どんなに力を持った企業でも、イノベーションを怠ると淘汰されてしまう時代を迎えています。そこで主にB2Cの市場で起こってきたリーンスタートアップを、B2B領域でも展開していくことが求められています。これがすなわち「リーンスタートアップ 2.0」。
顧客の“Pain”を徹底して理解し、臨機応変な“Pivot”を展開、さらに“Passion”を持ち続けることで、イノベーションは成し遂げられると、の斎藤岳が解説します。
斎藤 岳
どんなに力を持った企業でも、イノベーションを怠ると淘汰されてしまう時代を迎えています。そこで主にB2Cの市場で起こってきたリーンスタートアップを、B2B領域でも展開していくことが求められています。これがすなわち「リーンスタートアップ 2.0」。
顧客の“Pain”を徹底して理解し、臨機応変な“Pivot”を展開、さらに“Passion”を持ち続けることで、イノベーションは成し遂げられると、の斎藤岳が解説します。
顧客の声:その1
「AIを活用した新しいビジネスを立ち上げたい」
「IoTを活用した新しいビジネスを立ち上げたい」
顧客の声:その2
「ソリューション型のビジネスモデルに移行したい」
「組織横断で融合したソリューションビジネスを創りたい」
「モノ型からコト型に移行したい」
ここ数年、このような2種類の相談を顧客から受けることが多くなっています。そして、検討を進め、本質を突き詰めていくと、これら2種類の案件、実は両者の目指すところは同じだということになることも多いのです(下図参照)。
すなわち、「AIなどの新しい技術を活用し、単品売り切りではないソリューション型のビジネスモデルを、規模感をもって継続的に収益を生み出す形で構築する」といったことが共通の目指す姿になるということです。AIやIoTの本質が「つなぐ」ことであり、そして「融合して新たな価値を創る」ことにあるとすると、当然の帰着なのかもしれません。
この目指す姿に行き着くには、現状のビジネスの延長では難しく、新たな軸で新たな価値を生み出すことが必須となります。いわゆる「イノベーション」なくして目指す姿には行き着かないのです。
イノベーションは天から降ってくるものでも、ある日突然生まれるものでもありません。過去から脈々と積み重ねてきた創意工夫から生まれた資産や考え方と、別の資産や考え方が組み合わさることで生まれるのです。
一方、パーツを組み合わせればイノベーションが必ず生まれるわけではありません。新しい価値を生み出す組み合わせと生み出さない組み合わせにはどのような違いがあるのでしょうか。
例としてハンバーガーを考えてみましょう。ハンバーガーはパテ(ハンバーグ)とバンズ(パン)といったパーツを組み合わせて作られています。ハンバーグとパン、それぞれでも食べられますが、それらが組み合わさってハンバーガーとなると新たな軸での新しい価値が生まれ、人々の生活が変わりました。
イノベーションを生んだ組み合わせです。
今度は別の組み合わせ、ハンバーガー、ポテト、飲み物を組み合わせて作る「XXセット」を考えてみましょう。われわれがXXセットに期待するのは“お買い得感”です。イノベーションを生み出す組み合わせとは言えません。
アリストテレスは「全体とは、部分の総和以上の何かである」と説きましたが、そうした新しい価値の“創発”こそが、イノベーションの本質なのです。
では、どうすれば企業はイノベーションを起こすことができるのでしょうか。大切なのは、顧客のPain(切実な悩み)が何であるのかを徹底して理解し、その解決のためにアプローチすることです。当然のことながら一筋縄ではいかず、何度も提案しては当たって砕けるといった、試行錯誤を繰り返すことになります。自社内だけでは足りないアイデアや知見を外部にも求める必要があります。そして何より、このプロセスに顧客自身を巻き込んでいくことが欠かせません。
この「仮説-検証」をスピーディに繰り返す営みが、「リーンスタートアップ(無駄な贅肉がない起業)」です。
時代の寵児として、しばしば話題に上るカーシェアリングサービスのUberも、顧客のPainを基点に「仮説-検証」を繰り返して成功を収めました。Uberが創業したきっかけは、タクシー業界が崩壊しつつあるサンフランシスコで、あまりにもタクシーがつかまらないという、創業者自身のPainだったと言います。
そこにモバイルや位置情報、IoTなどのデジタルテクノロジーを最大限に活用したビジネスモデルを構築することで、数百万人単位の利用者とドライバーをつなぎました。また「仮説-検証」プロセスの中で、アプリの“反応速度”がビジネスの肝であることを見極め、ここに注力をして顧客に“使われる”仕組みを構築しました。これらにより、Uber自身は1台の車も所有していないにもかかわらず、創業わずか5年で時価総額5兆円の企業に急成長することができたのです。
もっとも現在のリーンスタートアップの成功例の多くは、比較的チャレンジが容易なB2C市場におけるものです。伝統的なB2B企業の場合、社内で十分に煮詰めきれていない不完全なサービスやソリューションを世の中に送り出そうとすると、「50点の製品を世に出していいのか」「製品ができてもいないのに顧客へ売りになど行けるか」という声も上がってきます。
先の読めない不確実性の高い事業に投資するよりも、いまある大きな事業を守って成長を持続させなければならないという経営上の事情もあるでしょう。
とはいえ、伝統的なB2B企業もイノベーションを怠ると、市場から淘汰されてしまう時代を迎えています。実際、2000年初頭に「Fortune 500」にランクインしていた企業の52%が、倒産や企業買収によって消滅しています。
伝統的なB2B企業がベンチャー発の破壊的変革に飲み込まれるのではなく、自らが能動的にイノベーションを起こし、新たな価値を創造して顧客に提供していくための取り組みを、アビームコンサルティングは「リーンスタートアップ 2.0」と定義しました。
そこには、重要なキーワードとなる“3つのP”があります。
1つめは、Pain(切実な悩み)です。顧客のPainを押さえていなければ、新しいサービスやソリューションは受け入れてもらえません。また自分たちの資産ではなく顧客のPainをベースに社内で議論することで、“縦割り”の組織の融合を可能にするのです。多くの資産を持つ伝統的な企業だからこそ大事にすべき視点と言えます。
2つめは、Pivot(戦略変更)です。顧客のPainは社内にありません。顧客と常につながり、フィードバックを受けながら学習し、外部のアイデアや知見も取り入れながら、臨機応変にPivotを判断します。そしてまた、顧客に新たな価値を提示し、フィードバックを受けるという「仮説-検証」を繰り返して、事業立ち上げに成功することができます。B2Bでは、顧客のPainとマネタイズの規模感の見極めがB2Cに比べて難しく、仮説が異なればさっさとその仮説を捨て去ることが重要です。
そして3つめは、Passion(情熱・覚悟)です。結局のところ、イノベーションを成し遂げられるかどうかは“人”に行き着きます。実際、弊社が新規事業立ち上げ経験者750名に調査をしたところ、成功と失敗を分けるベスト3項目(約70項目中)の一つにこの「担当者がPassionを持っているか」ということがランクインしました(下記参照)。
頭脳明晰な人員の揃う伝統的な大企業では、ビジネスモデルの内容の良し悪しに目が行きがちですが、内容よりも、むしろ担当者のPassionが大事だという結果が出ているのです。
これら3つのPを踏まえながら、リーンスタートアップ 2.0の取り組みを進めていく上では、多くのイノベーションを経験してきた外部の第三者がアクセラレーターとなって議論の糸口を作り、コラボレーションを誘発していく必要があります。アビームコンサルティングもまた、そんなアクセラレーターとしての役割を積極的に担っていきたいと考えています。
そのためには、ときには伝統的なコンサルティングの形式を離れ、クライアントメンバーへの研修を中心にした形式、コンサルタントが少人数で長期間常駐するハンズオン形式などでも支援をしています。クライアントの方々のPassionを具現化するべく、われわれ自身もPivotを展開してきた結果です。
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