日本の18時時点で各国の最終残高を確認できたとしても、翌朝の現地営業時間にその資金を他国で即座に使えるか否かには、実務上のギャップが存在する。この「見える」から「使える」へのステップアップを果たすことが変革の本質である。具体的には、リアルタイムまたは準リアルタイムの資金移動やターゲット・バランシング、クロスカレンシー・スイープ、支払い連動型ファンディングを段階的に組み合わせることが欠かせない。

もっとも、外国銀行の取り組みをそのまま模倣することは現実的ではない。JPモルガンは24年に約170億ドル、25年には約180億ドル規模のテクノロジー投資の計画を示しており、メガバンクがターゲットとすべき投資の絶対量やアプローチの前提は大きく異なる。加えて、日本の銀行の海外システムには国・拠点ごとに導入時期や仕様が異なるレガシーシステムが存在するケースがある。これらを全世界一斉に大規模刷新することは、コストや期間、移行リスク、各国規制対応の面で容易ではない。

従って、既存の勘定系や外為、決済、貿易金融システムを生かしながら、その外側にデータ連携層や API 連携層、流動性管理のルールエンジン、顧客向けダッシュボードを段階的に重ねるアプローチにより使える化を図ることが現実的な対応といえる。重点的に取り組む顧客層や地域、通貨、商流を絞り込み、効果を実証した上で標準化・横展開する段階的変革が求められよう。

日本関連商流を起点に金融インフラの構築を

メガバンクがグローバル市場で確固たる優位性を発揮するにはどうすべきか。その中核となり得るのが、グローバルに展開する日系企業への資金管理支援である。

日本本社との長年の取引関係を通じて蓄積した業界知見や取引慣行への理解、与信判断の蓄積は、外国銀行には容易に複製できない資産である。こうした強みを持つメガバンクだからこそ、子会社の資金効率や為替リスク、会計税務、ガバナンスを統制したい親会社と、現地の商流に応じて迅速に資金を使いたい子会社との緊張関係を理解し、資金の集中や配分、日中利用、通貨変換、グループ内貸借、会計税務処理を一体で設計できる。

また、想定されるターゲット顧客は日系企業に限定されるものではない。日本との貿易を行う現地企業に対しては、信用状(L/C)確認、売掛債権買い取り、為替ヘッジ、円建て決済、日本企業の信用情報に基づくリスク判断などの機能を組み合わせた多角的な支援が可能となる。

日系大手メーカーや商社をバイヤーとする現地サプライヤーであれば、サプライチェーンファイナンスを通じて売掛金の早期資金化を支援し、バイヤー側の支払い条件最適化とサプライチェーンの安定化を同時に目指すことができる。日本関連取引を持つ外資系グローバル企業に対しても、日本の決済や外為、貿易金融、規制実務に通じたパートナーとして、さらなる関係深化の余地が存在する。

メガバンクの海外拠点は、従来の日系企業支援という重要な役割を礎としつつ、日本関連商流全体を支える金融インフラへとその機能をさらに拡張していくことが求められる。現地銀行と正面から総合取引を争うのではなく、日本企業との商流や日本向け貿易、日系企業のサプライチェーンという接点に金融機能を重ねることで、独自のポジショニングが可能となる。

日系企業のサプライチェーン等への金融機能の提供を目指す場合に重要となるのが、その提供価値をどのように顧客業務へ組み込むかである。その実現手段として挙げられるのが、法人向け「プロセス統合型バンキング(注)」の推進である。従来の「プロダクト型バンキング」が個別商品を銀行チャネル経由で提供するのに対し、プロセス統合型バンキングは、顧客の業務フローそのものに金融機能を組み込む点で本質的に異なる。

海外での事業基盤が主に法人領域にあるメガバンクにとって、エンベデッドバンキングの主戦場は、この法人向けプロセス統合の領域にある。顧客が銀行ポータルを開いて操作するのではなく、日常の業務画面の中で資金移動や貿易金融の判断を行える状態を築くことこそが、今後の重要な差異化要因となる。AIの活用でも、決済失敗の予兆検知や資金不足の予測、入金消し込み、キャッシュフロー予測など、顧客の資金運営を安全かつ迅速化する領域への重点的な投入が有効である。
 

※法人顧客の統合基幹業務システム(ERP)やトランスポーテーション・マネジメント・システム(TMS)のほか、会計や購買、販売、物流、貿易に係る管理システムに、支払いや入金、為替、貿易金融、サプライチェーンファイナンスの機能を API 連携で組み込み、顧客の業務プロセスの中で金融処理を完結させるモデル。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ