オムニチャネル

インサイト
2018.08.14

実店舗やオンラインストア、モバイルなどのあらゆる販売・マーケティングチャネルを融合する「オムニチャネル」。顧客接点の拡大や顧客体験の向上を目的として、主に小売業界で導入が進んでいるが、データ統合を中心とする施策のみでは顧客にとって目新しさがないという課題も浮き彫りになりつつある。オムニチャネルを成功させるにはどんな取り組みが必要なのか。アビームコンサルティングの四十谷裕之は、利用者にとって便利で付加価値の高い施策を「顧客視点」で考えていくことが重要だと語る。

執筆者情報

  • 四十谷 裕之

    Principal

デジタル化の進展によりオムニチャネルが拡大

デジタル化の進展は業種・業界を問わず、あらゆる企業のビジネスに変革をもたらそうとしています。なかでもインターネットの普及は、クラウドやソーシャル、ビッグデータやBI、モバイルなどの技術を急速に発展させました。そして、これらの技術を活用した新しいビジネス施策も次々に登場しています。その一つとして注目されているのが「オムニチャネル」です。
オムニチャネルは、リアル店舗やECサイトなどのあらゆる販売・マーケティングチャネルをシームレスに融合することで、顧客誘導・囲い込みを狙うビジネス戦略です。もともと米国の百貨店から始まったと言われるだけあって、特に小売業界では「いつでも、どこでも、簡単に」買い物ができる機会を顧客に提供する手段として取り組まれています。さらにスマートフォンなどのモバイルデバイスの進化がオムニチャネルの拡大に拍車をかけており、最近では飲食、不動産、金融などの業種・業界でもオムニチャネルの導入機運が高まっています。

チャネルの一元化だけでは 目新しさがないことが課題

オムニチャネルはこれまで、実店舗やECサイトなどチャネルごとに別々だった顧客データや商品在庫の統合管理をメインに進められてきました。もちろん、データ統合によって業務システムを効率化することは、オムニチャネルを推進するために不可欠です。しかし「グループ企業の商品が1つのECサイトで購入できる」といったように、単に複数の販売チャネルを一元化しただけでは、顧客にとって目新しさがなく、オムニチャネルとは呼べません。
オムニチャネルの施策に取り組むうえで最も重要なことは、「顧客にとって何が便利で、どのような付加価値が喜ばれるのか」という顧客視点の利便性を明確にすることです。場合によっては過去の延長ではなく、ビジネスプロセスやビジネスモデルを変えていくところまで踏み込む必要があるのです。

成功の鍵を握る決済・物流・品ぞろえ

オムニチャネルを展開し、すでに大きな成果を上げている大手小売業の経営者によれば、オムニチャネルで成功するポイントは「決済」「物流」「品ぞろえ」の3つです。
「決済」については、実店舗とECサイトの決済方法を一元化し、顧客に不便をかけない仕組みづくりが模索されています。例えばスマートフォンに決済アプリを導入し、オンラインのECサイトでは画面をワンタップするだけで、実店舗ではNFC読み取り装置にスマートフォンをかざすだけで、決済が完了する仕組みです。
「物流」では、顧客の在宅時間に合わせて配達したり、最寄りのコンビニエンスストアで商品を受け取ったりなど、よりきめ細かなデリバリサービスが求められます。この大手小売業ではデリバリサービスの向上を目的に、物流センターの再構築も行っています。
「品ぞろえ」は、チャネルごとに適切な商品を用意しておくだけでなく、実店舗でもECサイトでも目的の商品をシームレスに購入できることが望まれます。顧客の購買行動には、実店舗で商品を見てからECサイトで購入する「ショールーミング」、逆にECサイトで見た商品を実店舗で確認してから購入する「Webルーミング」がありますが、いずれの場合でも顧客を逃さないように自社のECサイト、自社の実店舗に誘導する仕組みが必須となります。
このように「いつでも、どこでも、簡単に」買い物ができるようにするには、いずれもデータ統合が大前提となります。例えば決済データが統合されていれば、企業は購入履歴を把握して販促施策を講じることができます。また在庫データが統合されていれば、その場に商品在庫がなくても、すぐに宅配手続きをとって売り逃しを防ぐことができます。
また1社だけでオムニチャネルに取り組む時代から、異なる強みやチャネルを持つ企業連合での取り組みという形への拡張も始まっています。あるアパレル企業では、物流企業と提携して物流センターを用意し、コンビニエンスストアと提携して商品を販売するといった異業種協業のオムニチャネル構築の例もあります。

AIの活用により顧客経験を高める

先進的なオムニチャネルを展開する企業は、一元化されたデータに基づいて戦略的にビジネスを実行しています。そのデータ分析において、今後重要な役割を果たしていくことになるのが「AI(人工知能)」です。
AIの活用例としては顧客データの分析が挙げられます。これまでのECサイトでも、顧客の購買履歴に基づいて次の商品をお勧めする「リコメンド」という機能が用意されていました。ここにAIを活用すれば、高い精度で顧客の購買傾向や好みを分析して、顧客一人ひとりに、より的確な商品を提案することが可能になります。
またAIは、顧客経験を高める手段としての可能性も秘めています。ある百貨店では、販売員が顧客とコミュニケーションをとる中でAIを活用。AIが顧客の予期しない商品を提案することで“目新しさ”という顧客経験を高め、販売機会の拡大につなげています。

戦略からプラットフォームまで 課題の解決策を一貫して提供

アビームコンサルティングがオムニチャネルのビジネスモデルを設計する場合、(1)戦略のレイヤー、(2)オペレーションのレイヤー、(3)ITプラットフォームのレイヤーという3つのレイヤーで一貫した提案を行っています。
戦略のレイヤーは、オムニチャネルを成功させ、さらに成長させるために何をすべきかを経営戦略の一部として考えるレイヤーです。オペレーションのレイヤーは、実際の売り場や仕入先、ECサイトでどのような業務が必要なのかを考えるレイヤーです。さらにITプラットフォームのレイヤーは、業務を支えるプラットフォームやアプリケーションにどのようなテクノロジーが必要なのかを考えるレイヤーです。
このとき、プラットフォームとしての「アビームクラウド」や開発中の流通テンプレートなどで構成されるベストプラクティス、BIツールなどの提供により、オムニチャネル戦略をICTシステムも含めて包括的に支援できることが、アビームコンサルティングの強みとなります。アビームクラウドはオンプレミスよりも少ない初期投資で、必要に応じて柔軟にプラットフォームを構築できるサービスです。例えばアクセスの増加が予想される繁忙期だけリソースを増やすなど、柔軟かつコストメリットの高いプラットフォームを実現できます。
また今後は、日本市場だけでなく、グローバル市場も考えてオムニチャネルに取り組む必要があります。しかしグローバル展開では、日本のビジネスモデルをそのまま展開してもうまくいくとは限りません。その国や地域に合ったビジネスモデルをモデファイすることが必要です。アビームコンサルティングはグローバルコンサルティングファームとしての強みを生かし、日本で構築したビジネスモデルを海外拠点向けにモデファイするお手伝いもしています。

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