効率化ではなく“存在意義”から問う金融機関のレガシー業務  ~かつての業務環境に基づいて担い続けてきたものとその今後~

インサイト
2026.04.17
  • 銀行・証券
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これまで「金融機関にとって不要な業務」に関する議論は、業務効率化に関するものが多かった。すなわち、「書類の作成や管理に時間がかかる、堅確な事務を追求する余り工数が過剰などの要因により不要なコストが発生している。従って、書類の簡素化や業務のペーパーレス化といった業務プロセスの見直しや、機能特化型店舗の導入、DX化の推進により業務の効率化を図る」という観点である。最近では、業務がAIに代替されることによって人が不要になるという観点も加わり、金融業界でも対応を急いでいる状況である。
これらは、いずれも「当該業務そのものは必要である」ことを前提とした上で、「どう実施するか」という観点からの議論である。
これに対して、集配金の横領や貸金庫の不正利用などの事象が起こると、コンプライアンス上の問題はもとより、人や設備の維持コストがかさむ一方で需要が減って採算が取れない業務の存続自体の是非に関する議論が呼びおこされる。
これは、「当該業務そのものが不要かどうか」の観点であり、これまで盛んに議論されてきた業務効率化等に関する観点とは異なっている。かつての業務環境や制約、顧客ニーズなどに基づいて、古くから金融機関が担い続けてきた業務(以下、「レガシー業務」)であるが故に、余り議論されて来なかった“新しい観点”である。
本インサイトでは、このような業務について、“存在意義”の観点から、実務とコンサルティングの経験豊富な筆者※1が考察し私見を述べる。

※1 石川慎一郎:日本銀行入行。Big4ファームを経てアビームコンサルティングに入社。この間、大手証券会社において、市場取引の実務に従事した経験を有する。銀行及び証券会社向けのコンサルティング・サービスを一貫して実施しており、規制対応、リスク管理・コンプライアンス、内部統制構築ならびに当該専門領域に関する監査支援など数多くのプロジェクトをリード。
岡崎伸哉:国内最大手銀行にて法人営業企画や経営企画を歴任後、 グループ証券会社でウェルスマネジメント業務に従事。 Big4およびブティックファームを経て現職。 金融機関を中心に、BPR/BPM等のオペレーション改革やDX 関連プロジェクト、加えて会計・リスク管理領域のプロジェクトを 多数推進。

執筆者情報

  • 石川 慎一郎

    Director
  • 岡崎 伸哉

    岡崎 伸哉

    Manager

1. 貸金庫に関する金融業界の対応

レガシー業務のうち貸金庫に関して、金融庁は2025年3月に「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正※2を行ない、外部と内部の双方の不正を防止するための管理態勢とリスクへの対応の強化を着眼点に追加するに至った。外部からの不正については、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与・拡散金融(以下、「マネロン等」)や脱税等のリスクに対応するため、「現金」がリスクが高いと考えられる物品等として「適切に格納可能な物品から除外されているか」という観点が加えられたほか、顧客の貸金庫利用時の行員による立会いやカメラによる撮影等、不正利用を企てる顧客を牽制するための統制強化といった観点が追加された。また、全銀協では2025年6月に貸金庫規定ひな型の改正を実施している※3
金融機関の貸金庫は、個室での出し入れを可能とするなど、秘匿性(プライバシー)の確保を顧客への訴求ポイントの一つとしてきた。今回の監督指針の改正は組織犯罪だけでなく、脱税や違法物品の保管など個人の不正・犯罪に利用されることを防止するため、顧客にとって貸金庫の利用目的の一つであった秘匿性(プライバシー)に牽制をかけた格好だが、不正がプライバシーによって保護されないのは当然のことだ。これを受けてわが国の金融業界では、上記に対応するための貸金庫規定の改定と管理態勢の強化を急ぐこととなった。
既存の貸金庫の管理態勢の強化を急ぐ一方で、新規受付の停止や支店単位での廃止、将来的な全面廃止を公表する金融機関も出て来た。貸金庫には、災害や窃盗への備えという根強いニーズがあるほか、地域の有力顧客や富裕層との接点でもあるため、全面撤退は現実的ではないという考えも根強い。しかしながら、こうした利点よりも設備の維持コストがかさむ一方で、需要が減って採算が取れず、外部からの不正に利用されるリスクが高いことが問題視され、“存在意義”の観点から廃止が選択された形だ。
高い物理的なセキュリティと信頼が求められる貸金庫は、近代の金融機関が営むことに非常に馴染み易い業務であった。しかしながら現在では一部の倉庫業社が堅牢な設備で金融機関と同様な貴重品保管のための貸金庫業を営んでおり、現代においては「金融機関が営む必然性のない業務」となっている。なお、倉庫業は犯罪収益等移転防止法上の特定事業者には含まれていないが、先般の「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正の趣旨に鑑みれば、業務と同等の業務を営む倉庫業者は、特定事業者に含める必要があるのではないか※4

※2 「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)の公表について」(2025(令和7)年3月27日、金融庁)
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250327/20250327.html#besshi
「主要行等向けの総合的な監督指針」、Ⅲ-3-1-8-2 主な着眼点
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」、Ⅱ-3-1-8-2 主な着眼点

※3 「貸金庫業務に関する監督指針の一部改正に伴う対応について」(2025(令和7)年6月19日、一般社団法人全国銀行協会)
https://www.zenginkyo.or.jp/news/2025/n061901/

※4 金融庁は、上述の「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正に際して、倉庫業者は金融庁の所管外であり回答は差し控えるとの考え方を示している。
「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(2025(令和7)年5月30日、金融庁)
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250530/20250530.html
上記のうち、「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」
https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250530/01.pdf

2. 貸金庫だけではないレガシー業務の群れ

貸金庫に関する議論から得られる教訓は、単なる「統制強化」の必要性ではない。金融機関が長年にわたり担ってきた業務の中に、「金融機関が営む必然性」が薄いにもかかわらず、いわゆる“慣性”で残っている領域が存在するという事実である。貸金庫はその最たる例として前章で論点化したが、同様のレガシー業務は他にも複数存在する。
たとえば、貸金庫に準ずるセーフティバッグ※5や、夜間金庫※6、集配金※7、手形・小切手関連※8、現金取扱い(両替を含む)、窓口での定型事務(紙・押印を伴う手続き)などである。個別には性質が異なるものの、金融機関が営む必然性が薄い理由は共通している。第一に社会全体のデジタル化により、従来の業務が前提としていた紙・現金・対面の必然性が低下している。第二に需要の減少・偏在が進み、固定費の重い設備・人員体制を維持し続ける経済合理性が損なわれつつある。第三に専門事業者や他業態による代替が進み、金融機関が自前で抱え込む意味が薄れている。第四に不正・犯罪利用リスクが顕在化し、レピュテーショナルリスクを含む管理コストが増大している。
重要なのは、「制度として残っているかどうか」と「金融機関が担うべきかどうか」は一致しない点である。手形のように制度そのものの整理が進む領域もある一方、制度が残っていても、経済合理性とリスクの観点から自然淘汰が進む業務群がある。貸金庫に関する議論は、その焦点を「どうやるか」から「やるべきか」すなわち金融機関が営む必然性へと転換させた。次章では、この観点の転換を一般化し、レガシー業務を存在意義から再分類するための分析を提示する。

※5 金融機関が施錠できるバッグを顧客に貸出し、顧客が封入した貴重品を金融機関の金庫に預かる業務

※6 金融機関の営業時間外でも、現金や売上金などを安全に預け入れられる専用の保管設備

※7 金融機関や業者が顧客先との間で、現金などを回収(集金)・届ける(配金)ことを一体で行う業務

※8 紙の手形・小切手は2027年3月末を目安に実務上終了し、電子決済へ移行する

3. 5つの判断軸による分析と判断ロジックに基づく金融機関の業務の再配置

前章では、貸金庫を起点に「金融機関が営む必然性」という観点の重要性を提示した。本章では、この視点を他のレガシー業務にも適用し、不要化・再配置の可能性をタイプ別に整理する。
分析にあたっては、以下の5つの判断軸を用いる。

  1. 需要の持続性:当該業務に対する需要は中長期的に維持されるか。地域差・顧客層差はあるか。
  2. 供給の代替可能性:金融機関以外の業態で代替できるか。外部委託で同等以上の品質が確保できるか。
  3. コスト構造:設備・人員等の固定費が重く、規模の経済が効きにくい構造になっていないか。
  4. リスク構造:不正・犯罪リスク(内部の不正、マネロン等や脱税のほか強盗・窃盗を含む外部からの不正)、それらを受けたレピュテーションへの影響は相対的に大きくないか。
  5. 金融機関の固有価値との整合:信用創造・決済・与信情報・顧客基盤等の中核機能と結びつくか。

これらの軸は単独ではなく、相互に補完・増幅し合う。たとえば、需要が縮小する中で固定費が重く、不正・犯罪利用リスクが高く、かつ代替が進んでいる業務は、「効率化すれば残せる」領域ではなく、「金融機関が抱え続ける合理性そのものが弱い」領域に分類される。
上記の判定軸に基づき、金融機関の業務の再配置を行うため、図1に示す判断ロジックを設定した。

図1 金融機関の業務を再配置するための判断ロジック

次に、前章で俯瞰した営業店におけるレガシー業務を対象に、5つの判断軸による分析を行ない、判断ロジックに基づく金融機関の業務の再配置を行った。図2は、その結果を示したものである。

図2 金融機関の業務を再配置した結果

ここで示した分類は、個別業務の優劣や効率性を評価するものではなく、当該業務が金融機関の存在意義とどの程度結びついているか、および金融機関が自ら抱え続けることの合理性があるかを相対的に整理したものである。
特に、「外部へ移す」「デジタル置換」「商品性を変える」といった区分は、必ずしも業務の廃止を意味しない。むしろ、金融機関が自前で担う必要のない固定費や不正・管理リスクを切り離しつつ、機能としての価値を維持・再設計する方向性を示している点に留意が必要である。
以下では、今回の業務再配置の結果として整理された「外部へ移す」、「デジタル置換」、「商品性を変える」の3つの区分について考察を行う。なお、今回はレガシー業務に関する分析であるため、判断ロジックに基づく5つの結果のうち、「継続(現行形態)」と整理した業務はない。そのほか、いずれの業務も需要がゼロではないと考え「廃止」と整理した業務もないが、これは「外部へ移す」と一体のものとして検討することが必要であろう。

3-1. 「外部へ移す」ことが合理的な業務群

夜間金庫、セーフティバッグ、集配金といった業務は、貸金庫と同様の構造を持つ。すなわち、①需要は残るものの縮小・偏在が進み、②警備会社や物流・保管の専門事業者による代替と付保によるリスク削減が可能で、③人員・設備・輸送など固定費が重く、④現金や貴重品を扱うがゆえに不正・犯罪リスクが高い。一方で、⑤与信判断や高度な決済機能と直結するわけではない。
これらは、金融機関が免許や信用を背景に自前で抱え込む必然性が相対的に低く、外部委託・他業態移管・業界共同化によって、コストとリスクの双方を引き下げやすい典型領域であろう※9

3-2. 「デジタル置換」が本筋となる業務群

手形・小切手、現金取扱、納税といった業務は、①機能としての需要は当面残るものの、制度移行やキャッシュレス化の進展により中長期的には縮小・変質が見込まれる。一方で、②電子決済、ATM・入金機、電子納付などにより、機能面での代替手段は既に確立しつつある。
これらの業務は、③紙処理・現金管理・窓口対応に人手や設備を要し、固定費構造が重いうえ、④誤処理・現金過不足といったオペレーショナルリスクや、内部不正のリスクを恒常的に内包する。
他方、⑤決済や預金といった金融機関の中核機能との整合性は一定程度あるものの、「紙・現金・対面」で自前運営すること自体が固有価値とは言い難い。
このため、これらの業務は廃止ではなく、「必要な機能を維持したまま、手段をデジタル・セルフ・共同運営へ置き換える」ことが合理的であり、デジタル化・共同化を前提とした再設計を優先すべき領域であろう※10

3-3. 「商品性を変える」ことで残る業務群

両替のような業務は、①観光・小売・特定法人といった一部セグメントでは需要が残るものの、全体としては縮小傾向にあり、地域や顧客属性による偏在が大きい。一方で、②両替機や小売・交通事業者などによる部分的な代替が進んでおり、金融機関の窓口での提供が唯一の選択肢ではなくなっている。
この業務は、③窓口対応を前提とすると人件費がかさみやすく、低手数料・全国一律提供では採算性が低下しやすいほか、④偽造や過不足金といったオペレーショナルリスクも一定程度内包している。また、⑤預金・与信といった金融機関の中核機能との結びつきは限定的であり、社会インフラとして無差別に提供し続ける必然性は相対的に低い。
そのため、このタイプの業務は「やめる/残す」の二択ではなく、提供チャネル、対象顧客、価格設定や手数料体系を再設計することで、商品性を見直し、限定的に持続可能とすることが現実的な領域であろう。

※9 「外部へ移す」ことが合理的な業務群については「商品性を変える」ことも選択肢となり得る。例えば、なくなると困るものを金融機関の貸金庫で保管したいというニーズに応えるため、貸金庫の手数料を大幅に引き上げること等である。このように、デジタル置換の進展は、逆に“人が介在しないと成り立たない”貸金庫のような業務の存在理由を見直す契機になる可能性もある。ただし、①需要や②供給の代替可能性といった他の判断軸を併せて検討を要する課題である。

※10 コンビニエンスストアにおいても、払込票の控え用紙の保管・輸送コストの増加等から、納税などの収納代行は重荷になっているとの報道もある(出典:日本経済新聞 朝刊(2026年2月22日)「コンビニ、収納代行が重荷」)。こうしたことも、「外部へ移す」よりも「デジタル置換」を選択すべきことを傍証している。

4. 金融機関が集中すべき領域と、手放す領域

本稿において考察した通り、貸金庫に関する議論から得られる教訓は、単なる統制強化や業務改善の必要性ではない。より本質的には、「金融機関が何を担い、何を担わないのか」を存在意義から再定義せよ、という経営への問いである。
金融機関が集中すべきなのは、レガシー業務ではなく、以下のような金融機関の固有価値と直結する中核領域であろう。

  • 信用創造・与信判断
    情報の非対称性を克服し、リスクを引き受けた上で資金配分を行う機能
  • 決済インフラとしての信頼と接続性
    社会全体の取引を安全かつ確実につなぐ基盤機能
  • 情報とリスク管理
    顧客・取引・資金の流れを横断的に把握し、不正・マネロン等のリスクを未然に抑止することで、金融取引の信頼性を担保する中核機能。規制対応を含め、外部化が難しい経営責任領域
  • 高度なアドバイザリーと関係性
    投資・承継・再編等における資金・リスク・時間軸を踏まえた意思決定を支え、実行まで伴走する関係性価値

これらは外部化すると競争力と統制力の双方が弱まりやすく、「効率」よりも「信頼」と「責任」が重視される領域である。
一方で、物理インフラや対面・現金・紙を前提としてきた周辺業務は、もはや「金融機関が抱え続けること」自体がリスクになりつつある。
重要なのは、手放すことが「撤退」や「価値放棄」ではない点だ。外部移管、デジタル置換、商品性の再設計といった手段を通じて、金融機関は自らが担う必要のないリスクと固定費から解放され、中核領域に経営資源を集中できる。
これまでの議論は、「どう効率化するか」「どう統制を強化するか」に偏りがちだった。しかし、これから求められるのは、「そもそも金融機関がやるべきか」という問いを先に立てることである。「効率化のために残す」のではなく、「存在意義に照らして残す/手放す」という順序を徹底すること。それは不祥事を防ぐための守りの議論に留まらず、金融機関が社会に提供する価値を再定義する、攻めの経営判断でもある。


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