昨今、とりわけ製造業では“モノ売り”から“コト売り”へのシフトが叫ばれている。すでにBtoBの世界ではコト売りの成功事例が散見される。工作機械メーカーが開発した建設機械の稼働情報を遠隔で一括管理するシステムや、通信会社がオフィスのIT活用を一括管理するようなサービスが代表例として挙げられる。さらに、個人データを提供・開示することで利用できる新サービスの意向について、官民データ活用推進基本計画実行委員会による調査(※1)では自分にとって日常的な特典や利便性のあるサービスには、4割を超えるサービス利用意向が示されている。このことからも今後BtoCの世界においても個人データの活用を起因として、コト売りがさらに加速していくことは間違いない。では、前述した“心技体”の醸成がされることで、具体的にはどのような新サービスが考えられるだろうか。
例えば、保有する衣服の情報に基づくコンシェルジュサービスが挙げられる。カテゴリー、ブランド、サイズ、素材、写真画像、購入価格など、ワードローブにある、あらゆる衣類や装飾品類の情報を登録してもらうことで、日々の生活シーンでは、着回しコーディネートの提案から不要な(利用頻度の低い)衣服の買取り提案、購入シーンでは、自分にあったサイズや色、在庫がある商品のみのレコメンドや、既に持っている商品に似た商品を手に取った際にはアラートを出すといったサービスが提供されれば、消費者にとっては大きな便益となるかもしれない。衣服の情報や利用頻度は、わざわざ全てを自分で登録せずとも、カメラ映像やSNS画像などの分析技術も活用可能と考える。企業側(アパレルメーカー)は、それらの情報を活用することで、従来の“衣服を売る”というビジネスに留まらず、消費者への提案サービスを、“暮らしを豊かにする”という観点などから新たな価値提供を試みても良いのではないだろうか。
続いて、複数の家電情報を一括管理できるサービスだ。保有している家電製品の情報登録や使用情報の収集を消費者に許諾してもらうことで、故障やメンテナンス時の一括一次受付や、メーカーからの保証期間延長、周辺機器購買時のクーポン、家電の使い方サポートなどを提供するサービスが考えられる。もちろん情報の登録作業も、QRコードや製品そのものを撮影するだけで容易に登録完了できるなどの工夫は必要となる。企業側(家電メーカー)にとっても、これまで自社製品の愛用者登録情報などしか取得できていなかった状況から、他社製品の保有情報や各機能の使用情報等が得られるようになる。ライフスタイルやライフステージごとに、メーカーや製品、機能に対する嗜好を把握できれば、モノ作りに対するアプローチやそれに伴う投資の考え方が従来とは異なるものになるだろう。