パネルディスカッションでは、「今後の取り組みについて、どのように推進・継続していくか」に絞った議論が行われた。
まず五十嵐氏は、推進時に注力した点として、以下の3つを挙げた。
- インパクトの選択:定量化すべきインパクトの選定にあたり、量的拡大だけでなく、感情面という質的深化のインパクトに挑戦したこと
- 妥当な算出ロジックの検討:一貫して保守的なパラメータを選択することで、投資家からの批判を未然に抑制したこと
- 経営層の開示への不安解消:「経営目標にすると開示ハードルが高まるため、まず実績として開示し対話することが大事」と、経営層に丁寧に説明し、不安を解消したこと
中期経営計画発表後に開催された、経営層による社員への説明会では、頻繁に社会的インパクトに関する質問が出され、社長自身が自分の言葉で「ANAはどう社会に貢献するか」を語った。また、飛行機ならではの「時間価値=他の交通機関より早く人の移動や貨物の輸送ができるというインパクト」を金額に換算した結果へのコメントも出た。
「このように時間価値が可視化され、『そんなに大きな金額だということを知り、改めて頑張ろうと思った』と話す社員もいた。自分が大切にしている価値観と、会社が大切にしているものが一致していることを実感できたとき、社員の帰属意識やモチベーションが高まることを確信した。」(五十嵐氏)
一方の三浦氏は、「当事者を増やすこと」の重要性を強調した。コクヨでは統合報告書作成の段階から、役員会への報告と並行して手挙げ式の草の根勉強会を重ねてきた。その結果、IR部門以外にも非財務価値への関心層が広がり、今回のインパクト会計の定量化においても、事業部門が「自分たちの強みや競争優位の根拠をちゃんと示せていない」という当事者意識をもって自発的に参加してきたという。
「開示内容の最終確認時にダメ出しもあった。これは、自分たちがその開示内容を活用しようと思っているからこその当事者意識の表れであり、背景にはもっと良くしたいという思いがあったのだと捉えている。」(三浦氏)
この言葉から、開示を「IR部門のアウトプット」で終わらせず、インパクトを経営管理に組み込む姿勢がなければ、継続は困難だという示唆が読み取れる。こうした強い問題意識を抱き続けたことが、コクヨの取り組みの原動力となっている。