DX部門・情報システム部門の果たすべき役割と
5つの成功要因

~人材・カルチャー・データ・AI・インフラの観点からの考察~

日本企業の多くはDXの必要性を認識し、数々のPoCを実施しているものの、実務への本格的な展開に際しては様々な課題を抱えている。
本稿では、それらの課題を解決しDXを成功に導くために、DX部門・情報システム部門がどのような役割を果たすべきかについて解説したい。

DXの狙い

ここ1年の間に「デジタル技術を活用した企業変革の取り組み」を狙いとしてDXプロジェクトの立ち上げを多くの企業が試みるようになった。このデジタル技術には、ランニングコスト・差分コストが限りなく低く抑えられる、コンピューターの性能向上により実現可能性の幅が格段に広がる、瞬時にサービスを組み立てられる、詳細な履歴の記録ができるので詳細な分析と将来予測が可能、それらの応用によりパーソナライズが可能といった利点がある。各企業ではこれらデジタル技術の利点を活かすことで、「既存業務の高度化」や「イノベーション」等を従来に無い規模・スピード・品質で実現しようとしている。
しかしながら、DXの目的を明確にしないまま、技術導入等の手段がいつの間にか目的にすり替わってしまい、構築したシステムが活用されなかった事例は枚挙に暇がない。目的が曖昧なままDXを推進している場合は一度立ち止まって目的を見つめ直す必要がある。目標設定の例を下図に挙げたが、テーマを具体化し、期待効果を明らかにしておくことが重要である。

図1:DXの目的例①:既存業務の高度化

DXの目的例①:既存業務の高度化

図2:DXの目的例②:イノベーション

DXの目的例②:イノベーション
  • ※1  ※2:以下の記事を参考に当社にて作成

    • 山端宏実(2019). 富士フイルム DX戦略の青写真 : AIで挑む、2度目の業態転換,日経コンピュータ 982, 42-45
    • 勝俣哲生「DeNAと損保ジャパンが異色のタッグ 「0円マイカー」の衝撃」(最終閲覧日:2019年10月24日)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/00269/

DXの成功要因とは

さてDXの目的が明確なったとしてもそれは最低限の必要条件であり、それだけでは成功へ導くには不十分だ。DXの成功要因としては、「人材」「カルチャー」「データ」「AI」「インフラ」の5つの要素に着目することが重要である。

① 人材  ~”組織”よりも”人材”強化~
DX推進を行うにあたり、専門組織の形態を綿密に設計し立ち上げに注力する前に、推進に必要な人材要件を検討しておく必要がある。DXには、データ分析ができるデータサイエンティストだけでなく、DXビジネスを企画・推進するストラテジストやデジタルビジネスのシステム設計・実装を担当するアーキテクト、データマネジメントを実行しビジネスとデータの橋渡しをするデータスチュワードといった専門領域に強みを持つ人材となる。
人材の確保は、採用や育成が主な手段だが、社外からの採用においてはリファラル採用等を活用してアカデミア出身等データサイエンスの素養のある”尖った”人材にアプローチすることも有効な方法のひとつだ。社内育成の場合は、役割に合わせた必要なスキルの定義、スキル獲得の方法、キャリアパス等を検討しておく必要がある。データ活用するユーザ側の教育等も重要な要素だ。

② カルチャー  ~段階的な脱アナログ組織~
DXを推進する上で、組織のカルチャーの変革も不可欠だ。変革期においては、変化への素早い対応・新たな視点の積極的な導入が重要なため、厳格な指揮命令系統による統制よりも、より自由な発想・活動・変化を許容する文化が重視される。
また、DXの変革スピードを遅らせないためには、組織の壁を越えた部門間の連携や、様々な課題に対処していく過程でチームを組み替えるネットワークの組織によって、短サイクルで軌道修正をしながら物事を進めていく柔軟なアプローチが有効だ。

③ データ  ~戦略的なメタデータ管理~
DX実現のためのデータマネジメントの論点は多数あるが、データサイエンティストが分析から適切な知見を得て、より多くの人がデータ活用できる環境を整備していくには、メタデータの管理が非常に重要だ。メタデータとは、テーブルのカラム名や業務ルールといった「データを説明するデータ」のことをいう。こうしたメタデータを整備することで、分析等でデータが必要となった場合に、欲しいデータがすぐに手に入りその内容も容易に理解できるようになる。

④ AI  ~ビジネス価値を生み出すAIモデル~
DXの文脈で注目される技術にはIoTやRPA、デジタルマーケティングなどがあるが、どの施策も高度化にあたってはAI技術の活用が不可欠である。
より良いAIモデルを構築するには、適切なビジネス課題を設定しその内容・粒度に応じてモデルを作成することが肝要だ。例えば需要予測において全ての商品を予測可能な万能モデルを作ることは不可能で、需要の傾向が異なるグループ単位で予測モデルを分けて構築するなどの工夫が必要だ。
また、一旦構築したAIモデルは、時間の経過とともにデータ傾向が変化することで予測精度が低下していく。運用開始後は常に実務に合うようモデルの精度が保たれていくことを監視する仕組みも必要になってくる。

⑤ インフラ  ~DX推進者用のプラットフォーム~
前述のAIモデルを構築し管理・運用するにあたって、ステークホルダー毎に異なるニーズが存在する。

  • ユーザとなる業務部門:シームレスかつクイックに業務システムと連携可能
  • モデル管理担当となるDX部門:監査などで求められた場合の説明責任を果たせるようモデルのチェック・管理が可能
  • データサイエンティスト:高負荷処理にも対応可能でデータ加工などのあらゆる分析作業が一つの環境で実行可能
    それらのステークホルダーの要件を取り込んだ基盤として、弊社では「AIプラットフォーム」を構築することを推奨致している(図3)。

図3:AIプラットフォームイメージ

AIプラットフォームイメージ

DX実現へ向けたDX部門と情報システム部門の役割と取るべきアクション

DXで取り上げられる変革テーマは、新しいデジタル技術を活用した実験的な性格が強い「攻めのIT」と位置付けられるものが多く見られる。また、従来の業務プロセスにない新たなプロセスの採用・大きな変更を伴うケースも出てくる。このため、既存システムの運用保守などを行う「守りのIT」検討を進める場合とは異なる開発方法、異なるステークホルダーとの連携等が必要となってくる。
DX専門的な組織が存在せず、情報システム部門が中心的な役割を担っている状況では、「攻めのIT」と「守りのIT」とを分けて、情報システム部門の中でもそれぞれのテーマに合わせて、プロジェクト管理方法を使い分ける必要がある。
DX組織が立ち上がった後は、ビジネスアジェンダに沿ったDXのロードマップの作成、全体のプロジェクト管理、ボードメンバーへのレポーティング、予算管理などを行い、DX組織が全社レベル・組織横断でDXを推進する。また、DXのコアとなる人材を集めたCoE(Center of Excellence)を組成し、各DXプロジェクトにストラテジスト、データサイエンティスト、アーキテクト等の必要なスキルを持ったメンバーを派遣する。(図4)
以上のように、DX部門には、技術的な知見の提供のみならず、ビジネス視点・テクノロジー視点双方からの変革をリードする役割が強く求められる。

図4:プロジェクトネットワークによる全社的な変革

図4:プロジェクトネットワークによる全社的な変革

総合コンサルティングファームであるアビームコンサルティングでは、DX組織の立上げ、AI技術・データマネジメント、データ基盤整備の検討等、あらゆる面からDX推進に必要な検討テーマを扱ってきた。今後とも変化し続けるDXの姿に対応してThought Leadershipを発揮しながら、クライアント企業様のチャレンジを支援していきたいと考えている。

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