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長期志向の経営における探索の重要性

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長期志向の経営における探索の重要性

―なぜ長期的な視点が必要なのか?

 日本企業の経営の長期志向は続いています。2019年は、オリエンタルランド、花王、みずほフィナンシャルグループ、東日本旅客鉄道など、日本の上場企業トップ100社のうち13社が中期経営計画の期間を延長しました。この数値は中期経営計画の比較が可能なのは60社の内の、20%を超える割合です。一方で短縮したのは1社(同1.7%)にとどまっており、長期化がトレンドとなっています。また、平均期間は4.0年となっており、一般的に3年程度と言われてきた中期経営計画は1年間長くなっています(図1)。
 では、なぜ経営に長期志向が必要なのでしょうか。変化が激しい時代に対応するため、先に目を向けることで経営のバランスを取るため、現状だけで判断せずに将来の果実を得るため、といった理由が言われています。実際に、長期志向の経営が売上や利益、時価総額の他、雇用創出において高いパフォーマンスを上げているという調査結果もあります(図2)。

図1.中期経営計画平均期間の時系列比較
■ 中期平均期間は4.0年になり、中期経営計画平均期間を延長したのは13社

参考図表1:上場企業100社のうち中期経営計画の期間延長を発表したのは13社


図2.長期志向の経営と業績の関係性
■「長期ビジョンを掲げている」企業ほど売上高の成長率は高く、収益性も高い傾向が見受けられます。

参考図表2:長期志向の経営と業績の関係性(2019年12月末)

自社の事業ドメインを問い直す

 長期志向の経営を実践しようとすると、将来に向けて「自社のどの事業ドメインリソースを投下すべきなのか」ということが最初の課題になっているようです。前述調査でも各社の中期経営計画において、メガトレンドなどの環境分析をする、長期ビジョンを描くという例が多く見られました。最近は、自社は何のために存在するのか(パーパス)を再定義する企業も増えています。パーパスの再定義の効果は基本に立ち返り、自社が関わるべき領域(コア事業)とそれ以外を峻別することにつながります。しかしそれだけでは、多くの場合、経営判断や企業活動の質を多少高めることにとどまるように思います。
 しっかりと企業経営におけるパフォーマンスを高めるためには、事業ドメインの(再)定義、事業モデルの(再)構築に取り組む必要があります。前者は、業種やプロダクトではなく、顧客の目的や行動といった一連の価値が実現される単位で、市場や需要を捉えなおすこと。後者は、テクノロジーやデータの活用による継続的・発展的な顧客接点の構築、顧客の個別性・多様性への対応や、企業連携による価値の実現(エコシステムの構築)などが該当します。

未来起点の思考とビジネスアジリティ

 こうした事業機会の探索活動においてポイントとなるのは、未来起点の思考とビジネスアジリティです。未来起点の思考は、どんな未来が予測されるのかではなくどんな未来を選択するのか、何ができるのかではなく何をしたいのかを考えることであり、連続(今の延長線上)的な思考に対して、非連続的な思考とも言えます。一方、ビジネスアジリティは、正確だが時間がかかる判断でなく、迅速で軌道修正(ピボット)する判断をすること、今ある自社ケイパビリティで取り組むのではなく、必要なケイパビリティを獲得又は他社連携で補うことなどを言います。こうした異なる2つの特性を生かすことで、長期的な視点で実現したいことに思いをはせながら、目の前で起こっていることに対して意思決定を連続して行っていくことができます。長期的な成果に向けて、短期的な活動量や柔軟性を高めることが、結果的に企業としての価値や稼ぐ力に代わるものと考えています。
 私たちのコンサルティングビジネスにおいても、長期ビジョン策定、パーパス定義、それらを踏まえた事業開発、事業変革のプロジェクトは増えており、事業ドメインの(再)定義、事業モデルの(再)構築にクライアントと共に取り組んでいます。その中で強く感じるのは、この取り組みには経営者の参画が欠かせないということです。前述したような未来の選択や持続的な判断は経営者自身が行うことですし、従来と異なる取り組みを推進するにはやはり経営者の意思が大切だと考えるからです。

経営者の悩み:「正解のない問いに答える」

 最近のプロジェクトで、ある上場会社の社長が「経営は何でもしなければならない。今のこともあれば、将来のこともある。特に将来に対する打ち手は、自分の任期後も延々と企業の成果を左右することだ。いかに種まきするかが問われている。」とおっしゃっていました。それを聞いて、自らの意思で未来を描き、未来を切り拓いていく経営者の覚悟を感じたことを思い出しました。
 新規事業の黎明期は、既存の事業の目線でみると様々な粗が目立つものです。しかし、長期的な視点から、新しい競争力を獲得するための重要な芽であるという意識をもって、守り育てていける企業は、新しい事業での成功率も高いと言えます。逆に、新規事業が良いビジネスモデルと良い推進チームであっても、社内の協力や支援が得られなければ結局のところ、継続できず自然消滅することも多いものです。「両利きの経営」という言葉に共感する人が増えているのは、そういった状況抱えている人が多いからではないでしょうか。新しい時代における経営者の覚悟によって、長期的に事業を存続するか否かが掛かっていると言っても過言ではないと思います。

戦略ビジネスユニット長
執行役員 プリンシパル          

斎藤 岳