グローバルに不確実性が高まっている中、ビジネスパーソンは多くの意思決定を迅速に行う必要があると同時に事実をもとにした判断を下す必要がある。デジタル経営時代における意思決定とはどうあるべきか、どう考えるべきかについて論じるとともに、実現に必要な考え方やポイントについて説明をする。
グローバルに不確実性が高まっている中、ビジネスパーソンは多くの意思決定を迅速に行う必要があると同時に事実をもとにした判断を下す必要がある。デジタル経営時代における意思決定とはどうあるべきか、どう考えるべきかについて論じるとともに、実現に必要な考え方やポイントについて説明をする。
田尻 文昭
渡邉 正和
企業内のあらゆる人材が情報を通して考え、ビジネス上の意思決定を行うことで、ビジネスを成功に導くことこそが、デジタル経営のあるべき姿である。今の情報を取り巻く世界において、データマネジメントや経営情報システム(MIS)、意思決定支援システム(DSS)に代表される情報系システムやデータの蓄積場所であるデータウェアハウス(DWH)など様々なITキーワードが出ては消えることが繰り返されてきている。それらのキーワードが本来、意図している目的は昔から変わっておらず、情報を上手く利活用することで「過去を振り返り、今を知り、未来を想像(創造)する」能力を獲得し、ビジネスを成功に導くことに他ならない。
情報利活用の目的はあくまで企業ビジネスの成功であり、情報を加工するといった作業を実施することではない。情報系と呼ばれるシステムをコストセンターとしてではなく、新たなビジネス創出や価値ある意思決定を支援するプロフィットセンターとして企業戦略に組み込んでいくことが重要であり、このことは情報の利活用をビジネスの中心に備えているGAFAMに代表される企業を見ても明らかである。日本においても小松製作所やキーエンスに代表される企業において、情報の利活用を積極的に行い、そのことが企業ビジネスを有利に展開していくことに大きな影響を与えている事例がある。
ビジネスの成功の裏には常に意思決定が存在している。この意志決定の在り方として有名なものに「KKD」と呼ばれるものがある。これは「勘(K)・経験(K)・度胸(D)」の頭文字をとったものであり、今でも名経営者からベテラン営業マンまでありとあらゆるビジネスパーソンが無意識に活用している行動様式である。図1で表現される行動を我々は日々行っていると言える。
グローバル化に伴いビジネスの複雑度が増しているのと同時に、クラウドやAIに代表される様々なIT技術が登場してきている時代において、この「勘・経験・度胸」のみに頼った意思決定が時代遅れであるとの意見も見受けられるが、これからも人が意思決定をしないビジネスは存在しないとも言えるだろう。我々は、勘や経験に沿った意思決定を時代遅れとはみなしておらず、デジタルの力と勘や経験を組み合わせることでより高度な意思決定を人間が下すことができる時代になったのだと捉えている。ここでのデジタルの力とは、AIに代表されるコンピュータ処理と膨大なデジタルデータを駆使して得られる知見を意味している。
アビームコンサルティングでは「勘・経験・度胸」に加えて、必要とする情報を収集し、AIに代表される高度な分析を使いこなすことが重要であり、これからの経営(意思決定)を推進する新たな力になると考えている。同時に意思決定の結果がタイムリーに還元され、次の意思決定に活用できるといった「フィードバックループ」がデータ観点で整備されていることが非常に重要である(図2)。
ここで説明をした意思決定の流れは、CxOに代表される経営者だけを対象としているのではなく、部長・課長に代表されるライン職から現場の営業担当、生産担当など全てのビジネスパーソンに適用される考え方(=意思決定の民主化)だと我々は捉えている。従って、全ての意思決定者が望む粒度のデータに必要なタイミングでアクセスでき、自身のスキルセットに応じたツールを用いてデータの利活用を行うことができるように整えていくことが、デジタル経営実現に向けた要となるものである(=意思決定の高度化)。
アビームコンサルティングでは、デジタルを使って勘・経験・度胸を支えるための基盤をデジタル経営基盤と定義しており、これまでの情報系システムやデータマネジメントを包含したものとして捉えている。先にも説明をしたように、デジタル経営基盤はあくまで道具であって、道具を使い方や道具を使って何をするかが重要であり、ここでは意思決定者が意思決定を行うことで、ビジネスがより良くなることが重要なことであると考えている。
前章で述べた考え方をいかにして企業内に浸透させていくのかが、デジタル経営の実現に向けた要諦と考えている。新たな意思決定の進め方を浸透させるにあたっては、意思決定の民主化と高度化がポイントとなってくる(図3)。
“意思決定の民主化”がなされている状態とは、企業活動を支える全ての人が自身の要求に従ってデータを自由に利活用し、意思決定を下すことができる環境にあることを言う。もちろん、裏側では利用者に意識されることなく、データに対するガバナンス(管理・統制)が正しく機能していることも必要となる。
例えば、営業担当者には「どの顧客に営業をかけるのか」「その顧客には何が売れるのか」といった悩みがある。「担当には担当の」「課長には課長の」と言う形でそれぞれが自身の業務をスピード感を持って進めるためにはデジタルの力を上手く活用した分散型の意思決定を行っていく必要がある(図4)。
“意思決定の高度化”とは、データ、ツール、利用者のスキルに関してバランスがとれている状態を意味し、いずれの要素が欠けていても利用者の望む結果を得ることが困難である。利用者が求める質的・量的品質を満たすデータが取得できる必要があると同時に、データを取得・加工・分析するためのツールやツールを使いこなすためのスキル、分析のための学術的な知識なども必要となってくる。このように意思決定者に求められることが高度化していくのは避けられないことであり、定型的な利活用の効率化、自動化を進めていくことも重要である。
意思決定の高度化を図るには「深化」「迅速化」「持続的進化」の3つの観点が鍵になると我々は考えている(図5)。
本インサイトでは、デジタル経営時代における意思決定の在り方、そして意思決定における情報利活用の重要性について説明をしてきた。今の社会において情報は単なるインフォメーションではなく資産である。これからの時代においては、あらゆるビジネスパーソンが情報という資産を上手に活用し、自身のビジネスを成長させるための行動に反映させていくことが重要である。しかし、一昔前にトヨタ自動車のかんばん方式を形だけ模倣したアメリカの自動車産業がその手法を効果的に自社内に浸透させられなかったように、情報利活用の重要性を認識しながらも十分に活かしきれていない事例は数多く存在する。
このようなことにならないためには、リアルとデジタルの両面を整合させながら情報の活用と活用する人の成長が相互に作用しあうことで、企業の成長につなげていく必要がある。ここでのリアルとは、企業文化や組織、人材に代表されるものであり、デジタルとはIT技術だけではなく企業全体のITに関するアーキテクチャ、ロードマップなどを意図している。これらの変革はトップダウンで実行しなくてはならないのと同時に、一朝一夕で成就できるものではない。変革は、小さな変化(成功)を積み重ね、意思決定とフィードバックを繰り返すことで醸成されるものだと捉えており、長い目線で進めるべきだと考えている。
アビームコンサルティングでは、これまでも様々な企業と共にビジネス起点の情報利活用の姿について議論を深めてきた。企業経営においては、情報利活用と人材高度化の両面をバランス良く進めていくことが重要となるため、この観点を軸として各社のビジネス戦略を支援していきたい。
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