日本の製造業ではDXの取り組みが遅れている、とはよく言われることだ。しかし、なかなか進まない理由は何だろうか。
考えるに、日本企業は、欧米の手法を学ぼうと「しすぎ」ではないだろうか。特にメディアでも取り上げられることが多い米国型の手法を妄信する傾向がある。学ぶことは決して悪くはないが、実は製造業に関するテーマを扱う米国研究機関の多くは、日本企業のやり方を研究している。にもかかわらず、それは日本企業にとって学ぶべき対象に見えているのだ。
その理由は、欧米が、1つの物事を「コンセプト」や「モデル」、「理論」にまとめ上げてみせるのが得意だからだ。まとめ上げたコンセプトなどが業界で注目を集め、やがてそれがデファクト・スタンダードとなって業界の流れを変える。一時期、業界をにぎわせた「アジャイル開発」や「スクラム開発」は、その典型的な例である。
欧米企業が形にしたものを日本企業が受け入れること自体には無論問題はないが、その中身の本質を見極められているかが問題なのである。
次に、多くの企業がDXを推進する中で、大きな課題として浮上しているのが人材不足だ。DX推進における人材、組織観点の課題として、経営層からは、DX推進リーダーの不足、人材不足、事業全体や産業全体を理解している社員がいないといった声があがる。また、現場層からは、総論賛成・各論反対とありがちな議論の帰結、そして経営層へのアプローチ方法やデジタル技術の活用方法が分からないなどの声があがっている。
そもそも「DX」という学問はなく、どちらかといえば専門用語が厳密に定義されるというよりもバズワードが先行しがちでありながら、DX推進が汎用性が高いデジタル技術を幅広い領域に適用させる取り組みであるため、産業や自社のビジネスの特徴を踏まえた個社の将来像を描けていないことが課題なのである。