外部プロフェッショナル活用による変革実行の落とし穴 第1回 5つの落とし穴と処方箋

インサイト
2024.05.15
  • 経営戦略/経営改革

事業環境の不透明さに伴い企業変革の難易度も高まっている潮流の中、コンサルティングファームなど自社にないノウハウをもつ外部のプロフェッショナルを活用する日本企業は多い。しかし、一言で「外部プロフェッショナル」と言っても、その種類は幅広く、特徴も千差万別である。
本インサイトシリーズでは全5回に渡り、多様な外部プロフェッショナル(以下、「外部プロ」という)、なかでもコンサルティングファームとどのように協業して変革を進めるべきか、企業が陥りがちな「落とし穴」を解説し、それを回避あるいは乗り越えるための処方箋を提言する。
第1回では全体像を紹介する。

執筆者情報

  • 藤田 欣哉

    Principal

企業変革における外部プロ活用の拡大

昨今、激変する事業環境に正対し、「いよいよ変わらねば」と企業変革に果敢に挑戦する日本企業は増えている。一方で企業変革の難易度も高まっているため、足りない知見や工数を補うために、外部プロを活用する日本企業も多い。外部プロといっても、調査会社やITベンダー、独立コンサルタントなど様々あるが、特に存在感が大きいのは、戦略系や会計系、IT系などと分類される大手コンサルティングファームである。

企業変革の「実行」フェーズにおける尻すぼみ問題

ただし、コンサルティングファーム(以下、「ファーム」という)は、「ボードルームコンサルタント」「マネジメントコンサルタント」と呼ばれる、大企業トップ層との繋がりが強い外資戦略系ファームから、新興の独立系ファームまで、強みも単価も多様性に富む。ところが、どんな強みをもったファームであっても、人の体にとっての薬と同じで、その起用方法を誤ると、費用対効果を得られないことは数多い。とくに、クライアント企業がファームに対して期待と実態の乖離にしばしば直面するのが、変革の実行段階である。ファームを活用していかに筋の良い「構想」を打ち出したとしても、肝心要の「実行」で尻すぼみして変革の果実を十分に刈り取れない。この原因は、究極的にはそもそものファームの選定段階にあることが多い。(結局「人次第」な面もあるが)ファームのタイプにより得手不得手があるのが当然で、例えば、経営者目線でドラスティックな変革シナリオを描けたからといって、実際その通りに現場を動かすのが得意な訳でもない。  変革の「実現」フェーズにフォーカスを当て、選定時にクライアント企業がファームを「適材適所」でスキルやマンパワーを発揮できるよう注意しなければ、目的にフィットしないファームを選んでしまい、目的達成ができなくなることが往々にしてあるのだ。

「実行」フェーズで陥りやすい落とし穴

ファームを選ぶ側が陥りがちな落とし穴は、5つの視点で整理できる。

➀「タスクの解像度」の視点からは、トップダウンの罠がある。
現場の強い日本企業では、経営トップが「その方針で社内調整しておいてくれ」と部下に依頼しただけでは、現場は「笛吹けど踊らず」に終わることも多い。
また、人は誰でも理屈通りに動ける訳ではないため、「わかってはいるができない」という現場社員も多いが、そのような人々に配慮が足りず、タスクやスケジュールの解像度が甘くなりがちだ。

②「ITリテラシー」の視点からは、ITリテラシー無き業務改革の罠がある。
企業のオペレーションとITが不可分化する中、ITシステムの制約条件を見落とし、折角描いたオペレーションのTo-Be像が非現実的になることがある。無邪気に業務改革を突き進めていくと、それに伴うITシステムの改修費用が存外大きくなり、投資効果を打ち消してしまうことも多い。特に、親会社の基幹システムに相乗りしている子会社の業務改革のようなケースでは、ITの制約条件を子会社に閉じて考えていると、親会社の影響が大きいことが後々に判明し、業務改革の方向性が全面見直しとなることがある。ファームの人材の皆が皆、ITリテラシーを有する訳でないことには留意すべきである。
 
③「成果の実現性」の視点からは、成果報酬偏重の罠がある。
関与時間に応じて算定される固定報酬型ではなく、利益改善額などのプロジェクト成果に応じて算定される成果報酬型での契約も近年は増えているが、これは投資効果がわかりやすい点が発注側に好まれている。受注側も、たとえ単価レートが高いファームであっても、高額報酬の支払余力のある企業以外にも顧客を拡げられる点で上手く活用している。
しかし、成果報酬型の契約は受注側であるファームにとって成果を無理に創出しようとする動機が働くため、仮にリアリティがなくともインパクトの大きい施策に着目してしまう確証バイアスが働きやすい。その結果、蓋を開けてみれば、現場社員から施策実行をボイコットされてしまったり、リタイヤされてしまったりと、かえって成果が上がらないことは少なくない。
 
④「現場の負担軽減」の視点からは、現業との両立、外注予算の限界がある。
企業変革はどの会社にとってもそうそうない一大プロジェクトであり、何かと意思決定を迫られる経営層以上に、その判断材料を揃えるためのヒアリング対応や社内資料の整理・提出、分科会定例会議への参加、宿題対応など、現場のタスクが膨張しがちである。現業が必ずしも減らない中で「付き合い切れない」と反発を招くことも多い。
一方、高単価のファームを使っている場合などは外注予算が嵩み、現場に十分なサポートを付けられぬこともある。この場合、期間途中で委託契約を打ち切らざるを得なかったり、契約期間を伸ばそうとすると手をあまり動かさないお目付け役を入れるに留まったりと、現場のタスク工数を減らすには及ばない。

⑤「自走化」の視点からは、外部プロの手離れの悪さがある。
予算は足りたとしても、外部プロとしてのファーム抜きでは業務が回らないほどに「依存」してしまう企業も多い。ファームの人間は企業変革という「修羅場」を多数の会社で潜り抜けてきていてそれだけ鍛えられているので、企業の現場にとって便利な存在として頼りたくなるものである。そのうえ、ファームの側もビジネスでやっているので、できるだけ「お抱え」し続けてもらうように働きかけたくなるのであるが、相互依存に陥ってしまっては、自社にとっては不幸である。一度危機を乗り切ったとて、事業環境の変化が昔よりも激しくなる中、自社に不断の変革マインドを埋め込んでいく必要がある。それを外部に頼ってしまったのでは、自社のコアを手放してしまうことに他ならない。

「実行」をやり切るために外部プロに求めるべき要件(選択・活用基準)

前項の5つの落とし穴に陥らないための第一段階は、外部プロの選定時に、相応の要件を満たしているかを見極めることである。

➀タスクの解像度:
現場の行動原理にそって緻密にタスク設計できることが重要だ。日本式の業務プロセスや組織力学をよく知った上で「誰でも回せるタスクセット」まで落とし込めることを求めるべきである。

②ITリテラシー:
変革目線を持ちつつも、ITの制約条件に鋭敏であることが重要だ。ターゲットオペレーティングモデル(TOM)に正対するのはもちろんのこと、現行ITの状況にも配慮して現実的なTo-Be像に落とし込めることを求めるべきである。

③成果の実現性:
インパクトの大きい施策を講じることも然ることながら、「実行と融合した計画」を作り込む姿勢を持っていることが重要だ。現場のリソース手当や施策の優先順位に配慮しながら、構想が現場に「実装」されるまで伴走できることを求めるべきである。

④現場の負担軽減:協業5
接点×物量×価格面でリーズナブルに現場支援ができることが重要だ。タスクの軽重を付けつつ、重い部分では、上から目線などでなく、人当たりの良いスタッフが現場社員のモチベーションを高めながら手厚くサポートできることを求めるべきである。

⑤自走化:
自社の「自走」を促してくれる姿勢と仕組みを有することが重要だ。最初は外部プロが牽引・先導しながら、実行の主導権を自社に順次渡してくれるよう求めるべきである。

➀~⑤の要件は、一つずつ見ればいずれも当然とも言えるものだが、重要なことが2つある。まずは、「5つのうち満たす数が多いほどよい」というわけではなく、できるだけ全てを同時に満たすことが望ましい。そして、一層重要なのは、この5要件には関連性があるということである。各要件には反作用も存在し、相互補完の関係にある。例えば、緻密なタスク設計は、現場から見れば煩わしくも思えるし、一方で「手離れがよい」ことは、現場から見れば突き放されている気にもなる。実現性を気にするほど、現場に迎合して大胆な手を打てないこともある。こうした反作用をお互いに相殺するのがこの5要件なのである(図1)。だからこそ、この5つの要件を同時に満たすことが望ましいと言えるのだ。 

図1 外部活用による変革実行の落とし穴 図1 外部活用による変革実行の落とし穴

以上、外部活用による変革実行の落とし穴と求めるべき要件の概要について説明した。
アビームコンサルティングはこれらの落とし穴をよく理解した上で、そこに陥らないためのノウハウを蓄積し、クライアントの業界・企業特性や期待に対応して、変革を支援してきた。
本インサイトシリーズの2回目以降では、それぞれの落とし穴を突破した具体的な事例(図2)について詳しく紹介していきたい。

図2 今後ご紹介する4つの事例 図2 今後ご紹介する4つの事例

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