保険会社における今後の住宅ローン団信ビジネスの方向性

インサイト
2022.08.01
  • 銀行・証券
  • 保険
1200281880

執筆者情報

  • 佐藤 哲士

    Principal
  • 田辺 健太

    Senior Manager

1. 住宅ローンを取り巻く環境変化

国内における住宅ローン残高は、直近10年間で30兆円以上増加し、2021年3月末時点で約207兆円となるなど、順調に拡大し続けている(図1)。これまで金融機関は、残高獲得に向けて激しい金利引き下げ競争を行ってきたが、金利引き下げが住宅ローン収益を圧迫し続ける状況下、金融機関にとってこれ以上の金利引き下げは困難な状況となってきている。一方、顧客による住宅ローン利用先の選定で団体信用生命保険(団信)の充実を求める傾向が近年強まってきており、金利の低さに次いで団信の充実が重視されているとする調査結果なども見受けられる(図2)。団信とは、住宅ローンの返済中に契約者に万が一のことがあった場合、残りの住宅ローンが弁済される保険である。金融機関では、金利引き下げ競争が限界に達しつつある中、団信による差別化が求められるようになってきていると考えられる。

本インサイトでは、アビームコンサルティングが独自に実施した調査結果から金融機関および保険会社における住宅ローン団信への取り組み動向を紐解き、保険会社における今後の住宅ローン団信ビジネスの方向性を解説する。

図1 国内の住宅ローン残高推移 図1 国内の住宅ローン残高推移
図2 住宅ローン利用先の選定理由 図2 住宅ローン利用先の選定理由

2. 住宅ローン団信への取り組み動向

アビームコンサルティングでは、2021年11~12月に住宅ローン団信への取り組み動向に関するインタビュー調査を、銀行および保険会社の住宅ローン企画・団信担当者に対して実施した。

銀行では、住宅ローンの金利引き下げ競争が限界に達しつつある中、団信による差別化に注力していることが改めて確認された。また、大手生保では、あくまで金融機関との関係強化の一環として団信に注力している一方、新興系生保や外資系生保では、中長期的に安定した収益を上げることを狙う商品として団信を位置づけ、団信への取り組みを強化していることが明らかとなった。

インタビュー結果の中から、銀行および保険会社における住宅ローン団信への取り組み強化として特徴的なポイントを4つ紹介する。

① 商品ラインナップの拡充(都市銀行/地方銀行)
金利による住宅ローンの差別化が難しくなってきていることや、顧客が住宅ローンの選定において団信の充実を重視するようになってきていることから、団信の商品ラインナップの拡充を図っている、もしくは検討していると回答した銀行が多く存在した。一部の地方銀行では、引受保険会社の選定において、近隣競合行が取り扱っていない商品を提供することが重視されていた。銀行としての競争力確保のため、複数の保険会社の団信を取り扱いたいという営業現場のニーズはあるものの、保険会社との新規提携におけるシステム対応負荷が銀行にとってネックとなっているという意見も散見された。

銀行の商品ラインナップ拡充ニーズは強いが、保険会社はこれまで三大疾病保障、八大疾病保障、全疾病保障と保障範囲の拡充に取り組んできた経緯があり、保障範囲のこれ以上の拡大は困難な状況になりつつあるという意見も多い。

② ハウスメーカー向けルートの強化(地方銀行)
住宅ローンの申込パターンとして、顧客がWEBや窓口から直接銀行に申し込む場合と、ハウスメーカーを経由して申し込む場合の大きく2つが存在する。前者では金利の低さが重視される一方、ハウスメーカー経由の場合は、金利よりも団信審査の通りやすさが重視される傾向にある。ハウスメーカーは物件を早く確実に売ることを目的としており、持病がある顧客でも団信に加入できるなど、様々な顧客に対応できることを求めるためである。こうしたニーズに対応するため、ワイド団信等の引受基準緩和型商品をハウスメーカーに積極的にセールスしている。

③ 付帯サービスの強化(地方銀行)
銀行では、住宅ローン販売時に団信付帯サービスの充実が差別化要素になっているという認識が強く、更に付帯サービスを強化したいという意見が多くよせられたものの、保険会社では提供している付帯サービスの利用状況が芳しくないことから、付帯サービスには顧客への訴求力がないと考えているところがほとんどであった。

④ 研修サポートの強化(新興系生保/外資系生保)
銀行および保険会社に共通する課題認識として、銀行やハウスメーカーの担当者が顧客に対して団信を十分に訴求できていない可能性を指摘する意見が多く挙げられた。銀行やハウスメーカーに対するサポートとして、保険会社によっては、ハウスメーカー向けの研修を行っているほか、銀行やハウスメーカーに合わせた研修内容の個別カスタマイズを行っている。

図3 インタビュー結果のポイント

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銀行 保険会社
Ⅰ.住宅ローン団信に関する戦略・取り組み動向
  • 金利競争の限界により団信による差別化に注力している(都市銀行/地方銀行)
  • 顧客やハウスメーカーが商品ラインナップの幅広さを重視しているため、商品ラインナップの拡充を図っている(都市銀行/地方銀行)
  • 引受保険会社の選定において、近隣競合行が取り扱っていない商品を提供することを重視している(地方銀行)
  • 保険会社との新規提携において、システム対応が必要となることがネックとなっている(都市銀行/地方銀行)
  • ハウスメーカーは、審査が通りやすい団信を取り扱っている金融機関を重視する(地方銀行)
  • 金融機関との関係強化の一環として団信に注力している(大手生保)
  • 中長期的に安定した収益を上げることを狙う商品として団信を位置づけている(新興系生保/外資系生保)
Ⅱ.金融機関に対するサポート内容・体制
  • 他社団信との商品性差異に関する情報提供があると良い(都市銀行)
  • 引受可否の判定基準に関する情報提供があると良い(地方銀行)
  • ハウスメーカーからの研修実施要請を受けて、ハウスメーカー向けの研修を行っている(新興系生保/外資系生保)
  • 金融機関やハウスメーカーに合わせて研修内容を個別カスタマイズしている(新興系生保/外資系生保)
Ⅲ.住宅ローン団信ビジネスに関する課題・展望
  • 銀行の販売現場では、団信の付帯サービスに対する顧客やハウスメーカーからの反応が良い(地方銀行)
  • 自行やハウスメーカーの担当者が顧客に対して団信を十分に訴求できていない可能性がある(都市銀行/地方銀行)
  • 団信の付帯サービスはあまり利用されておらず、顧客への訴求力がない(大手生保/新興系生保/外資系生保)
  • 金融機関やハウスメーカーの担当者が顧客に対して団信を十分に訴求できていない可能性がある(大手生保/新興系生保/外資系生保)
  • 保障範囲の拡大はこれ以上困難な状況になりつつある(大手生保/新興系生保)
  • 団体保険は個人保険を後追いしてきた経緯がある(大手生保)
  • インタビューで各社からヒアリングしたコメントをリスト化したもの

3. 保険会社における今後の住宅ローン団信ビジネスの方向性

以上の金融機関および保険会社における住宅ローン団信への取り組み動向を踏まえて、保険会社における今後の住宅ローン団信ビジネスの取り組みとして、考えられる5つの方向性を記載する。

① 先進的な商品の開発
金融機関の商品ラインナップ拡充ニーズに応えるためには、まずは幅広い商品ラインナップを用意し、金融機関やハウスメーカー、顧客のニーズに応じた商品を提供していくことが重要だが、保障範囲の更なる拡大や他社との差別化が困難な状況になりつつあることを踏まえると、他社に先駆けて先進的な商品を開発・提供していくことも選択肢の一つとなる。例えば、個人保険で既に提供されている健康増進型保険やリスク細分型保険を団信として提供することなどが考えられる。

② 新たな付帯サービスの提供
保険会社における団信付帯サービスの実際の利用状況は芳しくないものの、金融機関の販売現場において付帯サービスが好評なことを踏まえると、団信自体の商品性に加えて、付帯サービスにより他社との差別化を図ることも一案となる。例えば、引越し・家電購入の割引サービスや家事代行・病児保育サービス等、新生活や子育て世帯を応援するようなサービスを新たに提供することなどが考えられる。

③ 持病がある顧客への対応
顧客がハウスメーカー経由で住宅ローンを申し込む際、ハウスメーカー担当者は持病がある顧客でも団信に加入できるなど、加入間口が広い団信を取り扱っている金融機関を推奨する傾向にあることを考慮する必要がある。通常の団信よりも引受範囲を拡大したワイド団信等の引受基準緩和型団信の取り扱いは今後、必須になっていくと考えられる。

④ 金融機関のシステム対応負荷軽減
保険会社との新規提携において、金融機関にとってシステム対応負荷がネックとなっていることを踏まえ、金融機関が自社と提携しやすくするような工夫が求められる。例えば、団信システムのクラウド対応やAPI対応などにより、新規提携における金融機関のシステム改修負荷を可能な限り軽減することなどが考えられる。

⑤ 研修内容の見直し
金融機関やハウスメーカーの担当者が顧客に対して団信を効果的に訴求できるようにするため、研修内容の見直しについても検討の余地がある。具体的には、商品内容に関する説明を中心とする従来の商品起点の研修から、例えば、共働き世帯には夫婦連生団信、健康状態に不安のある退職前世代には引受基準緩和型団信といったように、顧客の属性やニーズ毎に異なる提案ストーリーや訴求ポイントを提示する顧客起点の研修への見直しなどが考えられる。加えて、他社団信との商品性差異や引受可否の判定基準等、金融機関やハウスメーカーが求める情報を提供していくことも重要だ。

上記のいずれにおいても、自社のターゲット層を見定めた上で、ターゲットとする金融機関やハウスメーカー、顧客のニーズに応じた取り組みを行っていくことが保険会社には求められる。

本インサイトではインタビュー調査に基づき、保険会社における今後の住宅ローン団信ビジネスの方向性についてポイントを絞って解説した。

アビームコンサルティングでは、金融リテール分野や保険ビジネスに精通した多種多様な人材を揃えており、保険会社に合わせたご支援が可能である。住宅ローン団信ビジネスに関する幅広いご支援実績を多数保有するため、ぜひご相談いただきたい。

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