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新規事業検討を促進するための検討のガイドラインとは?

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2022年5月27日

新規事業検討を促進するための検討のガイドラインとは?

新たな事業領域の検討における軸足の重要性

 あるクライアントから、自社の中期経営計画において、「成長事業領域と定義された枠組みの中で、目標数値のみが先行して置かれているものの、具体的に何をやったら良いかが分からないので、支援してほしい」という相談をいただきました。当初は、既存事業では取り組んでいない新しい事業領域をつくることを目指し、外部環境の変化などを起点に検討を進める中で、重要視している「B2B2C」という世界観を生かしつつ、新しいサービス事業領域(これまで全く接点のない領域)をその対象とするのが有力な候補となりました。しかしながら、この未知の領域への参入を検討するという合意形成には至りませんでした。

 本件の相談者は、「当該検討の背景としての事業計画における成長事業とは何か」、また、定義として「どの程度の事業規模を実現するか?」といった検討も必要という認識をお持ちでした。すなわち、新規事業単体での領域選定ではなく、既存事業も含めた事業全体のポートフォリオや規模感も併せて定義することで、新規事業としての焦点を明らかにする必要があったのです。そうした懸念を解消するために、アビームコンサルティングの支援として、領域・事業計画の検証から立ち返りつつ、新規事業の検討を実施することになりました。並行した2つの検討が走ったことで、「新しい取り組み」というコンセプトの構想を策定するための着想の議論をしつつも、後半は、目標とする収益獲得のためにどの領域で何をするかという検討を進めていくという方向転換をすることができました。

 コンセプトの着想において様々な視点で検討するという自由度を持たせたプロセスは重要ではあるものの、自社の事業計画の中で新規事業領域を定義しているのであれば、経営層や経営企画部門など事業計画を取りまとめている側から検討チームに対して以下のような論点に答えられるような検討のガイドラインを示すことが必要となります(図1)。

  • どういった領域(テーマや市場、事業の状態)への展開を志向し、どういったことを目指したいのか(基本的な方針、目指す姿)(論点①)
  • 具体的な事業規模や時間軸などのマイルストーン(論点②)
  • 実行推進に必要に対してどういった経営資源を投下するかという意思決定や権限委譲といった支援する姿勢(論点③)

図1 事業ポートフォリオの変化と論点

図1 事業ポートフォリオの変化と論点

 

事業ドメインの見極めには自社戦略との適合性を意識する

 クライアントとの後半の議論は、短期的な数字を挙げることができる領域は何かという観点で、検討を進めていくことになりました。インフラサービスを提供する会社だったため、今では当たり前になった「リモートワーク」の環境整備に向けたサービスを事業とすることで、補完的に自社のインフラサービスでの収益を伸ばすという周辺領域での検討に落ち着くことになりました。これは、領域を絞るという意味で上に挙げたガイドラインの論点①と、また短期的な数字を目標とする意味で論点②と関連しています。何より、自社で扱っている製品やサービスとの関連性のある領域に絞ったため、検討の参加者が理解しやすかったことも良い影響となりました。
 そして、新しい領域に展開するためのチャネルの開拓や付加価値サービスの検討を進めていくための仮説設定や付加価値サービスに関わる顧客のニーズ調査や機能領域の検証に時間を当てていきました。
 前半の新たな事業コンセプト検討の段階ではご意見番になりやすかった参加者も、後半では関連部門を巻き込むような主体的な社内営業の推進や既存事業領域との協働の検討体制構築などに目を向けるようになり、当事者意識を持った参加姿勢に変わっていきました。このように、当初の飛び地のアイデアの検討よりも、地に足のついた検討に変わっていくことで、新しいビジネスモデルについての納得感が醸成されていきました。これは、既存事業のみに囚われずに新規事業検討側にリソースや意思決定権をシフトさせる意味で、上述の論点③と関連しています。
 定義の難しい新規事業検討も、一定の着地を意識させるためのガイドラインを提供することで、社内を巻き込み推進力を持った効果的な取り組みへと変えることができます。

 新規事業検討にはいくつかの落とし穴がありますが、このケースでは『新規事業』という言葉が持つニュアンスが、検討チームに対して、『前例のない新しい事業』という強い思考のバイアスを与えることになりました。その結果、検討の中間地点では、多種多様なアイデアが生まれたものの、全員が納得する合意形成には至りませんでした。
 検討における方向転換が起こった背景は、実は成長事業という定義が曖昧なままで検討を進めていたことにあります。様々なコンセプトを多く出す(アイディエーションと呼ばれることもある)段階では、こうした検討での問題は起こりませんが、事業計画において実現したい数値目標がある中では、自由な発想というよりは、現実的に実施できる領域の検討が必要になります。

 事業領域の整理の際には、図2のようなアンゾフのマトリックスがよく使われます。しかし、実際の検討を進める中では、認知が難しい未知の領域から答えを出さなければいけないといった無意識のバイアスが生まれやすくなります。よく目にする成功事例の振り返り事例は、こういったところに「新奇性」があったから成功したと評されることも多いですが、後付けでの解説であることも多くあります。実際の検討の中では、様々な試行錯誤の結果で成果が出すことができたものと思います(試行錯誤の中で発見した図2・右図のBを、後の整理学として図2・左図のBとして一般化していることが多いのだと思います)。

図2 アンゾフマトリックスの考え方と実態

図2 アンゾフマトリックスの考え方と実態

周辺領域でも新規事業!周辺領域をテーマにするメリットは検討後の推進力

 これらの新規事業検討では、新しい事業としての基盤を構築し、一定の収益を確保するなどの成果を得ることにより、組織内でも認知度を高めることが重要になります。成果の実現には、新たな取り組みへの社内の理解と協力を得ることが近道ですが、それが難しい点でもあります。
 この難しさへの対応としては、図2・右図のAの領域であれば、既存事業領域周辺の検討から始めることができるため、自社内資源を活用した優位性も築きやすく、成果にもつながりやすいと言えます。逆に、「新規事業」の検討という強いバイアスによって新規性に目を向け過ぎるあまり、既存事業とあまりにもかけ離れているため、中々理解や協力を得難いということも多くなります。
 紹介したインフラ企業の新規事業の検討支援の中では、結果的に既存の取り組みの周辺のアイデアに検討を絞ることで、検討後の関連事業部門の協力者の巻き込みや自社リソースの有効活用につなげていくことができました。当初の飛び地のアイデアの検討よりも、地に足のついたビジネスモデル検討の方が関係者の納得感を醸成しやすいという結果とも言えるでしょう。特に新規事業検討の議論が煮詰まっておらず、既存事業に偏重している企業の場合、既存事業からかけ離れた新規事業に対する抵抗感も強いため、周辺領域から検討を始め、次第にドメインを拡大していく道筋が有効となりえます。

 また、新規事業の検討推進には関係者の期待値が大きいといった背景も、難しさの一つになります。特に、新規事業の検討のきっかけの一つでもある経営層の想いや危機意識が代表例です。新規事業に対して、最終的に経営層が期待していることは、新たに生み出された事業が既存事業を牽引していくような取り組みになることです。したがって、胆力のある経営者は、図1にあるような事業ポートフォリオの変革を実現するために投資やリソースの投下の意思決定や支援をしています。こうした支援を効果的に獲得していく上でも、着実な実績作りや、経営や事業の戦略との整合などを正しく説明して、社内の協力者を得ていくことが重要です。

 このように、効果的な事業開発の検討を進めていくためには、検討を要請する側(経営陣や経営企画など)から検討チーム(事業部門やプロジェクトチームなど)にガイドラインが提供されていることが重要です。以下のような最低限の要素を提供することだけでも、大局的な検討の枠組みを理解しつつ、直近で取り組める内容は何か、どこから始めるべきかをより具体的に考えて計画して取り組み始めることができるでしょう。
①具体的な検討を推進したい領域やテーマ
②そのテーマや領域を実行推進する目的と背景(戦略的な意図)
③目標とする事業規模や目標達成したい期限

戦略ビジネスユニット ダイレクター

菅原 裕亮