たとえば、三品産業のとあるメーカー企業では、顧客ニーズと従業員ニーズを起点に、未来の工場像を構想した。未来の顧客が誰で、どんな特性を持っているのか。その顧客に何を企業として提供するのか。従業員に対して、多様な働き方の選択肢を提供し、その企業で働くことへの誇りと興味が持続し、働く意味を見出せる職場であり続けられるか。この両者に工場が提供できる価値を策定し、デジタル化、データ活用、製造ラインや職場空間の見直しを押し進める構想と、実現に向けたシナリオとロードマップができあがった。
また、製造業がDXを適用する場は、工場内にとどまらない。足元のデジタル化を進めながら、自社製品の顧客価値を拡大するために、異業種とのサービス共創につなげた事例もある。この設備メーカーでは、製造現場でエンジニアリングチェーンをまたいだデータ活用、メンテナンスサービスで設備の挙動データに基づく遠隔監視、自動復帰、予知保全を段階的に実現した。さらに、新サービス創出の取り組みを開始し、建物内の人流データ、売り場の売上げ・混雑予測のデータをもとに、設備機器を自動制御し、オフィスビルや商業施設で利用者が快適に移動できる仕組みをエコシステムで提供し始めている。
この他にも、匠の技の継承に主眼を置いた取り組みや、DXの出口戦略として他業種との新サービス共創をゴールに設定したDXの事例などがある。いずれにしても、デジタル技術ありきの着想だけではなく、顧客や従業員をはじめとするステークホルダー、ひいては社会に対して、将来にわたって提供できる企業価値を生み出すために、未来を描く。その先にはじめて製造DXの実現が見えてくる。