上記のような特徴・課題を貿易取引は持っていることから、効率化や利便性向上、更には事務ミスリスク削減を図るデジタル化の試みが、20~30年前からインターネットの普及と共に行われてきた。具体的には、企業間の商取引データを標準規約の下で通信回線を介して電子的に交換するEDI(Electronic Data Interchange:電子的データ交換)を、貿易に適用することが行われた。その代表例には、1998年に国際的な銀行間決済のデファクトスタンダードであるSWIFTやコンテナ輸送の保険会社であるTT Clubが立ち上げたBolero(Bill Of Lading Electronic Registry Organization)がある。BoleroはBLなどの船積書類を電子化し、取引関係者間においてデジタルベースでのデータ共有を実現した。
しかし、このように長年に渡って進められたEDIだが、その利用は大企業の一部のプロセスに留まり、本格的な普及には至らなかった。というのも、一因として技術面を中心とした課題があったからである。例えば、取引相手がそれぞれ個別EDIを持つ場合は形式が異なるデータを統合する手間・コストが発生したり、セントラルサーバーへの取引集中による負荷対応やデータ耐改ざん性が十分と言えなかったりするといった課題である。
しかしながら、近年においては、Web技術、OCR(光学文字認識)、更には、ブロックチェーンといった情報技術が飛躍的に進歩し、その結果、様々な取り組みの萌芽が芽生え、貿易金融を含むプロセスデジタル化に向けた潮流が生まれている。その潮流のいくつかを紹介する。
潮流①:顧客(輸出入業者)との接点のペーパーレス・デジタルデータ化
業界横断での船積書類電子化が途上の中、銀行と顧客との接点においてペーパーレス化・プロセスデジタル化の動きが出てきている。
その一つは、銀行が受領した紙ベースの書類をOCRによってデジタルデータ化する取り組みである。つまり、紙で受け取った船積書類をデジタルデータ化し、システムによるディスクレの自動チェックや、後続の行内プロセスのシステム処理に繋げようとするものである。しかし、この取り組みは、企業毎に船積書類の書式が不統一で、輸出者の名称など各項目の表示位置は同じ書類種類でも企業によって異なるといった課題があり、AI・機械学習の高度化による読み取り精度の向上が期待されている。
また、並行して、大手行を中心に、銀行顧客と銀行間を電子的にやりとりするポータル(以下、トレードポータル)を導入してきている。トレードポータルは、船積書類情報をデータとして入手できる上、例えば、コルレス先から受領したL/Cの顧客宛通知の迅速な伝達を可能にするといった顧客メリットを与えることが可能となる。しかし、有価証券であるBLの権利移転といった法整備がなされていないため紙ベースでのやりとりが残存しトレードポータルを利用するインセンティブが限られるといった課題がある。
潮流②:銀行内の貿易金融プロセスデジタル化・自動化
上記の顧客接点のデジタル化の動きと並行し、RPA、BPMツール(Business Process Management)や貿易金融パッケージにより銀行内のプロセスをデジタル化する動きもある。例えば、先のトレードポータル経由で入手した取引データを、RPAを使って記帳システムに自動入力する、更には、TBMLのスクリーニングシステムに自動入力するといったマニュアル処理の削減である。また、貿易金融パッケージ、BPMツール、APIなどを用い、複数の部署やシステムを跨いで連携させるソリューションもあり、欧米行を中心に導入が進んでいる。しかし、繋ぐシステムが多い場合、システム連携コストを含めて大規模な開発となるといったことへの留意が必要である。
潮流③:コンソーシアム型貿易プラットフォームの構築・参加
先に述べたEDIの技術的な課題を克服するのが、ブロックチェーンの出現と共に大きな期待を集めるコンソーシアム型貿易プラットフォームである。貿易取引は、有価証券や契約など原本性が求められ、紙ベースで契約・書類をやり取りしながら、多くの関係者が順繰りに目で確認・処理をする「多数のプレイヤーからなる壮大なリレーゲーム」であると述べた。ブロックチェーンには、①改ざんが非常に困難、②一度記録した取引履歴は削除できない、③リアルタイムで必要な参加者との情報共有が可能といった特性があるが、こういった特性は、原本性・トレーサビリティの確保といった貿易取引の必須要件にマッチすることに加え、今までは郵送などで時間がかかっていたプロセスの迅速化といったメリットの享受を可能にする。こういったブロックチェーンと貿易の持つ特性の親和性が認識され、図4のように世界各地域において、様々な機能を持ったプラットフォームが立ち上がっている。