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事業開発成功の秘訣『共通言語』とは

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事業開発成功の秘訣『共通言語』とは

犬と馬に共通言語?

 「犬猿の仲」という言葉があります。では「犬馬の仲」はどうなのでしょうか? 犬と馬は、家畜化される前は食う・食われるの関係にあり、敵同士の関係にありました。しかし、家畜化された後の現在では、犬と馬が一緒に遊ぶ関係に変化しています。
 そして、現在犬と馬が一緒に遊ぶ際には『共通言語』があることが研究によりわかってきています。例えば、頭を振って遊びに誘ったり、咬むふりをして実際には咬まなかったりと、コミュニケーションを図る共通の行動、すなわち『共通言語』が犬と馬の間にあるそうです。犬と馬という異なる才能が一緒になるには『共通言語』が一役買ったようです。

事業開発の成功と失敗を分けるもの

 弊社が2018年に調査した「事業開発における成功企業と失敗企業を分けるもの」の中で、調査項目40項目の中で以下7項目が、成功した企業に共通する項目として抽出されています。

<事業開発の成功と失敗を分ける要因:上位7項目>
1位:プロトタイプの顧客反応が確認できている
2位:新規事業の営業マネジメント手法が確立できている
3位:事業立ち上げに必要なタスクを理解・特定できている
4位:起案時に求められるコンセプトのレベル感が理解できている
5位:技術・顧客の変化に対応できている
6位:継続的な儲けの仕組みがコンセプト段階で考えられている
7位:事業開発担当者の強い想い(パッション)がある

 結果を眺めていくと、ある程度予想通りだった項目と、若干意外だった項目が並んでいます。予想通りの項目としては、1位:プロトタイプ活用、2位:新規事業の営業、5位:技術や顧客の変化に対応、6位:儲けの仕組み、7位:強い想い(パッション)、です。これらは、これまで多くの事業開発に携わってきた中で、都度都度「大事だ」と感じてきている項目だからです。
 しかし、4位:立ち上げ時のタスクの理解、5位:コンセプト策定時のレベル感の理解、といった項目に関しては、確かに大事だと思うものの、こんなにも上位に挙がるものなのかというのが、最初に調査結果を見た際の印象でした。とは言え、タスク、手順、アウトプットのレベルなどが明確でないと、事業開発のプロジェクトの中で混乱が生じ、活動が停滞してしまうという様子が思い描けます。どうやら犬と馬のような異能が同居する事業開発というプロセスの中では、仕事を進めていく上での『共通言語』がある・ないでその成功確率が大きく変化しているという結果が出たのです。

 また、前述の調査では、新規事業の立ち上げまでの期間は、全体の2/3の企業が1年以上かかっている、1/3の企業が3年以上かかっているという結果が出ていました。大企業、中堅企業を主な調査先としていたこともあり、スピード感に欠ける結果となっています。そんな中、海外のベンチャーと日本の大企業が組んで新たな事業を立ち上げる機会が増えつつありますが、同時にベンチャー側から「日本企業は動きが遅いので組みたくない」という声を聴く回数が増えてきています。日本の大企業はスピードが足りない、アジリティが足りないと良く言われますが、混乱が生まれがちな事業開発だからこそ、『共通言語』をもってスピーディにアジリティをもって進めることが大事になってきます。

こんな商品、誰が買う?

 事業開発における『共通言語』には、単に共通の言葉をお互い知っているというだけでなく、事業開発にとっての大事な考え方を共通して持っているということが大事だと考えています。例えば、「顧客ニーズあるのか?」と会話をするよりも、「顧客のペイン・ポイントは何か?そのペインは切実なのか?前提となる顧客のゴールはなんなのか?」という事業開発にとって大事な会話をする方が、事業開発はブラッシュアップしていくと考えます。
 例えば、以前、ノートPCとして、他社標準品に比べて数万円高いものの、ちょっとした機能がある新商品が販売されましたが、あまりヒットせず終売となりました。そのちょっとした機能というのは、「PCの操作パッドがボタン一つで数字のテンキー入力となる」というものでした。確かに、通常テンキーの無いノートPCにとって、テンキーがあることは『顧客ニーズがある』企画と想定できます。。『顧客ニーズ』があるか・無いかでいうと、あるとしか言えません。一方で、『ペイン・ポイント』という言葉を共通言語として用いていると、周辺のメンバーから「それって切実なペインなの?」という反鐘が鳴りやすく間違った方向に行かない、そして顧客をしっかりと観察する傾向が出てきます。
 実は、そんな細かいところに、事業開発の成功・失敗が隠れているのです。

共通言語

 今回ご紹介した『ペイン・ポイント』という言葉以外にも、『顧客価値』、『ピボット』、『市場の分母(TAM/SAM/SOM)』、『橋頭保(ビーチ・ヘッド)』『GET・KEEP・GROW』などなど、事業開発にとって大事な考え方、共通言語があります。弊社のサービスである Co-Creation Hubに参加いただいた方々には、これらの大事な考え方、『共通言語』についてレクチャーさせていただき、その環境の中で喧々諤々していただく仕組みをとっています。この仕組みが、多様な異なる才能の方々が集まり結果を出す源泉になっているのです。
 昨今、出島の考え方をとる企業が多くなっていますが、出島の中でも、この『共通言語化』を図っていただくことが、多様な才能が花開く一つのヒントになるのではないでしょうか。

戦略ビジネスユニット長
執行役員 プリンシパル          

斎藤 岳