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掴みどころのない“バズワード”を活かして新規事業を創るには?

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掴みどころのない“バズワード”を活かして新規事業を創るには?

新規事業検討によくバズワードが多用される理由

 DX(デジタルトランスフォーメーション)、スマートシティ、MaaS(マース)など、技術の進展や社会情勢の変化に伴い、常に新しい用語が誕生しています。こうした用語はバズワードと呼ばれ、トレンドのキーワードとして、徐々に世の中に浸透していっています。
 しかし、バズワードの持つ意味合いは理解できるものの、具体的に何を表しているのかを説明しにくいことも多いのではないでしょうか。
 では、なぜバズワードが新規事業検討の文脈においてよく使われるのか、大きな理由は3つです。
  • これまでにはない新しい考え方や概念であり、ブルーオーシャンに見える
    (まだ成功例などがないため、競争環境が厳しくない)
  • 有意義な世界観で、長い期間効用がある
    (一定の説得力があり、顕在化すればその世界観の有効期限が長い)
  • 言葉が持つ影響範囲が大きいため、その価値の大きさに期待する
    (解釈する側が効用の影響範囲を大きく感じる)
いずれも、企業が取り組むことによって、「何か大きなビジネスになるのではないか」という成果に対する期待感が醸成されやすく、そうした漠然とした思惑によって検討が始まるといったことが多いのではないでしょうか。
 特に、バズワードは解釈の幅が広いため、発信する側の編集可能な領域が広く、「モノは言いよう」といった状況になりやすいものでもあります。
 バズワードの例として「スマートシティ」について考えてみましょう。図1を見ても、様々な定義があることが分かります。
図1.スマートシティの定義

参考図表1:スマートシティの定義

 この様に同じスマートシティという言葉でも、どういった目的・方向性を目指しているのかによって、意味合いが全く異なります。図1の分野横断型の例は、Alphabet社のX Labから始まった「Sidewalk Labs」が有名です。大量のデータをAIを活用しながら役立てていくといった、先進的な取り組みが多いため、メディアにもよく取り上げられました。
 しかしながら、将来性に基づく検討を行ったものの、実行上の課題が顕在化したことによって、2020年に撤退が決まりました。先進的なイメージを描いていくことだけでは、実効性を示しながら、事業推進・拡大の起点を作ることがなかなか難しいということが分かります。受け手側の期待値を膨らませることが出来るバズワードをうまく使いこなすには、取り組みの入り口時点から一定の成果を出しながら進めることが重要になります。そうした成果を生み出すためには、次に述べるように、自社の事業領域とバズワードが持つ「世界観」を結び付けながら進めると良いでしょう。

バズワードで新規事業検討をする上での課題

 我々もよくこういった「○○(バズワード)で新規事業検討をしたいのだが、支援してもらえないか?」という相談を受けます。このケースの多くは、社内で「なんとなく○○(バズワード)がよさそう」という着想程度の考えで検討を始めたものの、具体的に既存の事業領域とどんなつながりを持たせるのか、どういった文脈を重視して取り組むべきか、といったことがはっきりしないため、具体的に何をすれば良いかが分からないという課題に直面します。その際に重要なのがバズワードの持つ「世界観」の定義です。
 「世界観」を定義するためには、まず、その企業がバズワードに期待している役割や背景、文脈を明確化することから始めます。例えば、不動産開発関連の企業が認識するスマートシティは、既存の不動産事業における建物を起点に考えます。具体的には、建物のより高度な資産管理を実現するというニーズや、建物を日々利用するユーザーとの関わり方を変化させたいといった、目指している「世界観」を定義します。定義を明確化することで、何か新しいことや、描いているものの大きさを漠然と表すスマートシティではなく、やりたいことの具体性を表したスマートシティという文脈を丁寧に解いていきます。

取り組みが進んでいる企業は何をしているのか?

 先進企業は、バズワードが持つ新規性や未来的な世界観(例えば、スマートシティ)を発信することで、既存の取り組みの延長線上では連携の難しい、様々なステークホルダーをひとつの旗印の下に集めています。
 個別の取り組みにおいて、短期的な採算性やメリットの訴求ではなく、目指す世界観の新規性や将来性によって、中長期的に大きなインパクトを期待させることで、コンセプトへの参画を促しています。こうしたムーブメントの醸成によって、単体企業では難しい取り組みコンセプトであっても、相互にその知見を持ち寄り、解決をしながら、コンセプトを体現するエコシステムを形成していくといった活動が増えてきています。
 例えば、スペインのバルセロナ市のスマートシティの取り組みはひとつの成功事例と言えるでしょう。この取り組みでは、ICTの仕組みが整備されたスマートシティの基盤のもとに、交通網、道路設備、水資源管理、ゴミ収集管理など、市民生活に影響を与えるサブテーマが検討されています。テーマごとに、様々な業種の企業やデザインの研究機関、大学、イノベーション施設などが参加してクラスターを構成し、参加企業が持っている強みや知見をどういった文脈でスマートシティ構想に連携させ、関連づけて実践するか、といった検討を進めています。これはバズワードが発展的な議論をするための共通価値観として機能し、エコシステム形成の一助になっているひとつの好事例です。

バズワードを新規事業検討に活かすためのコツ

 バズワードの様な抽象的な単語を起点とする検討であっても、前述のバルセロナ市の検討などから活用におけるポイントを抽出することで、検討の方向性を定めていくことも可能です。
 本コラムを読まれている方々の中でもバズワードを起点にした新規事業検討を依頼され、あまりの抽象度の高さに悩みを抱えているという方がいらっしゃるかと思いますので、ぜひ以下の検討ポイントを参考にしてみてください。何をしたら良いか分からないという状態からは抜け出せると思います。

1. 重要な要素を特定する(新規事業検討への期待値や役割の明確化)

 前述のバルセロナ市の検討テーマに「スマートバス」というものがあります。そのテーマの中にバス会社が、どのような関わりをもつように検討しているかを例に見てみましょう。まず、「重要な要素を特定する」には、既存のバスサービスを提供する上で、新しい変化の潮流をどのように取り込むかが重要になってきます。既存サービスを提供している顧客に対して、新たなサービス(観光地の情報提供、オンデマンドでの路線変更など、新しい付加価値の提供など)を提供したいという意志や、現状のサービスにおいて問題になっている課題(混雑や時間の正確さ、稼働の向上など)に対応するための新しい手段をバズワードが持っている未来的な世界観から見出していきます。続いて、検討の過程において、関係者の中でスマートシティという言葉に対してどういった具体的なイメージを持っているかを明らかにしていきます。具体的なイメージの中には、ポジティブな反応のみならず、ネガティブな反応(新たな競合の台頭や既存事業の強みの消滅など)も含まれるため、その両方を整理していくことが必要になります。

2. 関連性を紐解く(事業とバズワードの位置づけ、バズワードを使うことに至った背景の理解)

 想定している期待や具体的なイメージが、どういった文脈で既存事業やサービスに関連付けられるかを紐解いていきます。先ほどの「スマートバス」の中では、バス会社が提供している路線・時刻表を情報として提供するだけではなく、季節変動や特定の時間帯による繁閑をリアルタイムに把握して、新しいルートや増便などの施策判断をできるようにしていくなど、新しい特性を具体的なサービスや提供する価値として言語化していきます。
 アイデアやイメージレベルでは、実現性が乏しいと感じるものも出てきますが、制約を設けずに、可能な限り多くの可能性を模索することも重要になります。ここで出すアイデアの数が十分でないと、後段の検討における弊害になる可能性も高くなります。

3. 起点となる具体的な事業ドメインを特定する(チームが持っている期待、思いの言語化)

 関連性を紐解く中で出てくる様々なテーマに対して、検討チームとしてどの領域にリソースを投入するか選択と集中が必要になります。事業として取り組む範囲としての事業ドメインを明確化さえしてしまえば、顧客像に対してどういったサービスを提供していくのかという具体的な検討に入れます。最終的に、個別の顧客に対する高い解像度での理解につながっていきます。

最後に

 新規事業開発を行う際、漠然としたバズワードも起点として十分に活かすことが出来ます。バズワードを丁寧に紐解いていき具体的なコンセプトに落とし込んでいくことで、新規事業としてどういったことに取り組むべきかが、はっきりしていきます。
 もし「バズワードで新規事業を考えてほしい」と上司に言われた際には、何をしたら良いかと悩む前に、まずは、着手しやすいところから考えを巡らせることをお勧めします。
 上記のコツを活用して、実際に取り組んでいく中で、様々な論点が出てくるでしょう。具体的に進めて行くための課題解決方法は、今後のコラムでご紹介させていただきます。

戦略ビジネスユニット BizDev Mentor

菅原 裕亮