デジタル活用の道をスタートアップとともに切り拓く

 

 

もはや言うまでもなく、デジタルテクノロジーの活用は、あらゆる企業において最重要テーマとなっており、さまざまな企業の取組みが紹介されない日はないほど活況である。
そのような状況の中、“スタートアップと共働しながら、新サービスの創出や既存業務プロセスの高度化・効率化に取り組む”という手法が有効なものの一つとして挙げられ、弊社でも、保険会社向けに、さまざまな支援を実施してきた。

<スタートアップと保険会社との主な共創取組事例>

  • 人工衛星画像の解析技術を用いた災害発生状況検知(損害保険会社)
  • デジタルアプリケーションを用いた健康増進/疾病予防サービスの展開(生命保険会社)
  • デジタルアプリケーションを用いた営業職員の働き方改革(生命保険会社)


このような取組みは加速度的に進んでいる認識を持っているが、まだまだ、企業経営におけるスタートアップ活用の目的があいまいであるうえ、実務的にも有効な方法論が確立されているとは言えず、試行錯誤が伴っているのが実態と考えている。
そのような経験から、現在の状況下で、日本の保険会社が乗り越えていくべき課題(=成功への近道)について、考察してみたい。

 

 

スタートアップ情報の収集と目利き

~自社のビジネスに有益なスタートアップを見極める~

スタートアップに関する情報収集は、大手企業やベンチャーキャピタルを中心に盛んに行われており、日本の保険会社においても、ミートアップイベントへの参加は絶えず、シリコンバレー、シンガポール、イスラエルといった地域に“ラボ拠点”の設置まで行っているところもある。

スタートアップに関する情報収集

一方で、魅力を感じるスタートアップ情報を多く仕入れているが、その後、なかなかPoC(Proof of Concept)に移行することができず、「消化不良に陥っているのでは」と思える状況も少なくはない。
自社のビジネスに有益なものを見極める、所謂、“目利き“がものをいうわけだが、自社のビジネスと課題を津々浦々まで理解した優秀な人材を中期的に相当量投入する負担も大きく、結果として、中途半端な状態に陥りがちである。
この段階では、“自社のビジネスと課題をどれだけ認識できているのか”が明暗を分けるため、協業を検討するスタートアップの 選定を担当する部門は、 “経営陣や業務所管部門と緊密な コミュニケーション”を取りながら、“失敗は許容するが、即座にその後に活かすマネジメント”を強く意識しつつ、目利き力の向上に注力する必要があると考えている。

 

 

スタートアップ活用テーマの設定

~将来まで見据えたビッグピクチャーの上で検討できているか~

海外のスタートアップが持つ技術は、そのまま日本市場に投入できるものであることは稀であり、まずは活用テーマを設定し、クイックに検証していく必要がある。

スタートアップ活用テーマの設定

活用テーマの設定においては、新たなビジネスモデルを立ち上げる構想から、 既存のビジネスに新サービスを追加するもの、既存の業務プロセスを高度化・効率化するものまで、 いくつかのパターンが存在するが、スタートアップに対し、「どう活用できるのか示してほしい」と要望するだけでは、有効なアイデアは得られにくい。
まず、企業側が“将来まで見据えた幅広い視野に基づくビジネスマップ”を持ち、“そのどこでスタートアップを活用するのか”という視座に立ち、“提案を受ける姿勢ではなく、オーナーシップを持って検討を進める”ことが重要である。

 

 

PoC(Proof of Concept)の実行

~大手企業の論理や慣習を押し付けていないか~

活用テーマを定めた後は、実際にサービス化/ビジネス化が見込めるのかを検証するPoC(Proof of Concept)を実施することが多いが、この段階でも、スタートアップとの共創では注意が必要である。
そもそもスタートアップは、興味深い先端的な技術を持つが、財務をはじめとしたリソース面において潤沢であるとは言えないうえ、ビジネス化への道筋を付けることは苦手である場合が多い。
このような相手と共創を進めていくためには、 大手企業の論理をそのまま理解させようとするアプローチのみでは、破談となる可能性が高い。
例えば、PoCに着手する際に、「投資対効果が不明瞭なため判断できない」として、ことさら詳細化を求め、負荷や時間をかけるといったことがあると、スタートアップは疲弊していき、他の協業先を探そうとする。
前述のとおり、デジタル化は、すでにあらゆる企業の最重要テーマであり、スタートアップも「買ってくれるところはたくさんあるだろう」と考えつつ、「うかうかしているとすぐに自分たちの技術が陳腐化してしまう」という危機感も強いため、スタートアップが自社との協業に対して、どの程度の魅力を持っているのかということに十分な注意を払うべきである。
したがって、まずは、当該スタートアップがどの“ステージ”にあり、“持っている基礎技術の価値”がどの程度あり、自社がそれをどう活用し、どの程度“ベネフィットを生み出せるのか”を明確に認識したうえで、“競合社が採用した場合のインパクト”も考慮し、組みたいと思うならば、大手企業だからこそできる支援を積極的に提案していくべきである。
また、上記のような認識について定量感を持つことができていれば、局面によっては、出資やエクスクルーシビティへのフィー支払いといった判断もスピーディにできるはずである。

さらに海外スタートアップの場合には、“文化や言語の相違によるコミュニケーションの課題”も発生する。
この点でも苦労は絶えないが、やはり組みたいと思うならば、こちらの企業論理や慣習を押し付けるのではなく、“シンプルにスピーディにシャープに“進めていく意識をより強く持つ必要がある。

 

 

本格展開

~いかに早くベネフィットを獲得するか~

PoCにより、ビジネス化した際の成功可能性が十分あると確認できた場合、サービスを本格展開していくフェーズに入っていくが、ここでもまた注意が必要である。
デジタル技術の進化は日進月歩であることから、時間の経過とともに市場価値が大きく変動することを十分意識したうえで、“すばやくマーケットにリーチしつつ、段階的にサービスを拡張していくアプローチ”が有効であるが、特に日本の大手企業は、まだまだ、このようなアジャイルな働き方は苦手と言わざるを得ない。

計画から本格展開まで

前にも述べたが、スタートアップには大手企業のような余裕はなく、 理屈抜きの死活問題に近いと言ってもいい。
このような理解のもと、“いかに早くベネフィットを獲得するか”、言い換えれば、“早くベネフィットが出せなければ共創は水の泡になる”という意識を持ち、アジャイルなアプローチも真摯に学び取り組むべきである。

 

このように、スタートアップとの共創は、独創性が期待できる一方で、 従来のソリューションベンダーとは異なる付き合い方を行っていく必要がある。
“スタートアップの特性”をきちんと理解するとともに、“自社が何をしたいのか”をより明確化し、“意思決定スピード”にこだわりながら進んでいくことが成功への近道であり、日本の保険会社においても、ここに掲げた課題を乗り越え、自社の競争力向上に繋げていただくことを、切に願うものである。

 

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