社会的インパクトは、一定の枠組みに基づき金銭換算することで、企業横断での比較可能性や定量的な把握が可能となります。一方で、それが直ちに経営判断や企業価値評価に織り込まれるとは限りません。実際には、社会的インパクトを金額として算出・開示しているにもかかわらず、投資家からの評価や社内の意思決定に十分に活用されず、ステークホルダーとの対話の深化にもつながっていないケースが見受けられます。なぜこのような事態が生じるのでしょうか。
①ステークホルダーごとの目的と関心事のばらつき
社会的インパクトの基本的な概念については一定の共通認識が形成されつつある一方で、「何を成果とみなすか」「どの粒度・時間軸で評価するか」「企業の貢献をどこまで認められるか」「いかに企業価値に寄与するか」といった着眼点の多様性が依然存在しています。
例えば投資家であっても、社会的インパクトが将来のキャッシュフロー創出やリスク低減にどのように寄与するかという観点を注視する場合もあれば、その算出根拠や正確性、コーポレートブランドへの貢献や新規事業機会創出の可能性などを注視する場合もあり、どのような判断をすべく社会的インパクトを活用するかは多種多様です。このような目的と関心事の多様性は、同一の社会的インパクトであっても受け手によって意味が異なる状態を生み、結果として企業の「語り方」を困難にするのです。
②企業側の「語る目的」の非統一
社会的インパクトを語る目的が、企業内部で明確になっていないケースも少なくありません。自社が訴求したいことを伝えるための開示手法の一環としてインパクトを活用することも重要ですが、開示そのものが目的化することは避けるべきです。開示はあくまで何らかの目的を達成するためのプロセスであり、その結果としてどのような成果を得たいのかという、企業としての不変的かつ強固な目的・ゴールの設定が非常に重要になってきます。
③経済的価値、企業価値との非連関
算出された社会的インパクトが企業の将来成長やリスク低減、競争優位の確立といった企業価値ドライバーにどのようにつながるのかが示されないケースも多く存在します。投資家が企業価値評価に織り込むためにも、また企業が社会的インパクトを用いた意思決定を進めるためにも、社会的インパクトがあるからこそ示すことができる将来成長を、より現実的に語る必要があります。
④現場業務、現場価値観との不整合
社内においても、社会的インパクトが経営管理に十分に組み込まれていないケースが見られます。単に社会的インパクトを数値として把握するだけでは現場の事業KPI・KAIとの接続がなされず、従業員にとっては自らの業務との関係性が見えません。その結果、現場の行動を変える指標とはならず、経営管理指標としても機能しない状態に陥ります。
今後、社会的インパクトの「測り方」については、国際的な枠組みによって一定の標準化が進むことが想定される一方で、「語り方」は企業ごとの戦略や事業特性、ステークホルダー構造に強く依存するため、標準化が困難な領域として残り続けます。
だからこそ、社会的インパクトを語るにあたっては、データの正確性や算出根拠の妥当性を適切に開示・説明することを前提としつつ、定量化した金額をいかに解釈し、企業価値と接続して語るか、すなわち「構造化された語り」ができるかが、今後の企業にとって重要な論点となります。
ひいては、これこそが社会的インパクトを実際の価値創出へと転換できるか否かを分ける決定的な要素となるのです。