スポーツにおけるタレントマネジメントの将来像

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2018.02.01
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スポーツにおけるタレントマネジメントの将来像

執筆者情報

  • 久保田 圭一

    Principal

タレント発掘や育成に蓄積したデータを活用

近年、ウェアラブルセンサーやタブレット端末・スマートフォンの普及により、アスリートのデータ収集が容易になってきた。ウェアラブルセンサーによって心拍数、走行距離、スプリント回数などのデータが計測・記録できるようになり、タブレット端末・スマートフォンで、フィジカルやコンディションを簡単に記録できるアプリケーションも登場した。

このように記録されたアスリートのデータは、スポーツ界の発展に非常に重要なものになる。特にデータに基づく才能、つまりタレントの発掘及び育成という観点で大きな役割を果たすことが期待される。

タレントの発掘については様々なアスリートのデータが経年的に蓄積されていけば、その中にはオリンピック・パラリンピックのメダリストになったアスリートのデータも蓄積されていく。そのメダリストたちに関する過去のデータを分析すれば、「ある競技でメダリストになるアスリートは小学生の頃はこのような特徴があった」ということが把握できるようになる。分析結果を踏まえ、蓄積されたデータの中からそのような特徴を持つジュニアアスリートを強化選手として指定し、中長期的な育成プログラムを提供するといった一連のデータ活用方法までが想定できるようになる。このような取り組みは今すぐに成果が出るものではないかもしれないが、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎える今こそ、こうした中長期的なプロジェクトに国として取り組み、アスリートのデータという重要な資産を残すことが必要ではないだろうか。

実際に2017年には日本においてデータを活用したタレント発掘の取り組みが開始した。公益財団法人日本体育協会が主体となって推進している「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」だ。このプロジェクトは、オリンピック・パラリンピックの競技を対象に、中高生アスリート、パラアスリートにフィジカルデータや大会成績を登録してもらい、そうしたデータからスクリーニングをかけて有望なアスリートを発掘するプロジェクトで、現時点ではデータに基づいてアスリートの特性を把握し、その特性に応じて適する競技を探す種目適正型のタレント発掘を行っている。

このプロジェクトによって、国の取り組みとして初めてアスリートのデータを蓄積する環境が整備されたのだが、将来的にこの環境にデータが蓄積されていけば、前述のようにメダリストの特徴と合致するアスリートを発掘することにも活用できると考えられる。その点において、このプロジェクトは日本のタレント発掘の発展における大きな一歩と言えるのではないだろうか。

多様なデータの組み合わせが新たな価値を創出する

アスリートのデータというと、フィジカルデータ(身長体重などの基本的なデータや、様々な身体能力のデータ)が注目されがちだが、フィジカルデータに様々なデータを組み合わせることでさらに有益な示唆を得ることもできる。スキル、スタッツ(成績)、メンタル、コンディション、生活環境(食事の内容等)などのデータを組み合わせて分析することで、新しい価値を生みだすことができるからだ。
例えば膨大な蓄積データから、「朝ごはんにお米を食べている子供は足が速い」という結果が出てくるかもしれない。その場合、日本のコメ業界はそのデータに大きな価値を見出すことになる。あるいは、メンタルとコンディションの関連性にも何らかの示唆が見えるかもしれない。こうした分析はアスリート以外にも有効ではないだろうか。つまり、スポーツに関する様々なデータから価値が生まれ、ビジネスにも発展し得る可能性がある。

また、スポーツを盛り上げるには、「する人」であるアスリートだけではなく、「支える人」であるコーチや審判も重要な役割を果たしている。しかしながら、現在のスポーツ界においては、アスリートのデータにのみ注目が集まっているのが現状だ。

コーチや審判についても、アスリートと同様に様々なデータを管理し、育成に活用することは日本のスポーツ界において重要な課題ではないだろうか。特に、サッカーなどのスポーツでは、審判は選手と同じように走る必要があり、それと同時に的確な判断力が求められる。この能力を維持するには、アスリートと同じように自己管理や訓練が必要だ。従って、例えば“どの程度のフィジカルを維持しなければいけないのか”といった基準について蓄積されたデータにより定め審判の質を維持・向上していくことは、日本のスポーツ界にとって有益なことであると考る。もちろん、それはコーチの場合でも同様だ。

スポーツ界におけるデータを活用したタレントマネジメント

スポーツ界でのデータ活用人材の育成が急務

一方でこうしたデータ活用を推進していく上でのハードルも存在する。
特にパフォーマンスの向上におけるデータ活用においては、①データ収集、②データ分析(示唆出し)、③アクションの検討(トレーニングへの落とし込み)、④実行、というプロセスが必要だが、現状は②データ分析(示唆出し)まではできているものの、③アクションの検討(トレーニングへの落とし込み)につなげることが難しい。その理由はデータ活用における人材の不足だ。
データ分析の結果として出てきた示唆をトレーニングに落とし込むには、コーチやアスリートがデータ活用を積極的に行う必要がある。積極的に行うにはデータに対する理解が必要だ。
しかし、データ活用は近年急速に注目されてきたテーマであり、まだまだスポーツの現場に浸透しているものではない。データを取得するセンサーなどのツールは充実しているが、それを活用する人材が不足しているからだ。
スポーツ界に関わらずデータは21世紀の最も重要な資源とも言われている。日本では、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、国全体がスポーツの発展を支援している。そのような機会がある今こそ、データという資源を有効活用するための人材育成に早急に取り組むべきではないだろうか。

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