近年、ウェアラブルセンサーやタブレット端末・スマートフォンの普及により、アスリートのデータ収集が容易になってきた。ウェアラブルセンサーによって心拍数、走行距離、スプリント回数などのデータが計測・記録できるようになり、タブレット端末・スマートフォンで、フィジカルやコンディションを簡単に記録できるアプリケーションも登場した。
このように記録されたアスリートのデータは、スポーツ界の発展に非常に重要なものになる。特にデータに基づく才能、つまりタレントの発掘及び育成という観点で大きな役割を果たすことが期待される。
タレントの発掘については様々なアスリートのデータが経年的に蓄積されていけば、その中にはオリンピック・パラリンピックのメダリストになったアスリートのデータも蓄積されていく。そのメダリストたちに関する過去のデータを分析すれば、「ある競技でメダリストになるアスリートは小学生の頃はこのような特徴があった」ということが把握できるようになる。分析結果を踏まえ、蓄積されたデータの中からそのような特徴を持つジュニアアスリートを強化選手として指定し、中長期的な育成プログラムを提供するといった一連のデータ活用方法までが想定できるようになる。このような取り組みは今すぐに成果が出るものではないかもしれないが、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎える今こそ、こうした中長期的なプロジェクトに国として取り組み、アスリートのデータという重要な資産を残すことが必要ではないだろうか。
実際に2017年には日本においてデータを活用したタレント発掘の取り組みが開始した。公益財団法人日本体育協会が主体となって推進している「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」だ。このプロジェクトは、オリンピック・パラリンピックの競技を対象に、中高生アスリート、パラアスリートにフィジカルデータや大会成績を登録してもらい、そうしたデータからスクリーニングをかけて有望なアスリートを発掘するプロジェクトで、現時点ではデータに基づいてアスリートの特性を把握し、その特性に応じて適する競技を探す種目適正型のタレント発掘を行っている。
このプロジェクトによって、国の取り組みとして初めてアスリートのデータを蓄積する環境が整備されたのだが、将来的にこの環境にデータが蓄積されていけば、前述のようにメダリストの特徴と合致するアスリートを発掘することにも活用できると考えられる。その点において、このプロジェクトは日本のタレント発掘の発展における大きな一歩と言えるのではないだろうか。