【イベントレポート】NIKKEI Digital Forum in Asia

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2024.10.04
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アビームコンサルティングは、10月1日(火)タイ・バンコクで開催された日本経済新聞社・日経BP社主催イベント「NIKKEI Digital Forum in Asia」に協賛、ABeam Consulting (Thailand) Managing Directorの堀江がスペシャルセッションにて、「Accelerating Thailand Decarbonization with Japanese  Advanced Technology and Philosophy」と題し、講演した。

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グローバル、そしてタイと日本のGXの現状

まず米国においては、「インフレ抑制法」の成立とその推進により、GXに関連した市場創出が積極的に行われ、2030年におけるGHG削減効果に大きなプラスの影響をもたらすと言われている。欧州においては、世界初の国境炭素税である「CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)」が、2026年より本格的に適用される。初段として、セメントやアルミニウムなど特定の製品がその対象となる見込みだが、今後は適用範囲のさらなる拡大が見込まれている。
一方、中国やインドにおいても、自国の経済成長と脱炭素を両立させる政策を打ち出している。特に中国においては、2022年度において、世界の太陽電池出荷量の70%以上を占めるなど、政府と企業が一体となって、脱炭素への取り組みを推進している状況だ。そのような中、タイ、そして日本においても経済成長と脱炭素の両立とその実現は待ったなしの状況となっている。
ここで改めてタイと日本の状況について整理したい。まず国土面からみると、日本は排他的経済水域の広さ、タイは農地面積の広さが大きな特徴だ。次に自然エネルギー観点からは、日本は国土あたりの太陽光の導入容量は主要国の中でトップであるが新規導入は減速傾向にある。一方、広大な農地を有するタイは太陽光のポテンシャルとしては高いものの、雨季があるため、年間を通じて一定した太陽光の発電という点では難しい。このように自然エネルギーのポテンシャルは各国の地理的、国土的な特徴により、大きく異なる。

雨季における太陽光発電の課題については、日本が注力しているペロブスカイト太陽電池が解決策となる可能性がある。ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト構造を持つ材料で製造された太陽電池のことで、従来型であるシリコン系太陽電池や化合物系太陽電池に迫る変換効率の性能を持っている。軽量で柔軟性がある点が特徴で、シリコン系太陽電池が設置困難なビルの壁面や、耐荷重が低い屋根にも設置することができる。曇りでも効率的に発電が可能であり、製造コストに競争力もあるため、太陽光発電の課題解決の一つとして注目を集めている。
このように、日本が持つイノベーティブな先端技術が、GXを推進する上で障壁となる様々な課題解決に貢献していく余地があるだろう。

エネルギーミックスからタイと日本の状況を読み解く

まず、タイ・日本双方のカーボンニュートラルの中間目標とその達成状況から見てみよう。日本は2030年を中間目標と設定しており、その時点でのエネルギー構成比率のうち、再生可能エネルギーが占める割合の目標を36~38%としている。2019年から比較すると倍の比率になっている。
タイに目を向けてみると、再生可能エネルギーのほとんどはバイオマスとなっている。世界的には、太陽光や風力が大きな割合を占めるケースが多いため、非常に特徴的と言える(日本のバイオマスは数パーセントレベルである)。これはタイがいかに農業資源に恵まれているかということであり、2000年時点から比較してみても、その成長は著しい。タイにおいては、先ほど言及した先端的な技術を活用することにより、太陽光の伸びしろはまだ十分あると言えよう。

こうした状況を踏まえ、日本では、経済産業省が中心となり、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定され、成長が期待される14分野が定義されている。また、20兆円(1,400億円米ドル)規模のGX推進法が策定され、GX領域のイノベーションを加速させようとしている。

タイのエネルギー省が公表した「タイにおけるカーボンニュートラルに向けたエネルギー政策」によると、2065~2070年のカーボンニュートラルに向けての国家エネルギー計画の枠組みが示されている。その中では、電力貯蔵システム、いわゆる蓄電池も用いて再生可能エネルギーの供給を50%以上とする目標が掲げられている。また、2018年以降、バイオ・サーキュラー・グリーンの「BCG経済モデル」を通じた「タイランド4.0」の実現を目指している。この経済モデルは、タイの特徴であるバイオマス発電と同時に、農作物を原料にバイオテクノロジーを応用して、バイオ燃料、バイオプラスチック、バイオ化学製品など付加価値の高い製品を創り上げる方針が検討されている。
自国の強みを活かした経済成長を伴う脱炭素の取り組みについては、日本も非常に学ぶことが多く、また民間事業者にとっては、事業機会にもなりえるだろう。

日本が力を入れるAZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)の取り組み

AZECとは、11カ国のパートナー国が参加し、域内のカーボンニュートラルに向けた協力のための枠組みである。日本政府が「金融面」「技術面」「キャパシティビルディング」の3つの切り口で全面的にサポートするという構造になっている。2023年12月にAZEC首脳が共同声明を発表、今年の8月にインドネシアにて第二回の閣僚会合が行われた。ここでは踏み込んだ検討がなされており、3つのAZECイニシアティブが立ち上がった。
1つめは「電力のゼロエミッション化」の促進。COP28で2030年までに再生可能エネルギーの導入量を3倍に拡大させ、エネルギー効率を2倍に改善することが合意されているが、石炭火力発電所等、化石燃料に関連したいくつかのトピックで対立が見られた。化石燃料への依存度が高いAZECパートナー国においてはCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯蔵)等に加え、再生エネルギー化に向けては「送電網の強化」が必要となるが、それらの領域での協力が重要と考えられる。
2つめは「持続可能燃料の市場創出」。タイを含めてAZECパートナーである国々では、車両、航空、船舶の増加が見込まれており、運輸部門の化石燃料からの移行が必須となる。
このイニシアティブでは将来的にアジアを中心とした持続可能燃料の供給網の構築を視野に入れており、バイオマスを含めた資源を活用した持続可能燃料の確保を目的としている。
タイのバイオマスのポテンシャルが活かせる領域ではないだろうか。
3つめは「次世代産業を構築するイニシアティブ」。アジアでは、GDPにおける製造業の付加価値が高い割合を占めており、今後サプライチェーン全体でのグリーン化が必須となる。一方、個別企業が投資可能な規模は限られているため、例えば、カーボンニュートラル工業団地の創設など、サプライチェーン全体で効率的に脱炭素化していく手法が議論されている。

日本、そしてアジア全域でのGX推進、アビームの支援ポイント

アビームコンサルティングは、一社単独で解決が困難なGXの推進を支援するため、住友商事との合弁会社「GX Concierge」を設立した。GXを推進する上で生じる様々なアジェンダに対し、エネルギー供給サイド、需要家サイド、そして再生エネルギー需給における新たなモデルの創出の3つのカテゴリーに分類して、構想策定から実ソリューションの提供など、幅広いサービスを提供している。直近では、AMEICC(日アセアン経済産業協力委員会)と共同で、メコン地域におけるGXの推進とサステナブルなSCM(サプライチェーンマネジメント)の構築を実現するため、企業担当者を対象とした育成トレーニングプログラムや、金融機関やソリューションベンダーとのマッチングなどを提供している。今後、東南アジア地域においても、再エネ設備や送配電設備への投資が加速し、様々なエネルギー市場の創出が想定される。化石燃料からのトランジションを含めて脱炭素を実現していくという同じ課題を背負っている国として、日本の事例や技術をぜひその取り組みに活かしてほしいと考えている。


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