コミュニティ実態調査から紐解く生命保険会社が取り組むべきコロナ社会に適応した新しい顧客接点のカタチ ~職域営業の次へ~

インサイト
2022.05.27
  • 保険
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新型コロナウイルスの感染拡大から2年近く経過し、この間新たな変異株の流行などにより感染者の増減を繰り返しながら、人々は新型コロナウイルスに適用する形で価値観や行動様式を変化させてきた。
特に他者との接点では、親しい人とのつながりを強く意識する一方で、知らない第三者との直接的な関わりを避ける傾向になった。時間の経過とともに行動や考え方が緩和し、人が集まるようなイベント・場所は少しずつ増えてきているものの、イベント内でコミュニケーションを取るのは帯同している親しい間柄に留まるなど、既知ではない第三者が直接接点を持つことは難しい状況が続いている。
コロナ以前の生命保険の販売は、商品内容の複雑さから保険営業担当※1が対面で説明し、契約に繋げるのが主流だった。特に新規顧客との接点では、人が参集する場所での営業活動によって接点を確保してきたが、コロナ社会※2は、第三者との接点の機会を大幅に減らし、生命保険会社は伝統的な顧客獲得の在り方を見直す必要性に迫られている。そのため、コロナ社会の価値観・行動様式に合致したターゲティング、顧客接点を改めて考えなければならない。
アビームコンサルティングでは、コロナ社会に適応するための生命保険会社の顧客獲得における①ターゲティング、②顧客接点をテーマにインターネットリサーチ※3を実施した。本インサイトでは、その結果から得られる事実を踏まえて、生命保険会社の顧客獲得に向けたアクションの方向性を考察する。

  • ※1

    営業職員・代理店・営業拠点といった顧客と接点を持ち保険商品を販売する方々の総称

  • ※2

    withコロナ、Afterコロナを含む新型コロナウイルスに何らかの影響を受けている社会の総称

  • ※3

    コロナ社会における生命保険に関連する顧客リサーチ(20~85歳男女/全国/2,000名/2022年2月19日~2月21日実施)

1. コロナ社会における生命保険の“ポテンシャルターゲット”の発掘

コロナ社会では、コロナ以前の価値観や行動様式に様々な変化やギャップが発生しており、そのギャップにはビジネスの機会やこれまで意識されてこなかったターゲットが存在していると考えられる。本インサイトではコロナ社会によって生じたギャップによるターゲットを「ポテンシャルターゲット」と称する。
生命保険会社もこうしたポテンシャルターゲットを捉えることが重要である。今回、個人のライフスタイルの変化(テレワーク、地方移住、ネットシフトなど)から生命保険と関連すると考えた①収入資産の増減、②健康意識・行動に変化に着目してインターネットリサーチを実施し、データが語る変化・ギャップからポテンシャルターゲットを定義する。

① 必要付保額とのギャップが拡大しているポテンシャルターゲット

「コロナ以前と比較して収入が減少したことで預貯金などの将来資産を取り崩し、必要付保額とのギャップが生じている層がポテンシャルターゲットと言える。特に年収500万円未満の世帯での出現率が高い。」

生命保険は、将来リスクに対する備えの側面が強いことから、収入・資産が少ない層ほど、保険によるレバレッジを効かせて、将来リスクに備えることが必要である。
インターネットリサーチの結果では、コロナ以前と比較して収入が減少した世帯が全体の29%、資産が減少した世帯が全体の20%存在している(図1、2)。さらに資産が減少している層の減少資産に目を向けると、そのほとんどが預貯金であり、将来資金を切り崩して、生活維持に充当していることがわかる(図3)。年収帯で見ると預貯金を切り崩している割合が顕著に大きいのが年収500万円未満の世帯である(図4)。

コロナ以前と比較した収入・資産の変化

② 健康意識の変化に打ち手を持たないポテンシャルターゲット

「コロナにより健康意識は高まったものの、具体的な生活習慣の見直しには至らず、今後も改善の見込みが薄い層はポテンシャルターゲットと言える。なぜなら、そういった層は何かしらの打ち手の必要性は感じているため、生命保険の訴求効果も高いことが想定される。」

コロナ流行により、自身の健康状態に対する意識が高まっている人は58%存在しているが、そのうち具体的な行動に移せていない意識と行動のギャップが生じている層が40%存在する(図6、7)。
さらに行動に移せていない人の中で、「直ぐに取り組む意向はない」が75%を占めた(図8)。「直ぐに取り組む意向はない=取り組むかどうか分からない、可能性が低い」と捉えた場合、全回答者の割合で見ると、今後も生活習慣の見直しなどによる病気リスクの軽減に取り組む可能性が低い層は、20%程度存在することになる。

健康に対する意識と行動の変化

2. コミュニティアプローチにポテンシャルターゲットとの接点創出

第三者が直接接点を持つことは難しい状況が続く中で、生命保険会社がポテンシャルターゲットと接点を持つ方法として、コミュニティアプローチが有効だと考える。本章では、なぜコミュニティアプローチが有効であるのかについて、インターネットリサーチの結果をベースとした①コミュニティの個人の行動に対する影響、②ポテンシャルターゲットとコミュニティの関係、③保険会社のコミュニティアプローチを通して言及する。

① コミュニティから影響を受ける個人の行動

「身近な人とのつながりをよりフォーカスしているコロナ社会は、コミュニティ内の情報によって行動が左右されやすく、購買の意思決定に対しても影響を及ぼしている。」

調査の結果、恒常的にコミュニケーションが発生するコミュニティへ所属している人が78%存在し(図9)、そのうち45%が行動・意思決定に対してコミュニティから影響を受けていた(図10)。さらに購買意欲・行動にフォーカスした結果、10%強がコミュニティから影響を受けていることがわかる(図11)。コミュニティの中でも購買に対する影響が強いSNS、趣味、習い事は、それぞれ意思決定した理由が異なり、SNSは情報の有益性が理由なのに対して、趣味、習い事は信頼できる人からの紹介による理由が大きい。このことから、対面を主としたコミュニティではコミュニティ内のメンバー間の信頼関係をベースに互いの行動に影響を及ぼしていると言える。

コミュニティがもたらす個人の行動への影響

② ポテンシャルターゲットとコミュニティ出現率

「ポテンシャルターゲットはその特性に応じたコミュニティでの出現率が高く、そのコミュニティにアプローチすることでより効率的に接点を創出できる。」

調査結果から、必要付保額とのギャップ拡大層(収入減・資産減)は、同様の属性によるコミュニティ形成が比較的されやすい「学生時代のつながり」、「会社・取引先」、「近所」といったコミュニティでの出現率が高い(図13)。
健康意識と行動乖離がある層は、比較的に男性の方が改善への着手ができない傾向にあり、そういった男性は、「OB会」、「会社・取引先」といったコミュニティでの出現率が高い(図14)。

ポテンシャルターゲットのコミュニティ出現率

③ 生命保険会社取り組むべきコミュニティアプローチ

ここまでコミュニティの有効性、ポテンシャルターゲットとコミュニティの相関について言及してきた。本項では、実際に生命保険会社がコミュニティを活用してどのように顧客接点を創出していくのかを言及する。インターネットリサーチの結果から、3つのコミュニティアプローチが有効であると考えられ、それは、①既存顧客とのリレーションを活かしたコミュニティアプローチ、②生命保険会社自身のコミュニティ創出アプローチ、③コミュニティリーダーの採用・委託によるコミュニティアプローチである。以下、具体的なアプローチ方法を述べていく。

(ⅰ)既存顧客とのリレーションを活かしたコミュニティアプローチ

「既存顧客とのリレーションを深化により顧客の持つコミュニティにメンバーとして参加し、信頼関係のうえに必要とされる存在となることで顧客獲得に繋げる。」

本章でコミュニティ影響を言及してきたが、コミュニティが個人の意思決定に影響を及ぼすのは、信頼関係によるものと調査結果から考察できる。つまり、保険営業担当としてリレーションがない状態で、コミュニティアプローチをしたところで、コミュニティに入ることすら難しいのである。
しかしながら、コミュニティは閉じているわけではなく、「人となりを知った上での参加」、「メンバーからの紹介による参加※4」に対しては、非常に寛容であることが、調査結果からわかる(図15、16)。
そのため、保険営業担当は既存顧客とのリレーションを深化し、顧客が所属しているコミュニティにひとりのメンバーとして参加し、コミュニティ内の信頼を勝ち取ることで、そのコミュニティにおける保険領域の相談窓口となり、新規顧客獲得に繋げていくことができると考える。
ここで重要なことは、保険営業担当と顧客の関係性を超えた個人間の信頼関係を構築するということであり、保険営業担当が興味・関心のないコミュニティに藪から棒にアプローチする、コミュニティ内ですぐに積極的な営業活動をするといった行動は、コミュニティから疎外される要因になることを念頭において活動しなければならない。
こうしたコミュニティアプローチを成功させるには、上記のとおりコミュニティの信頼を勝ち取るコミュニケーションを図ることに加えて、生命保険会社が積極的に顧客・保険営業担当などの属性情報を把握し、データベースとして管理・運営することも重要である。生命保険会社は顧客・保険営業担当への理解を深めて、双方が良好な関係となるべく、保険営業担当を派遣するコミュニティの選定や、顧客と同様の属性を持つ保険営業担当をアサインするといった配慮を行うことで、より効果的なコミュニティアプローチの実現につながると考える。

  • ※4

    「メンバーからの紹介による参加」の集計は、コミュニティ単位のため、比較的にクローズドなコミュニティと考える「趣味」、「ご近所」、「会社」を抜粋

コミュニティへの参加ハードル

(ⅱ)生命保険会社自身のコミュニティ創出アプローチ

「メンバー間に強固な関係性があり、購買の意思決定に対しても影響を与えやすいコミュニティを生命保険会社自らが創造していくことで、将来の新規顧客獲得につなげる。」

保険会社が主催する何かしらのイベント・サークルに参加して良いと考えている人は50%を超える割合で存在している(図17)。特に、20代の男性・女性、40代の男性は参加に前向きであり、参加意向の高いセグメントに向けて保険会社がコミュニティ(サークル・イベント)を創造することは有効と考える。
コミュニティ創造を企画する際には、メンバー間に強固な関係性があり、個人の行動により強い影響を持つコミュニティかどうかを意識することが重要である。なぜなら相互影響が強いコミュニティ内で、ひとりでも保険商品のファンになれば、情報交換を通して横に拡がり、将来の新規顧客獲得につながる可能性が期待できるからだ。
また、新しいコミュニティを創出するだけでなく、コミュニティの情報について、保険会社のHPに配信するプラットフォームを用意することで、さらにコミュニティへの参加者を増やしていくというアプローチも有効であると考える。

保険会社主催イベントへの参加意向

(ⅲ)コミュニティリーダーの採用・委託によるコミュニティアプローチ

「リーダーの影響力が強いコミュニティでは、そのリーダーを採用・委託することで、コミュニティ内での新規顧客獲得につながる。」

調査の結果からコミュニティ側が新規メンバーを受け入れる際に、リーダーの影響力が強いコミュニティが存在することがわかった(図18)。この結果から、特定のコミュニティではリーダーのプレゼンスや信頼度が相応に高く、コミュニティメンバーは影響を受けやすい状態にあると考えられる。つまり、コミュニティリーダーをハブとして保険商品を展開していくことが有効である可能性が高く、生命保険会社は、リーダーを採用・委託することでコミュニティ内に顧客獲得の機会が拡がっていくことが期待できる。

コミュニティの受け入れ方法

3. 「生命保険の新しい選択のカタチの実現による顧客接点創出」

顧客主導による生命保険会社との接点(ヒト基軸の考え方)

「従来生命保険会社主導の顧客接点が中心であったが、顧客自ら保険営業担当をデジタル上で選択できる保険の新しいカタチを実現することで、新規顧客獲得につながる。」

他業態では、商品ではなく商品を扱う個人をマーケティングの主人公(インフルエンサー)として、売上を向上させる事例が出てきている。生命保険会社でも商品軸だけでなく、保険営業担当(ヒト)を軸とした保険の選択を検討するべき時期に突入していると考える。実際に今回の調査では、保険営業担当を選択できる仕組みを利用したいというニーズが38%存在することがわかった。具体的な「保険会社のホームページやアプリから営業職員を選択する仕組み」というチャネルを意識したサービスも33%の人が利用したいと回答しており(図19)、顧客が選択する仕組みは、新たな接点創出に有効と言える。
さらにその中に掲載する情報として重要視される項目は①経験年数、②専門性、③口コミという結果が出ており(図20)、複雑な保険への造詣が深い営業職員に話が聞きたい、保険の選択を失敗したくないという心理が調査結果に表れていると言える。
これらの調査結果を踏まえると、昨今来店型ショップにて相談する相手を選択する顧客が増えていることも理解でき、その流れを掴むためにも、一歩踏み込んだ取り組みとして、デジタル上で相談相手を選択できる(デジタルマッチング)、新しいカタチのサービスを提供することが有効であると考える。さらに、そこでの選択可能性を高めるために、各営業担当者の保険の専門知識や活動など有効なコンテンツを積極的に配信することが重要である。

営業担当者選択時の重視ポイント

アビームコンサルティングでは、長年にわたり、生命保険会社の営業・チャネル戦略立案、マーケティング改革、営業プロセス改革などを多数支援してきている。生命保険会社は、いま、新型コロナウイルスがもたらした顧客の価値観・行動の変化をうけ、継続的なビジネス成長を実現するための戦略見直しの岐路に立たされている。本インサイトでは調査結果の一部をご紹介したが、より詳細な分析レポートから導き出した示唆や、長年培ってきた保険業界向けコンサルティングの知見を活かして、生命保険会社の変革実現にむけた共創パートナーとして支援していきたいと考えている。

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