全社横断の視点でデザインする
理想の顧客体験が企業の将来を照らす

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2018-19年度版から一部記事を抜粋した内容です。

Miho Mizuno

デジタルテクノロジーの進化やモバイルの普及によって、顧客接点から得られるデータの量・質、そして期待値が、この10年で大きく変化している。BtoCではEC、リアル店舗にかかわらず顧客接点を軸としたマーケティング施策が進むが、BtoBを主戦場とする企業は、市場の変化に追い付くことができているだろうか。顧客が求める理想的な顧客体験(CX)のデザインについて、アビームコンサルティングの水野美歩が解説する。

水野 美歩
P&T Digital ビジネスユニット
CRM セクター長
執行役員 プリンシパル

デジタルの進化と「顧客接点」の重要性

モバイル端末の普及とともに、通信速度やデータ収集・処理能力も高速化し、顧客接点を取り巻くデータの量や質は各段に進化しています。同時に、分析ツールが身近なものとなり、企業がデータアナリストの獲得・育成を進めたこともあり、顧客接点から顧客の行動に関する示唆を得る基盤も整ってきました。

一方、顧客側も自ら情報を集め、SNSや各種コミュニティーなどを通じてその情報をアウトプットする力を身に付けてきました。その過程で、個人の情報の提供に対する抵抗感が薄れ、逆に「自分/自社を十分理解した上での、高レベルのサービス」はもはや「当然の期待」となっています。

こうした環境の変化に対し、BtoCの直販型企業は比較的早く取り組みを進めてきました。BtoBも購入側の行動には変化が見られます。販売会社にコンタクトを取る前に顧客自らが情報収集を行い、顧客同士が情報交換して購買意思を固めるケースが増えているのです。

ただ、販売側の取り組みはまだまだ未成熟です。日本のBtoB企業において、CXを重視して適切な情報提供やコミュニケーションを実現できている企業は多いとはいえません。

顧客接点は企業のフロントライト

プロダクトアウトで良いモノをつくれば売れる時代は終わり、優れた製品・サービス以上に、優れたCXを提供することが、企業の競争力そのものになっています。ただ、ものづくりで成功体験を持つ日系企業は、顧客接点の改善を重視できていません。

一方、従来からマーケティング機能を重視してきた米国の製造業・小売業やITサービスの先進企業では、CXは経営レベルで論じるべき重点投資領域となっています。アジアの新興企業もデジタルを活用した魅力的なCXを次々に打ち出しています。

顧客が顧客を呼び込む時代になった今、顧客と企業の双方向のコミュニケーションは、潜在顧客への獲得にもつながりますから、なおさら真剣に取り組むべき課題と言えます。

何よりも、顧客接点から得られるさまざまなデータには、環境変化の兆しとなる貴重な示唆が含まれています。Webの閲覧履歴、キャンペーンへの反応、店舗やコンタクトセンターへのクレームの変化など、多くの情報がマーケットのトレンドを読むためのインプットとなります。会計データが過去や結果を検証するための「バックライト」であるとすれば、顧客接点は将来を照らす「フロントライト」なのです。

アビームコンサルティングが支援するある精密機器製造会社では、自社の部品を使って製品開発を行うエンジニアや商品企画部門の有識者を集めたオンラインコミュニティーをつくり、新しい技術トレンドなどに関する情報提供を積極的に行っています。また、顧客同士で課題やクレームをシェアし、相互にアドバイスできる基盤も用意しています。

これは、既存顧客に対する満足度向上にも寄与していますし、これまでリーチできていなかった海外の潜在顧客の獲得にもつながっています。さらに、この顧客接点から得られる膨大なデータは、製品開発ニーズの重要なインプットとなり、R&D部門にフィードバックされています。

事業戦略と整合性のある統合的なCXのデザインを

「CX の重要性は理解しているし投資もしてきたが、なかなか成果が見えない」というご意見を多く耳にします。柱となる戦略がないまま場当たり的に改革を進めると、部門ごとに異なるツールを導入し、バラバラの顧客データが誰にも使われないまま増え続ける、という状況に陥りかねません。

今後、新たにCXを構築していく上で重要な三つの「成功のポイント」を紹介しましょう。

一つ目は「事業戦略との整合性」です。紹介した事例のようなデジタルの顧客接点に限らず、リアル店舗、営業担当者、サービス担当者、コンタクトセンターなども含めた全ての顧客接点は、異なる施策を無駄打ちするのではなく、顧客の重要度や注力製品・サービスに応じ、一貫したコミュケーションを提供すべきです。それには、より上段の事業戦略との整合性が求められます。

二つ目として重視すべきは、関連部門間の連携です。「CX =マーケティング部門の仕事」ではなく、全ての顧客接点担当組織が担うべきものです。固定化・分断化した顧客接点の融合は決して容易なことではなく、場合によっては組織の再編成や、業績管理手法の変更をも伴います。これには、より上位の戦略とリーダーシップが欠かせません。

三つ目は、パートナーや顧客自身も含めた、より広義なCXの提供です。エコシステムの考え方の浸透とともに、販売店・代理店・業務委託先などのパートナーはもちろん、顧客自身も含めた社外のステークホルダーとの連携が将来的には必須になります。これについては、テクノロジー的にも制度的にも、社外とのデータのシェアが可能な基盤が整いつつあります。

より優れたCXの提供のためには、まず経営レベルで顧客対応戦略を再定義した上で統合的な顧客接点をデザインし、それらを組織横断で実現していくことが必要です。

われわれは「Customer ExperienceIntegration」として、営業戦略の立案から顧客分析とターゲティング、チャネルや部門をまたいだオペレーションの設計、それらを支えるIT基盤の導入まで、トータルで顧客接点構築を支援します。経営レベルで顧客戦略をリードできる方を筆頭に、全社横断型のプロジェクトとして、ぜひ理想的なCXの提供に取り組んでいただきたいと願っています。

執筆者
水野 美歩
水野 美歩
Miho Mizuno
商社・コンシューマービジネスユニット長

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