【イベントレポート】アーティストの視点から考える、「日本発」の価値創造

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2025.04.23
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2025年2月18日、アビームコンサルティングでは「これからの時代の経済の原動力※1」として注目を集めている「アート」や「クリエイティビティ」について、第一線で活躍中のアーティストやイベントの主催者を招き、「How can we create future value from Japan? アーティストの視点から考える、『日本発』の価値創造」を開催した。

今、日本企業は、押し寄せるグローバリズムの波の中で、新たな価値創造に向けてさまざまな課題に取り組んでいる。デジタル化による市場と経済の劇的な変化に加え、人口減少や自然災害リスクへの対応など、私たちを取り巻く状況は決して易しいものではない。だが一方で、日本の文化や価値観はユニークで創造性あふれるものとして、海外から高い評価を受けている。

本イベントでは、アートの側面からいかにこの「日本発」に迫り、そこから生まれた成果をどのように世界に発信していくべきかを考察。
ゲストとして、自ら手がけた詩や批評などのテクストをもとに、絵画や映像、インスタレーションを始めとした多彩な活動を展開している布施琳太郎氏、身近な自然や生活環境にインスピレーションを得て主にガラスを用いた制作を続け、海外での活動も多い佐々木類氏の2名のアーティストを招待。また、布施氏、佐々木氏との協働も多く、アートプロジェクト「MEET YOUR ART」の代表でもあるエイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役 加藤信介氏、共同代表古後友梨氏とアビームコンサルティングCreativity Teamリーダーである小山元という、それぞれ異なるバックグラウンドを持つ5名によるセッションが行われた。

会場では布施氏によるパフォーマンスや佐々木氏のガラス作品を用いた対話など、集まった参加者は多くのインスピレーションを得るとともに、アートとビジネスの関係について思索と交流を深める時間となった。

※1 経済産業省 「アートと経済社会について考える研究会」の報告書による

イベントの様子 写真:イベントの様子(左からアビームコンサルティング小山、佐々木氏、布施氏、エイベックス・クリエイター・エージェンシー 古後氏、同社 加藤信介氏

執筆者情報

  • 小山 元

    Principal

企業とアートの接点:国内外の取組から

まず、本イベントの背景となったのは、2024 年 10 月に東京・天王洲で開催された日本最大級のアートイベント「MEET YOUR ART FESTIVAL 2024『NEW ERA』」における対話だ。ここでは、日本固有の表現や価値に着目して活動を続けるアーティストや関係者による活発なディスカッションが展開され、参加者から大きな反響があった。そこで、アートとビジネスの関係を通じて、実際にアートの力で社会変革を推進している企業、そして参加者との対話を通じて「日本発/日本性」を考える場を提示することとなった。

冒頭では、まずMEET YOUR ART FESTIVALを主催した、エイベックス・クリエイター・エージェンシーの加藤信介氏が、アートイベントを手がける目的を語った。同氏は親会社であるエイベックス株式会社で新規事業の責任者を務めていたが、「アートの分野には素晴らしいアーティストが大勢いて、興味深く価値のあるコンテンツも多く存在するが、どのように知ればよいのか分からない」と感じていた。そこで、音楽業界で培ったノウハウを生かして、アート領域の才能ある方々をエンパワーする事業を2020年に立ち上げたという。

スタート時は、パンデミックの時期と重なり、俳優の森山未來氏がMCを務めるアート専門番組「MEET YOUR ART」をYouTubeで展開することとなった。現在ではチャンネル登録者数が7万5000人を超え、日本最大級のアート系動画メディアに成長を遂げたという。今では、アートを中心としたリアル開催のフェスティバルなども積極的に展開している。また、アートやアーティスト自身の魅力をより多くの人に伝える機会の創出、事業推進を行っている。
 

グローバルにおける企業とアートの関係はどのようなものなのだろうか。海外での制作経験が豊富な佐々木氏は、アメリカのコーニング社※2を例に挙げる。

「コーニングは、世界最大級のガラス製品メーカーとして知られていますが、会社の隣に美術館があったり、私たちのような海外から訪れた作家が制作に利用できる場所も用意されています。また、私では分からないようなガラスに関して、科学者の方と一緒に取り組む機会を与えていただくなど、アーティストに対するフォローアップも非常に充実しています」(佐々木氏)

また、海外の美術館のオープニングなどのセレモニーでは、必ず企業や富裕層の支援者が列席するのが通例であり、そうした人々からサポートを受けながら制作するといったケースも珍しくないという。

では、日本における日本発のアーティストや文化を見せていく価値をどう捉えればよいのだろうか。加藤氏とともにアート事業の共同代表を務める古後氏は、まさにそうした考えが自分たちの事業の根幹にあると語る。

「私たちのプロジェクトは、若手をはじめ日本が誇るべきアーティストを、多彩なプラットフォームを介して見てもらうことが前提にあります。YouTubeの動画チャンネルを利用しているのも、グローバルに対する発信力を意識したものです」(古後氏)

またMEET YOUR ART FESTIVALについても、エンターテインメント企業として動員人数や広告換算価値を重視する一方で、どれだけのアーティストを主役として見せていけるかを非常に大切にしていると強調する。

※2 コーニング社:材料科学における世界有数のリーディングイノベーター。170年以上にわたり人々の暮らしを変えるような発明を積み重ねてきた実績を誇る。

持続可能性あるアートとビジネスの関係性に向けて

アーティストの創り出す価値が優れたものであっても、それを明確かつ効果的に訴求できなくては、魅力は伝わらない。まして言語も文化も異なる海外の人々には、環境も含めた戦略づくりが不可欠だ。それについて布施氏は、1980~1990年代のセゾングループが展開していた「西武美術館」を例に挙げる。

「当時、同ミュージアムではかなり攻めたアートを紹介していましたが、それは当時のオーナーだった堤清二氏の思想と共鳴していたところが大きかった。この頃の西武やパルコには、デザインやファッションやアートなどさまざまなものが集まり、国際的な成果も挙げていました。ただ、それも堤氏が去ると段階的に変化してしまいました」(布施氏)

これを受けて佐々木氏も、「一代で終わらせないためには、いかに企業の文化にアートというものを本質的に落とし込めるかが重要なポイントになる」と示唆。自身が企業の企画に参画する場合も、持続可能性の視点で考えるようにしていると語った。

こうした布施氏と佐々木氏の意見に対してアビームコンサルティングの小山は、「お二人の話を企業の観点から見ると、企業における価値創造のどこにアートを位置づけるかが課題になります」とした上で、企業ごとの考え方を知る際には、その企業が発行する「統合報告書」なども参考になると指摘する。

統合報告書は企業ごとに、自社のビジョンや戦略にもとづいて作成されるが、具体的にアートというものが自分たちの企業活動のどこに関わってくるのかを見ることができるだろう。例えば、アートは社員の優れたパフォーマンスとどのような相関があるのか、社会と自社の良好な関係づくりに、アートはどのように貢献し得るのか、といった観点を挙げ、それらをより発展的で継続性のあるものにしていくことが重要だという。

また、「自社の描く戦略と繋げる形でつくり込んでいくことが、オーナー個人や特定の経営者に依存しない、クリエイティブなループの実現が可能になると考えます。アートを企業活動のどこにどのような形で組み込んでいくかが、これからの重要な課題になってくる」と小山が語った。

古後氏は、そうした具体的な企業活動とアートのコラボレーションの試みとして、布施氏も参加したMEET YOUR ARTとバカルディ・ジャパン株式会社によるプロジェクト「5 SENSES」を紹介した。同社が取り扱う「ボンベイ・サファイア」の持つ魅力やこだわりをアーティストとの共創で深く、広く伝えていく共創プロジェクトだ。

この企画には、日本の5名のアーティストが選ばれ、各人がボンベイ・サファイアと五感からインスピレーションを受けて制作した作品の展示などを行ったという。布施氏は五感のうち「聴覚」を担当したが、役割と目的という決まりはある一方で、その他は余白を持ってアーティスト主体で制作に取り組むことができ、かつその制作における費用を企業が負担してくれたことで、普段の制作とは異なる作品の拡張性と、その拡張した作品の制作に色々な意味で集中できたことは非常に価値ある取り組みであったと振り返る。

この事例は、企業が自社の企業活動を社会に広く伝えていく際、アーティストの想像力や表現力とコラボレーションするものであり、今後アーティストと企業がさまざまな企画を展開していく上で、大きな指標となるだろう。

まとめ

事業推進と社会課題解決に取り組む日本企業の経営は一層複雑さを増しており、画一的なグローバリズムを超えた新たな価値創造が大きな経営課題とされる。
アビームコンサルティングは、新しい企業価値で変革を実現する創造的パートナーとして、持続可能な社会の創造、企業や組織の継続的な成長に貢献していく。


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