【イベントレポート】M&Aの成否を分かつ「統合設計」——PMI成功の4つの要諦とは

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2026.04.28
  • M&A
  • 経営戦略/経営改革
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M&Aの件数・規模が拡大を続ける中、統合後に期待通りの成果を得られない企業が過半数を占めるという現実がある。なぜ統合は成果に結びつかないのか。そしてどのような企業が成功しているのか。
2025年11月に開催されたセミナー「M&Aマネジメント2025」では、アビームコンサルティング Corporate Finance & Transformation Strategy Unit Principalの松浦洋平が、「M&A成功の鍵を握るPMI——統合を成功に導く四つの要諦」をテーマに講演を行った。
本稿では、当社が実施したPMI実態調査の知見を交えながら、講演内容のポイントをダイジェストで紹介する。

(本稿は、本セミナーの内容をもとに再構成しています)

※講演動画はこちらから

執筆者情報

  • 松浦 洋平

    松浦 洋平

    Principal

成果を実感できない企業が過半数という現実

図1 M&Aの目的を達成した企業は45%——統合後の成果実感が乏しい現実

アビームコンサルティングが実施したM&A実態調査(対象:上場・非上場企業のM&A経験者約300名)によれば、自社のM&Aを成功と捉えていると回答した企業は全体の45.3%にとどまり、残る54.7%は成果を実感できていないと回答した。つまり、過半数の企業が統合後の成果を実感できていないという現実がある。
松浦はこの背景を次のように分析する。「多くの企業ではPMIを一過性のプロジェクトとして扱い、本来の目的である統合によって価値を実現するための設計が欠けています」。PMIとは本来、戦略を実現するためのプロセスである。しかし現実には、戦略と実行が切り離されたまま進んでしまう。この『構造的な分断』こそが、成果を生みにくくしている根本要因だと指摘する。
特に顕著なのが、経営層と現場の成功実感の乖離である。経営層で「成功した」と回答したのはわずか15%であるのに対し、ミドルマネジメント層では約半数が成功と評価している。現場は「計画どおりに進んだか」を見ており、経営は「戦略上の価値が実現できたか」を見ている——同じ「成功」という言葉が、まったく異なる意味合いで使われているのである。

データが示す「PMIを阻む壁」:3つの構造的要因

同調査では、PMIの成果を妨げる「7つの壁」が整理されている。詳細は同社ホームページ公開の実態調査レポートに譲るが、本講演では特に以下の3点が取り上げられた。

壁①:Day 1定義の遅れ

図2 PMIの成功を阻む壁①:Day 1定義の遅れ

統合初日(Day1)に何をどこまで新体制で動かすかの定義がクロージング後に持ち越され、本来「変革の起点」であるべきDay 1が、「業務を止めないための日」にすり替わっている。背景にはM&Aの大型化・複雑化と、不確実な状況下で仮説を前倒しで描く姿勢の欠如がある。

壁②:TOM・TSAの未整備

図3 PMIの成功を阻む壁②:TOMの未整備

TOM(Target Operating Model)とは、組織・オペレーション・人材・システム・ガバナンスのあるべき姿を描く、統合後の全体設計図である。しかし実際には、TOMが曖昧なまま統合が進むケースが少なくない。M&Aの初期を主導する経営企画部門が取引成立を最優先とし、統合後を担う事業・機能部門の関与が遅れることがその一因である。TOMがなければ、TSA(Transition Service Agreement:M&A後、譲渡企業が譲受企業に対して、一定期間、特定のサービスや業務を継続して提供する際の契約)も個別の後追い対応に終始してしまう。

壁③:担当者任せの摩擦対応

図4 PMIの成功を阻む壁③:担当者任せの摩擦対応

企業間のギャップや摩擦をPMOが組織的に扱っている企業の成功率は43%である一方、担当者任せの個別対応にとどまる企業のそれはわずか5%にとどまった。制度・文化・業務プロセスの違いは構造的に発生するものであり、例外的なインシデントではない。にもかかわらず、判断基準や意思決定の仕組みが設計されていないため、問題が属人的な調整に矮小化され、摩擦が慢性化してしまう。

PMI成功の4つの要諦

壁を乗り越えた企業に共通する実践として、松浦は以下の4点を提示した。

要諦①:Day 1以前に統合構想を描く
統合後のあるべき姿とシナジーの方向性をクロージング前に定義し、TOMを早期に整理した上でオペレーション・人材・システム・ガバナンスの実行計画に反映させる。「統合構想とは、戦略をどう実行し、価値をどう立ち上げるかを描いた全体設計図」であり、この構想の早期策定が統合の成否を分ける。

要諦②:明確な権限を持つ統合推進人材を設計する
買い手と対象会社をつなぐ統合推進人材を、明確な権限と責任を持たせた上でデューデリジェンス段階から関与させる。この人材は単なる調整役ではなく、「経営と現場をつなぎ、制度設計と現場浸透を一体で進める役割」を担う。実務上は部長から執行役員クラスが該当し、対象会社側にも対応するリエゾン・トランジションリーダーを配置する企業が増えている。

要諦③:Post PMIの展開と成果定着を仕組み化する
クロージングや100日プランの完成はゴールではなく、そこからが企業価値創出の本番である。成功している企業はPMIのKPIやシナジー指標を経営会議の管理指標として定常化し、中期経営計画と連動させて運営している。統合を「終える」のではなく「続ける」設計こそが成果定着の鍵である。

要諦④:経営層が自ら統合を実行する
PMIを現場に任せすぎると、統合は作業に矮小化され、シナジー実現が後ろ倒しになる。成功企業に共通する実践として、松浦は「シナジー創出を経営KPIとして明確に位置づけること」「進捗レビューを制度として仕組み化すること」「経営層自身が現場に足を運び、課題と意思決定を直結させること」の3点を挙げた。「PMIは任せるマネジメントではなく、共に走るマネジメント」という言葉に、要諦の核心が凝縮されている。

PMIを「経営変革の起点」へ

本講演で示された4つの要諦は、PMIを一過性プロジェクトではなく、経営の中核プロセスとして捉え直す重要性を示している。戦略・計画・体制・予算を統合し、経営の意思が現場の行動に一貫して結びついたとき、はじめて統合は成果を生む変革の起点となる。M&Aの拡大が続く今日、PMIの設計と実行をいかに「経営変革の仕組み」として構築するかは、企業の競争力を左右する経営課題である。

アビームコンサルティングでは、M&A戦略の構想段階からPMIの設計・実行、さらにはPost PMIにおける成果定着までを一貫して支援している。TOM策定や統合推進体制の設計、KPI・ガバナンスの構築など、数多くのPMI支援実績に基づき、企業ごとの課題に即した伴走型の支援を提供している。

本講演では、調査データを用いた分析や具体的な事例を交えながら、PMIを成功に導くための考え方と実践ポイントを詳しく解説している。ぜひ講演動画をご視聴いただき、PMI設計・推進に向けた具体的な示唆を深めていただきたい。


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