「ものづくり」から発信する未来とは?
~製造DXをバックキャストで考えデザインする~

 

橘 知志

P&T Digitalビジネスユニット
IoTセクター長 執行役員 プリンシパル

 

産業変化の加速、多様化する社会課題、そこに加わったCOVID-19で製造業が直面する課題はますます多様化している。DXへの端緒をつかみつつある一方、現場の改善と経営戦略の構想で両者の方向性が一致しない事象も散見される。課題を克服し、10年後20年後も製造業が価値を提供しつづけるために、今取り組むべきことを考察する。(本稿は2020年9月23日「Digital Twin & Transformation Forum2020」での講演「『ものづくり』から発信する未来とは?~製造DXをバックキャストで考えデザインする~」をもとに再構成しています。)

 

製造業をとりまくDXの実状

アビームコンサルティングでは、数多くの製造業のクライアントとプロジェクトを進めている中で、製造業が新しい課題に直面しているという実感を日々深めている。「モノ売り」から「コト売り」への変革、顧客ニーズ起点のものづくり、自前主義からの脱却など産業変化の例は枚挙にいとまがない。また、省エネルギー、リモートワーク/サイバーセキュリティ対策、匠の技の後継者不足、労働人口の減少など、業界特有の社会課題も多方面に及ぶ。そこに加えてCOVID-19は、ヒトではなくモノが移動する状況を生み出し、資材や製品の物流の制約、顧客ニーズの変化、人財配置の見直しなど、バリューチェーン全体のあり方を変えようとするほどの影響を及ぼしている。

コロナ禍以前から、これらの課題解決に向けてDXが製造業の各社で推進されているものの、その対象範囲と効果は特定部門やプロセスの改善など未だ限定なものに留まり、COVID-19を受けて不確定要素がさらに増している潮流にあって、それに対応できるほどに製造現場のDXが真に進んでいるとは言い難い状況である。

 

未来像からバックキャストで考える製造業のDX

DXは、単にアナログなものをデジタルに置き換えることや、データ化や自動化を積み上げるだけで実現されるものではない。デジタル化が進んだ社会のなかに自社を位置づけ、将来に何を創り、何を残すべく、そのために今取り組むべきことは何かを、バックキャストでデザインすることで実現されるものだ。私たちはこの考え方を「Industrial DX Journey」と呼び、未来と現在をつなぐ一つの道程(Journey)として提示している(図1)。

図1.Industrial DX Journey

図1.Industrial DX Journey

 

現在と未来をつなぐ道筋には、業務効率化からアプローチする「バリューチェーン改革」と顧客価値向上からアプローチする「プロダクト改革」の2つがある。前項で述べた産業変化や社会課題、さらに技術革新など外部環境の変化は、このフレームワークでは制約条件として加味する。そして、未来に寄与できる自社のコアを見極めた上で未来像を描き、そこから逆算して、今取り組むべき事項の方向性を策定することになる。この未来を構想する力と、その未来に向かって、バックキャストで今何をすべきかを考える力が、企業には求められるのだ。

このフレームワークを活用してクライアントのDXを支援するなかで、当社では、製造業のDXで目指す未来像に関して、いくつかのパターンを見出しつつある。そして、このDXパターンは、産業・業界特性によって分類される(図2)。
たとえば、「リモート対応ものづくり」「人とデジタルが調和した製造プロセス」「共創による技術インテグレーション」「市場ニーズにリアルタイムに応えるためのマルチ製造」「顧客と直接つながることによる、サプライチェーンのコンパクト化」「バリューチェーン連携による省力化・高効率化」などである。産業や業界ごとに未来像の共通部分もあるが、企業独自の未来像が描き出される場合もある。

図2.DXのパターン例

図2.DXのパターン例

 

たとえば、三品産業のとあるメーカー企業では、顧客ニーズと従業員ニーズを起点に、未来の工場像を構想した。未来の顧客が誰で、どんな特性を持っているのか。その顧客に何を企業として提供するのか。従業員に対して、多様な働き方の選択肢を提供し、その企業で働くことへの誇りと興味が持続し、働く意味を見出せる職場であり続けられるか。この両者に工場が提供できる価値を策定し、デジタル化、データ活用、製造ラインや職場空間の見直しを押し進める構想と、実現に向けたシナリオとロードマップができあがった。

また、製造業がDXを適用する場は、工場内にとどまらない。足元のデジタル化を進めながら、自社製品の顧客価値を拡大するために、異業種とのサービス共創につなげた事例もある。この設備メーカーでは、製造現場でエンジニアリングチェーンをまたいだデータ活用、メンテナンスサービスで設備の挙動データに基づく遠隔監視、自動復帰、予知保全を段階的に実現した。さらに、新サービス創出の取り組みを開始し、建物内の人流データ、売り場の売上げ・混雑予測のデータをもとに、設備機器を自動制御し、オフィスビルや商業施設で利用者が快適に移動できる仕組みをエコシステムで提供し始めている。

この他にも、匠の技の継承に主眼を置いた取り組みや、DXの出口戦略として他業種との新サービス共創をゴールに設定したDXの事例などがある。いずれにしても、デジタル技術ありきの着想だけではなく、顧客や従業員をはじめとするステークホルダー、ひいては社会に対して、将来にわたって提供できる企業価値を生み出すために、未来を描く。その先にはじめて製造DXの実現が見えてくる。

 

製造DXの実現アプローチ

DXの実現段階においては、多くの困難が伴う。製造業によくみられるのが、経営と現場の問題意識や優先順位付けのギャップである。このギャップを埋めるために私たちは、DXを「企業・組織構造の変革」と「産業・事業構造の変革」の2つの領域を横断するサイクルを回すことを提唱する。

図3をご覧いただきたい。たとえば、ある企業が「製造DXアセスメント」からDXに取り組み始めたとする。ここでは、現場のデジタル活用度合の実態を把握する。そして次の活動としてデジタル化を実行し、その効果を評価する。ここまでは現場に即した「産業・事業構造変革」の領域である。さらに、その評価を組織のノウハウとして方法論化し、ナレッジを展開していくと、これは「企業・組織構造変革」の領域の活動になる。そして、ナレッジが人財育成のプログラムで伝承され、現場の人財に発揮されると、「産業・事業構造変革」の領域で事業や現場のあり方が変わり、活性化されていく。このように、DXに関する諸活動がサイクリックに展開されていくのが「DX Activity Circulation」である。

図3.DX Activity Circulation

図3.DX Activity Circulation

 

実際には、このサイクルを回すにあたり、この図にある活動のどこから始めてもよい。人財育成のプログラムデザインでも、DX成熟度アセスメントでも、トレンドリサーチでもよく、企業によって取り組みやすい活動からのスタートで構わない。肝要なのは、継続的、循環的な取り組みにすることだ。経営と現場の乖離、組織の壁が生まれがちな製造業でこそ、手触り感のある経験と共感が大事であり、ものづくりの現場も巻き込んで進める活動が有効なのだ。その意味で、「DX Activity Circulation」を自社内に作り上げていくことがDXを成功させる秘訣だと言える。

最後に、製造業のDXを実現するにはパートナー選びが重要であることは言うまでもない。クライアントを構想策定や戦略提示でリードするだけではなく、サイクルを回し始めるためのサービスも豊富に取り揃えていること、この循環の仕組みが企業に根付くまで、クライアントとともに伴走できるノウハウがあることが、パートナー選定のカギになる。当社では、リアルパートナーとして数々の製造業とプロジェクトを共にしてきた実績を活かし、心強い伴走者として製造業のDXをこれからもご支援し続けていく。

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