コロナ「禍」システム移行の成功がもたらした
企業のマインドチェンジ

1.本番移行直前期のシステム開発現場を直撃したCOVID-19

 2020年4月7日にCOVID-19にかかる緊急事態宣言が政府より発令された。この全ての企業活動を脅かしたコロナ禍のさなか、同年4~5月にかけて大規模システム開発プロジェクトの本番移行を計画し、本番移行を直前に控えた「社会インフラ基盤を支える」複数のクライアントがいた。我々はこれらクライアントの皆様と共にこの難局を乗り越えるための様々な工夫を考え、試行し、取り組み、クライアントと苦労を分かち合い、移行を無事乗り切ってきた。これらの経験はwith/afterコロナの時代にあって、多くの企業様に示唆を与え得るのではないかと考え、本稿をまとめた。

 緊急事態宣言発令前後のタイミングでのシステム移行延期や本番移行直前からの後戻りは技術的にも容易でなく、失敗すると現行業務に多大な支障をきたし、ひいては多くのお客様や利害関係者に影響を与えてしまうかもしれない。だからと言ってコロナ禍に「本番移行を決行」することで、プロジェクト内部からCOVID-19罹患者が発生し、本来の移行担当者ではない代替要員が不慣れであることを原因にして移行作業をミスする等により、稼働後のシステム障害を誘発する可能性も捨てきれない。
 このように大規模システム移行を直前に控える企業にとっては進退極まった状況下であったが、複数のクライアントは「本番移行の決行」を決断し、緊急事態宣言下での移行を成功させた。本稿では彼らがどのようにしてこの難局を乗り越えたのか、その際、我々はどのようなサポートを行ったのか、また、本番移行の成功が彼らに何をもたらしたのか等を紹介したい。

緊急事態宣言発令下で本番移行したプロジェクトの一例のスケジュール
  • (補足)この「移行スケジュール」は、緊急事態宣言発令下で本番移行したプロジェクトの一例

2.システム移行現場での主な対策は、スプリットオペレーション(※)とリモート会議

 彼らは「本番移行を決行するという意思をプロジェクト全体に浸透」させた上で、「COVID-19罹患予防策」と「罹患者発生時の対策」を用意し、本番移行に臨んだ。

 まず、緊急事態宣言発令の前段階でクライアント企業と主要システムベンダーそれぞれの責任者を交えた会議を開催し、この会議においてコロナ「禍」環境でも「本番移行を決行する」というプロジェクトの意思を確認した。

4月7日緊急事態宣言にかかる安倍首相記者会見、ならびに政府広報資料を基に弊社が作成した図
  • (出所) 4月7日緊急事態宣言にかかる安倍首相記者会見、ならびに政府広報資料を基に弊社作成

 次にクライアント企業は「COVID-19罹患予防策」として、プロジェクトのキーマン(移行チェックポイント判定の意思決定者、移行各チームのリーダー等)に対して速やかにモバイルPC等の必要ツールを導入・展開し、「スプリットオペレーション」と「リモート会議」を開始した。弊社は「スプリットオペレーション」と「リモート会議」をクライアント先企業に先行して取組み、両施策の有効性を示す形でサポートした。

 加えてクライアント企業は「罹患者発生時の対策」としてコンティンジェンシープランに「移行時にCOVID-19罹患者発生」というシナリオを追加し、移行直前に危機対応訓練を行った。

  • (※)拠点を複数用意し、プロジェクトメンバーを各拠点に分散させ、ある拠点でCOVID-19感染者が発生しても残りの拠点で業務継続を可能とする運用のこと

3.With COVID-19におけるシステム開発・移行の留意点

 コロナ「禍」システム移行経験を踏まえ弊社は、「With COVID-19におけるシステム開発・移行の留意点」を次の2つと考えている。

  プロジェクト内のCOVID-19クラスター発生抑止
   COVID-19による不測事態発生時の対応方針策定、訓練実施

① プロジェクト内のCOVID-19クラスター発生抑止
 月並みではあるが、プロジェクトオーナーは、「プロジェクトメンバーからCOVID-19感染者の発生を抑止する」、「万一感染者が発生しても、プロジェクト内でクラスター発生を抑止する」ことを念頭に置いて対策を用意すべきであり、例示のような施策を愚直に徹底し続けることが有効である。プロジェクトが長期に及ぶと「気の緩み」が出てしまい、感染者やクラスターが発生する可能性も高まることから、特に本番移行直前期はプロジェクトオーナーが自ら範を示しつつ、適宜プロジェクトにおいて「引締め」を図ることも重要である。

<クラスター発生抑止施策の例>
  ・スプリットオペレーションの導入(※)
  ・会議のリモート運営
  ・体調不良者(不安者)の出社停止
  ・プロジェクトメンバー同士の会合等抑止(業務外含む)
  ・社員食堂の利用制限
  ・臨時コールセンターの分散(単一フロアから複数フロア)
  ・「気の緩み」がないか定期的に点検し、適宜「引締め」を実行

  • (※)本番移行では移行要員の自宅等では対応できない作業があるため、在宅もしくは勤務先でのスプリットオペレーションまでを考慮。特に本番移行時のスプリットオペレーションでは、感染症対策を施した移行作業エリア(=勤務先内ビルでの区分)を複数用意の上、移行作業(各所からの問合せ作業含む)への影響を十分考慮して移行体制をエリア単位で分割し、本番移行に臨む等の対応を図った。

② COVID-19による不測事態発生時の対応方針策定、訓練実施
 COVID-19に伴う不測事態は、プロジェクト内だけでコントロールできるとは限らないため、不測事態に合わせた対応方針を用意し、実地訓練・机上訓練を行うことが重要である。発生時期(要件定義フェーズ、開発フェーズ、テストフェーズ、移行フェーズ等)によりプロジェクトに与える影響が異なると考えられ、可能であればフェーズ毎に対応方針を検討することが望ましい。

<COVID-19に関連する不測事態と対応方針の例>
■プロジェクト内部でCOVID-19クラスターが発生

  • スプリットオペレーションを実施し、クラスターが発生したグループを切離してプロジェクト業務を続行
  • 移行遅延に伴うリスク延伸プランを追加策定

■輸送機関・サプライチェーン等の混乱によるハード・資材等の到着遅延

  • 非常時のデータ移送手段見直し(媒体輸送⇒高セキュリティ機能を実装したファイル伝送ツールを用いてのインターネット伝送)

■経済活動の著しい制限発生(緊急事態宣言、都市ロックダウン等)

  • 感染症対策の観点で、移行拠点の近隣に移行要員用のホテルを事前確保
  • 移行作業要員が作業拠点に一定期間滞在できるよう、水・食料・毛布等の物資を事前調達

4.「禍」転じて「福」となす ~DX活用の推進と働き方改革の追求~

 コロナ「禍」システム移行は、クライアント企業に対して副次的に2つの「福」をもたらした。
  ① DX活用の推進
   働き方改革追求マインドの向上

コロナ前と後での働き方の変化

① DX活用の推進
 これまでのシステム移行現場は、メンバーが移行拠点に集結し、1つ1つの移行プロセスをきめ細かに確認しながら進めるスタイルが「常識」であり、クライアント企業も当初は「常識」に沿った移行を進める計画であった。ところが、COVID-19対策を強いられたため、本番移行時の進捗確認・チェックポイント判定会議等を「集合・対面形式」から、モバイルPC・リモート会議ツールを駆使した「分散・リモート形式」に切替えた。いざ「分散・リモート形式」で判定会議等をやってみると思いのほか上手く機能し、結果的に本番移行作業を大過なく進めた実績ができた。
 今では生産性向上の観点から日常業務における会議についても「分散・リモート形式」に切替え、従来は1拠点に集合して対面で行う形式だった役員間や本社~営業拠点間の会議、社員研修等において、参加者の移動時間削減に寄与している。
 このように日常業務における生産性向上施策が実を結んだことから、クライアント企業ではDX活用の推進により更なる生産性向上を求める動きが加速している。

② 働き方改革追求マインドの向上
 先述の分散・リモート形式への切替えにおいて、COVID-19対策の観点からクライアント企業は「プロジェクトメンバーの自宅」をリモート拠点の一つとして活用した。緊急避難的な要素が多分にあったものの「在宅勤務」の実績ができたことにより、日常業務においてもこれを積極的に取り入れる動きが始まっている。
 例えば育児・介護と向かい合っている従業員は、「在宅勤務」と「出社勤務」を組み合わせることで、育児・介護と仕事の両立をより実現しやすくなると考えられる。クライアント企業は、「働き方改革」の施策として「在宅勤務の選択」を可能とする就業ルールの改定に着手している。
 

 弊社はクライアント企業とともに築いた「プロジェクトのリモート運営」という新しいスタイルを活かし、with COVID-19環境下のシステム開発・移行プロジェクト運営のケイパビリティを高め、変革にチャレンジする企業をリアルパートナーとしてサポートしていく。

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