近年、企業価値向上の選択肢として、事業売却(カーブアウト)が再定義されつつある。従来の「不採算部門の切り離し」から、「経営資源の最適配置」や「ROIC(投下資本利益率)対WACC(加重平均資本コスト)の是正」、「ベストオーナーへの資産移転」など、より戦略的かつ前向きな位置づけに変化してきている。加えて、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応やPBR(株価純資産倍率)1倍割れ問題とも連動し、企業の戦略的打ち手として事業売却が再評価されている。
しかし、現場に目を向けると、“前向きな売却”にもかかわらず、オペレーションの混乱、顧客の離脱、優秀人材の流出といった企業・事業価値毀損が後を絶たない。主因は、「売却を決める」戦略判断と、「売却をやりきる」実行の間に潜む、構造的な“非対称性”にある。
特に、DA(Definitive Agreement:最終契約書)締結からクロージング(Day1)までの移行設計フェーズ─この期間こそが最もリスクが集中するゾーンである。この期間に、どれだけ質の高い準備ができるかが、カーブアウトの成否を分ける。
本インサイトでは、企業の経営企画・財務部門、M&A・PMIを担うCxO・事業責任者の方々に向けて、カーブアウトにおける「設計フェーズの落とし穴」とその乗り越え方を具体的に提示する。