一方、現状のコンテンツホルダーの売上は、放映権、チケット、グッズ、スポンサー収入から成り立っているが、ほぼすべての項目において、外部事業者が介在しており、コンテンツホルダーが自ら仕組みを構築して販売しているケースはほとんどない。
そのため、外部事業者に手数料を支払うことで利益が縮小しているのが実態である。もちろん自前では対応できない知識やテクノロジーが必要な場合は外部事業者に依頼する必要があるが、近年のテクノロジーの発展などを踏まえると、これまで外部事業者に依頼していたことを、コンテンツホルダー自身で対応できないか検証することには意味がある。
例えば、放映権については、代理店はメディアとの交渉ノウハウを保有しているため、コンテンツホルダー側に知見がなければ依頼するしかない。野球、サッカー、バスケットボールといったメジャースポーツは配信するメディアの数も増えるため、自ら交渉することも難しいと想定される。
一方、マイナースポーツでは、新興OTT(インターネット放送など)が交渉相手であり、プレイヤーの数も少ないため、自ら交渉することも可能である。近年普及し始めているAIカメラや映像配信機器(PixellotやDejeroなど)を調達し、自社で配信することもできる。そのためには放映権についての知識や国内事例を把握し、価格の相場観を掴む必要がある。
また、グッズ販売については、近年、Shopifyなどの安価なECテンプレートが普及している。こうしたECテンプレートを使えば、自らECサイトを容易に構築することもできる。
こうしたテクノロジーについても、最新の知識や事例を把握しておき、普及するタイミングで乗り遅れないように準備すべきである。
さらに、近年は“パルス消費”として、ライブコマースの発展も見られる。まだまだ日本では普及しているとはいえないが、東南アジアではライブコマースで商品を購入するケースは非常に増加している。瞬間的に買いたくなる衝動(パルス)を呼び起こし、購入に至ることであるが、この考え方はスポーツコンテンツに非常にマッチしていると考えている。なお、このような考えに基づき、我々は「Sports Fun Portal」というライブオークションプラットフォームを構築し、琉球アスティーダと共同運用している。
例えば、サッカーの試合終了後に、ロッカールームのライブ映像とともに、選手が着ているユニフォームをその場で出品することができれば、その選手のファンはパルスを感じて購入する可能性は高い。こうした仕組みもそれほど難しくなく構築できる。実際に我々は既にいくつかのスポーツクラブでライブコマースを構築・実施しているが、想像以上の手応えを感じている。今後、ファンやサポーター向けの商品については、“パルス消費”を喚起する仕組みの構築がカギになると思われる。
また、「自ら売って稼ぐ」ためには、法的な知識は欠かせない。スポーツビジネスは、「権利ビジネス」と言われる。権利に関する法律を知らなければ、自らが権利を侵害する可能性や侵害される可能性もある。また、「こんな商品をつくってみたい」と考えたときに、それが法的に問題ないのかという感覚を持つことは、スピードにも影響する。最終的に法律に関する事項は弁護士に相談することになるが、知識を持っていればあらかじめ論点を押さえることができ、より良い商品やサービスを創るための意見交換を弁護士ともできる(図2)。
なお、スポーツビジネスにおける各種権利と根拠法令については、西村あさひ法律事務所スポーツプラクティスグループ「DX時代のスポーツビジネス・ロー入門」(中央経済社)に非常に分かりやすく纏まっている。