製造DXレポート 第2回 ~経営変化に応じた製造課題への自動化・デジタル化対応の状況~

インサイト
2025.07.28
  • プロセス産業
  • 電子部品
  • DX
  • エンジニアリングチェーンマネジメント

アビームコンサルティングは、昨年に引き続き日系製造業における製造Automation・DX(スマートファクトリー)の取り組みの実態と課題を把握するため、「日本のスマートファクトリー現状調査 ~経営環境の変化に応じた製造課題への対応~」を実施した。
日系製造業では、製造効率化を目指しスマートファクトリー化を進めてきた。しかし、製品ラインナップの拡大、プロダクトライフサイクルの短縮化、生産人口の減少と技能伝承の断絶といった、経営環境の変化にともない、単純なデジタル化(見える化や単純作業のAI化)や自動化が通用しない課題が多く挙がっている。
本レポートでは、これらの課題に対して、その根本原因の追究と対応策を提示する。

執筆者情報

  • 橘 知志

    Principal 未来価値創造戦略ユニット長
  • 西 崇宏

    Director

1. 調査の目的と概要

調査目的

今回実施した「日本のスマートファクトリー現状調査 ~経営環境の変化に応じた製造課題への対応~」(以下、本調査)の目的は以下の通りである。

  1. 第1回製造DXレポートで明らかになった、モデル工場レベルまでスマートファクトリーができていない阻害要因の実態と理由の把握
  2. 第1回では対象外であった、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)領域の課題抽出と、その課題解決に向けた製造対応の探索

調査概要

本調査では、スマートファクトリーの取り組みに対する現状を把握するため製造業従事者へアンケート調査を実施し、回答結果を深掘りするためにインタビュー調査も行った(図1)。

図1 調査方法と調査概要

アンケート回答者の属性

アンケート調査では、513件(同一企業の重複回答なし)のさまざまな売上規模の企業から回答を得た。
また、業種別の内訳は、ディスクリート系(プラスチック製品製造業、生産用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業など)が74.4%を占め、プロセス系 (食料品製造業、化学工業、鉄鋼業など)が9.2%、その他製造業が16.4%となった(図2)。

図2 回答者の属性

2. 製造DX・自動化およびサプライチェーンDXの取り組みと課題・背景にある要因(サマリー)

調査結果の中から、製造における自動化・デジタル化、SCMでのデジタル化に対する現状および課題の一部を抜粋して掲載する(詳細は本ページ下部の別添資料を参照)。

自動化の現状

企業規模別に自動化の進展状況を見ると、売上100~1,000億円未満の企業は売上100億円未満の企業より自動化度が低くなっている。また、売上1,000億円~1兆円の企業は自動化度が高い傾向にある。インタビューより、売上100億円未満の小規模企業は製品ラインナップを絞っているため、自動化が進んでいるが、100億円以上の売上高に拡大するにつれて、製品ラインナップを拡大する傾向がある。

また、売上1兆円超えの企業では、国内の人口減少の中で売上を維持/拡大するために、直近製品ラインナップの拡大を進めている傾向があり、多品種化ないしは変種変量化していることから、今ある工程を単純に自動化できない事情が挙げられた。

図3 企業売上規模別 所属する工場の製造ライン自動化度

自動化における取り組み課題

アンケートでは、自動化へのネックとなっている工程・業務として「外観検査や日常点検など視覚・聴覚判断が関わる工程の自動化」「その他工程の自動化」「段取り替えの自動化」という結果が示された(図4)。
インタビューでは、外観検査などにおいてもカメラや画像解析技術の問題ではなく、複数品目、多品種を同時もしくは連続で外観検査し判断することが困難であるというコメントが挙がった。
また、製品の品種や工程内容に合わせて、使用する装置機器や治具を交換したり設定を変更したりする段取り替えでは、多品種化の問題でオートチェンジャーなどの導入を検討するものの、品種数に対応しきれない、すべてを専用機化できないなどのコメントが寄せらせた。全般的に、多品種化・変種変量化の影響が自動化を妨げる根本要因であると見られる。

図4 自動化課題が残る工程・業務

デジタル化における取り組み課題

デジタル化において、最も進んでいない取り組みは「熟練技術者の技能伝承」であった(図5)。
インタビューでも、従来暗黙知で継承してきた技術が、就職氷河期世代の人材不足により技能の伝承が円滑に行われていないことが課題として挙げられており、技能伝承が危機に瀕している状況がうかがえる。
ただし、熟練技能者がその作業をどのように実施しているのか、五感を活用する部分の解析は困難であることや、何を基準に作業しているのかも不明瞭であることから、デジタル化するための形式知化が難しい領域となっている。

図5 デジタル化の取り組みの目的別進捗

SCM DXにおける取り組み課題

先述した、多品種化・変種変量化は、生産計画の精度向上や在庫最適化/削減への対応のデジタル化を困難にする要因として、アンケートで挙げられている。一方で、調達コストの削減のデジタル化については一定の効果が出ていると見受けられる(図6)。
しかしインタビューでは、調達コストの削減も、「部門や工場、担当者単位で調達されているものも、横断的に見ればさらに改善の余地があるのではないか」というコメントや、現状データとして確認ができないため取り組みが進まないという声が挙げられていた。

図6 SCMにおけるデジタル化の取り組みの目的別進捗

3. 製造課題への対応の方向性

ここまでのアンケートおよびインタビュー内容から見える、製造課題とその背景にある経営環境・経営状況の変化のまとめ、製造課題に対する対応の方向性の一部について述べる。

製造課題・背景と対応の方向性

ドイツでIndustry4.0が2011年に提唱され、日本でも2017年に経済産業省から「ものづくりスマート化ロードマップ調査」が発表されてから10年近く経ち、単純な工程の見える化、自動化は進んでいる。一方で、製造業・製造現場が抱える課題は複雑化し、インタビューでもコメントが寄せられたように、多品種少量化・変種変量化への対応(生産計画・製造・調達)や、技能伝承・暗黙知のデジタルを活用した継承、SCMでのグローバル情勢の複雑化への対応などが数多く挙げられている。
どの課題も単純なIoTセンシング、形式知のAI化で対応するには難しく、デジタル技術や機械技術と製造改善や戦略・組織対応を併せて対応することが必要である(図7)。

図7 課題背景(外部環境変化)から製造への影響と対応の方向性

① 工程再設計×DX

本来、少品種大量生産から多品種少量生産に応じて、最適な生産形態は異なり、多品種化・変種変量化が進む中、これまでのライン生産・一貫生産での対応は難しくなっている。特に、変種変量生産では、従来型のライン生産やジョブショップ生産での対応には限界が来ており、RMS(Reconfigurable Manufacturing Systems)の概念に対応した、新規の生産形態への移行が検討されるべきタイミングであると考えられる(図8)。

図8 多品種・変種変量生産に対応した生産形態への変更

また、インタビューでも「これ以上の多品種化や変種変量が進むとライン生産などでは対応できないため、RMSを検討する」と答えた企業もあり、まだ少数ではあるものの、すでにRMSの生産形態の実装・稼働まで到達している企業も出てきている(図9)。

図9 変種変量に対応した自動化・デジタル化

② 暗黙知解析へのデジタルツイン×定量・定性情報

暗黙知を多分に含む作業において形式知化を妨げる要素は複数あり、例えば五感での知覚、経験からくる判断、その場での工夫などが挙げられる。
これらは暗黙知で構成され、現場改善の積み重ねによる経験値であり、日本の製造における競争力の源泉であった。一方で、形式知化されていないことから、デジタル化・自動化が難しい課題を抱えている。
そのため、これらの暗黙知要素をデータとして溜め、解析シミュレーションをしながら複数の形式知パターンを導出していく取り組みが必要である(ナレッジデジタルツイン)(図10)。
初手の問題はどうデータを取るかであるが、センシングだけでなく、その場での熟練作業者のつぶやき、視線をトレースするなど、非センシングデータの収集蓄積が重要になる。

図10 ナレッジデジタルツインによる暗黙知作業の自動化

③ 地域クラスター×SCM Intelligence組織

主要各国・地域のサプライチェーンにかかる状況は大きく異なり、またその変化は加速している。
その中でグローバル統合でのSCM運用は難しく、国・地域別の運用組織と、データの統合による国・地域を跨いだ仕入先統合や輸配送効率化を支援する仕組みが必要である。
自動車OEMはじめ、すでにこのような仕組み化を実現している企業もある一方で、SCM自体を自社運営するにあたって人材・ノウハウ不足に悩む企業も多い。
一企業がグローバル全体を意識しリソースを確保し、配置していくのが難しい状況下で、地域クラスターでの共同対応や、SCMの請負業者(MRO領域などで存在)の委託など、SCM Intelligenceのシェアード化が進む必要がある(図11)。

図11 統合的なSCMおよび判断の限界

4.まとめ

デジタル化は、これまで見える化やその見えた情報の解析による部分的な効率化にとどまってきた。また、自動化においても、専用機・多関節ロボットを併用してもなお、比較的形式知化されている作業や、単調な動作の作業を対象としてきた。
しかし現在、これまで日本の製造業が強みとしてきた工程改善、職人による加工技術などが、人不足の中で自動化・デジタル化しなければならない状況に直面している。
また、多品種化や変種変量化など経営環境の変化にも対応しながら、製造を維持・効率化する必要もあるなど単純なデジタル化や自動化では対応できない、複雑な課題に製造現場は直面してきている。
このような状況の中、製造現場で必要になるのは単なるデジタル・機械技術の導入ではなく、従来のIE(Industrial Engineering)・QC(Quality Control)活動などのカイゼン活動とデジタル・機械技術の組み合わせによるドラスティックな対応である。

アビームコンサルティングの製造向け支援サービス

アビームコンサルティングは、製造現場の改善・効率化に必要な技術を有し、本レポートのような多品種化・変種変量化や、人材不足・技能伝承に向けた製造における現代の難課題に対し、デジタルソリューションだけでなく、工程改革・人材スキル変革などの改善ノウハウを併せた製造改革サービスを提供している(図12)。
今後もクライアントに寄り添うパートナーとして、各製造現場に最適な解を導出するだけでなく、実装までを支援していく。

図12 アビームコンサルティングの支援サービス

インサイト

Contact

相談やお問い合わせはこちらへ