国内金融機関におけるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組み

インサイト
2021.11.18
  • 銀行・証券
  • サステナビリティ経営

執筆者情報

  • 岡 朝文

    Director
  • 松尾 直弥

1. はじめに

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)については、昨今、日本国内の多くの企業においても意識が高まっており、取り組みが進められてきている。こうした中、日本国内の金融機関においてもSDGsを実現するための活動を社会責任ととらえ取り組みが進められている。とくに金融機関の取り組みは、社会インフラの一部として位置付けられ、多くの企業や各種組織・団体との接点があることから、今後の日本国内におけるSDGsの普及においても影響を与えるものと考えられる。
本インサイトでは、日本国内の金融機関がSDGsのどのような項目に注目し、取り組みを進めているかについてご紹介する。なお、SDGsに関係するキーワードとして、ESG(Environment/環境、Social/社会、Governance/ガバナンス)がある。金融業界においては、ESG投資のキーワードでよく使われるが、これらは、各活動においては重なる部分もあることから、本インサイトにおいてはSDGsとESGの両方を対象として扱う。

図1 SDGs17の目標

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1. 貧困をなくそう 10. 人や国の不平等をなくそう
2. 飢餓をゼロに 11. 住み続けられるまちづくりを
3. すべての人に健康と福祉を 12. つくる責任使う責任
4. 質の高い教育をみんなに 13. 気候変動に具体的な対策を
5. ジェンダー平等を実現しよう 14. 海の豊かさを守ろう
6. 安全な水とトイレを世界中に 15. 陸の豊かさも守ろう
7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに 16. 平和と公正をすべての人に
8. 働きがいも経済成長も 17. パートナーシップで目標を達成しよう
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

参照:外務省ホームページ

2. 日本国内の金融業界におけるSDGsの取り組みの概要

環境省が2020年3月に公表している「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版]」において、SDGsの活用によって広がる可能性として「企業イメージの向上」「社会の課題への対応」「生存戦略になる」「新たな事業機会の創出」の4点が挙げられている。これらは、厳しい経営環境が続いている金融機関においても、中長期的な視点を持ち持続可能な経営を実現する上で、重要なテーマと考えられる。金融機関のSDGs・ESGの取り組みについて、業界団体としての取り組みと、個別金融機関の取り組みについてみていく。

図2 SDGsの活用によって広がる可能性 図2 SDGsの活用によって広がる可能性

出典:環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版] 概要版」

a)金融業界団体の取り組み
金融の各業界団体の取り組みとして、銀行については2018年3月に全国銀行協会が会員の銀行役職員の行動規範・倫理規範として定めている「行動憲章」の見直しを行い、SDGsやESGの課題に対する視点を反映した。証券業界においても日本証券業協会が2018年3月に「SDGs宣言」を公表し「1. 貧困、飢餓をなくし地球環境を守る取組み」「2. 働き方改革そして女性活躍支援を図る取組み」「3. 社会的弱者への教育支援に関する取組み」「4. SDGsの認知度及び理解度の向上に関する取組み」をテーマとして挙げている。また、保険業界においては、生命保険協会や損害保険協会が「行動規範」を改正するなど、SDGs達成に向けた取り組みの方針を示している。

b)個別の金融機関の取り組み
社会的課題解決・SDGsの実現という金融機関の経営課題に対し、どのような重点項目(マテリアリティ)を設定しているかをメガバンクの開示資料をもとに整理する。
図3の通り、各金融機関の特色が出ているが、いずれについても環境などの外部に対する取り組みと、経営基盤・ガバナンスの整備などの金融機関内部に関連する項目が挙げられている。
また、このような金融機関ごとの経営方針のもと、具体的なKPIを定めて取り組みが進められている。例えば、三菱UFJフィナンシャルグループでは、サスティナブルファイナンスについて2019年から2030年までに累積35兆円(当初20兆円としていたものを2021年4月に上方修正)の実行を目指すという目標を設定している。
従来から環境格付融資やグリーンボンドの引受などがあったが、昨今は「グリーン預金」による金融機関自身の資金調達や、資金調達先のESG・SDGs活動の目標の達成状況や社会的影響により条件が変動する「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」「サスティナビリティ・リンク・ローン」の実行など多様化してきている(図4)。なお、それぞれの商品の特性については、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)や環境省が公表している各種原則・ガイドラインをご参照いただきたい。

図3 メガバンクが設定する重点項目(マテリアリティ)

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金融機関グループ 重点項目(マテリアリティ)
三菱UFJフィナンシャルグループ 環境・社会課題 地球温暖化・気候変動
複数の領域に関連する課題
産業育成と雇用創出
社会インフラ整備・まちづくり
少子・高齢化
金融イノベーション
働き方改革
みずほフィナンシャルグループ ビジネス 少子高齢化と健康・長寿
産業発展とイノベーション
健全な経済成長
環境配慮
経営基盤 ガバナンス
人材
環境・社会
共通 多様なステークホルダーとのオープンな連携・協働
三井住友フィナンシャルグループ
  • 「経営基盤」はマテリアリティではないが経営の取り組みとして示されている
重点課題 環境
コミュニティ
次世代
経営基盤 人材
カバナンス

出典:公表資料をもとにアビームコンサルティングにて作成

図4 SDGs・ESGに関連する金融商品の例

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金融商品 金融機関 商品の概要
グリーン預金 三井住友銀行 2021年4月1日より「グリーン預金」の取り扱いを開始。
調達した預金は、再生可能エネルギー向けエネルギーのファイナンスに充てる。
「SMBCグリーン預金フレームワーク(サスティナティクス・ジャパンが協力)」に沿って募る。
三井住友信託銀行 2021年5月7日より「グリーン預金」取り扱い開始。
グリーン預金により調達した資金は、原則適格グリーンプロジェクトに充当される。
ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF) 三井住友信託銀行 2019年3月に世界初の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の実施を発表。国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱するポジティブ・インパクト金融原則に基づくもの。2020年12月末時点までに14件の実績がある。
静岡銀行 2021年2月1日に中小企業向け「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約締結を発表。本邦初の地域金融機関として中小企業向けの評価枠組みを用いた融資。
サスティナビリティ・リンク・ローン 滋賀銀行 2020年9月17日に「『しがぎん』サステナビリティ・リンク・ローン」の実行を発表。
三井住友銀行 2020年9月23日に「サスティナビリティ・リンク・ローン」と「ESG/SDGsに基づくコミットメントライン・シンジケーション」の組成を発表。
日本政策投資銀行 2020年12月5日に「DBJ-対話型・サスティナビリティ・リンク・ローン」の実行を発表。貸出期間中の両社の定期的な対話によりSPTs(サスティナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)の達成に向けた伴走を行うこととされている。

出典:公表資料をもとにアビームコンサルティングにて作成

3. 国内外のSDGs・ESGに関連する枠組み、ガイドラインの策定

金融業界においては、2015年のSDGsの国連採択の以前から現在まで、スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動原則)等をはじめとした企業価値の向上と経済発展のつながりに関する検討が進められてきている。この中でも、とくに金融機関にとっては、国連が主体となり進めているPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)、FSB(金融安定理事会)によるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の最終報告等は影響を与えていると考える。

直近の動きとしては、2021年6月に国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が統合し、Value Reporting Foundation(VRF)を設立している。また、IFRS財団※はISSB(国際サステナビリティ基準審議会)創設に向けた定款の改正作業を進めているとされている。こうした動きは、SDGs・ESGに関する企業報告において、一定の品質と透明性を求めるものになると考えらえる。その結果として、統一的な基準のもとで企業の取り組みの評価が可能となり、投資家・資本参加者等の意思決定にも影響を及ぼす可能性がある。

  • IFRS財団:国際会計基準(IFRS)の開発を進める国際会計基準審議会(IASB)を監督する立場にある組織

図5 SDGs・ESGに関連する枠組み、ガイドライン

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2006年4月 国際連合
「PRI (責任投資原則)」提唱
2010年6月 英国 財務報告評議会(FRC) 金融行為監督機構(FCA)
「スチュワードシップ・コード」「コーポレートガバナンス・コード」公表
2012年9月 英国 財務報告評議会(FRC)
「スチュワードシップ・コード改訂」公表
2014年1月 国際資本市場協会(ICMA)
「グリーンボンド原則(Green Bond Principles: GBP)」策定
2015年3月 金融庁・東京証券取引所
「コーポレートガバナンス・コード原案」公表
2015年10月 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)
「ポジティブ・インパクト金融原則」策定
2017年3月 環境省
「グリーンボンドガイドライン」策定
2017年6月 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
「最終報告 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」公表
2017年6月 国際資本市場協会(ICMA)
「グリーンボンド原則(Green Bond Principles: GBP)」の改訂
2018年6月 金融庁
「投資家と企業の対話ガイドライン」公表
2018年6月 東京証券取引所
「コーポレートガバナンス・コード(2018年6月1日改訂)」公表
2019年9月 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)
「PRB(責任銀行原則)」公表
2019年10月 英国 財務報告評議会(FRC)
「スチュワードシップ・コード2020」公表
2020年3月 環境省「グリーンボンドガイドライン2020年版」、
「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2020年版」策定
2021年6月 金融庁
「投資家と企業の対話ガイドライン(2021年6月11日改訂)」公表
2021年6月 東京証券取引所
「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月11日改訂)」公表

出典:公表資料をもとにアビームコンサルティングにて作成

アビームコンサルティングの見解

日本国内においてSDGs・ESG取り組みが本格化するきっかけとなったのは、「持続可能な開発目標(SDGs)」の2015年9月の国連サミットにおける最終文書の合意であるとされている。その中でも、日本国内の投資・運用の領域においては、2015年9月の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による国連責任投資原則(PRI/Principles for responsible Investment)への署名の発表により、取り組みが加速したと言われている。その後、2019年9月には責任銀行原則(PRB : Principles for Responsible Banking)も策定され、大手銀行や地方銀行等の日本国内の8金融機関※が参加している。
金融機関にとってこれらは、社会インフラを担う立場としての責任を果たすという側面と新たなビジネスの機会という側面があると考えられる。従来からある社会貢献としてリターンを目的としない支援(寄付等)も重要な活動ではあるが、そうした付加的な活動は個社の経営環境に影響を受けやすい。そうした中で、SDGsに中長期にわたり持続的に取り組むためには、ファイナンスなどの金融機関としてのコアの事業とリンクした活動が重要になると考える。
世界的にもESG・SDGsの取り組みは発展の途上にあり、今後、市場規模も拡大していくことが予想される。そうした中で、各金融機関はそれぞれの特色を生かしながら積極的に取り組みを進めノウハウを蓄積すると共に、しっかりと取り組みについてアピールし社会的な評価を得て取り組みをさらに深化させる、といった循環を作ることが大切である。

  • UNEP FI ホームページによると国内17の機関がUNEP FIに参加し、うち8金融機関がPRBに参加(2021年8月13日時点)

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