1. 対象領域に対するユーザーの思考・行動を多方向から捉える
想定しているニーズや課題のみに焦点を当てて確認したくなる場合もあるが、それでは発見の幅が狭まる。重要なのは、視野を広げ、プロダクトの対象領域についてユーザーの思考・行動を多角的に把握することである。
例えば家計管理アプリを企画している場合、「普段管理している対象は何か」「なぜ管理したいのか」「現状どのように管理しているのか」「ツールを使っているとすれば何か」「そのツールのどこが良いのか、なぜか」といった点を確認する。こうしてさまざまな方向から対象領域に対するユーザーの思考・行動を捉えることで、ユーザーが「家計管理」に抱く価値観が浮き彫りになり、想定外のニーズや課題を見つけ出す可能性が高まる。
2. 対象者の具体的な行動プロセスに沿って課題を深掘りする
ユーザーが自覚している顕在化した課題であれば、直接尋ねることで回答を得られる。しかし、本人も意識していない潜在的な課題を探るには、普段の行動や思考の流れを振り返らせる必要がある。
そのため、まず対象者の具体的な行動プロセスを確認し、その行動に沿って「何を考えているか」「現状に満足しているか」といった観点で掘り下げる。そうすることで、本人も意識していなかった課題やニーズを浮かび上がらせることができる。
また、顕在化している課題であっても、質問の仕方によってはユーザーが気を遣って「ある」と答えてしまう場合がある。このようなバイアスを回避するためには、行動プロセスを基盤にした質問が有効である。仮にバイアスのかかった回答が得られたとしても、行動や思考に関する具体的記述が含まれていれば、後の分析において「ここでは課題があると答えているが、実際には不満を感じていない」といった矛盾を発見することができ、回答の妥当性を見極めることが可能になる。
3. 対象者の頭に浮かんだことから先に聞く
インタビューは限られた時間の中で多くの項目を確認するため、事前にヒアリング項目を整理して臨むことが一般的である。しかし、計画に過度に依拠した進行は、インタビュアーが会話の主導権を握る構造を生みやすく、対象者の自由度が低下する。その結果、対象者は聞かれた内容にのみ回答する傾向が強まり、仮説の外にある情報を得ることが難しくなる。
したがって、対象者が話しやすい流れに柔軟に合わせ、頭に浮かんだことを自由に話してもらうことが重要である。インタビュアーは会話の流れを柔軟に入れ替えながら、仮説として想定しているニーズや課題についても、まずはオープンに「この場面で困っていることはありますか」と尋ね、それで出てこなければ仮説を提示する、という順序が望ましい。
以上の3点を意識することで、ユーザーインタビューから得られる発見の幅が格段に広がり、真に有効なインサイトを抽出することができる。