2020年1月に亡くなったクレイトン・M・クリステンセン教授が執筆した書籍『ジョブ理論~Competing Against Luck The Story of Innovation and Customer Choice』は、リーンスタートアップなどの事業開発に関わる検討のフレームワークとして認知されているValue Proposition Canvas(VPC)を深く理解するための示唆に富みます。特に新規事業検討に携わるビジネスパーソンには是非とも一読いただきたい良書ですが、かなりボリュームがあるため、本コラムの基礎編では重要な用語を解説し、応用編では理論を事業開発の検討の現場での使い方をご紹介します。
ジョブ理論では、序章のどんなジョブのためにそのプロダクトを雇用したのかという問いや、第2章のジョブは “ある特定の状況で人が遂げようとする進歩“と定義するといった独特の表現になっています(後段で、用語の解説をしていきます)。同様に、ジョブは、それが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、解決策も特定の文脈に関連してのみ、その有効性をもたらすことができると表記されています(図2参照)。
本コラムの著者は、ジョブを「個別具体的な状況において困っている状況と解決したい理想的な状態の塊」と読み替えて理解しています。前述のVPCのフレームワークの中でPain/Gainという概念が出てくるのですが、ジョブの定義を踏まえると、顧客が直面している困りごとをその背景も含めて複数洗い出した結果をPain(悩み)として整理し、理想的な世界観を実現している状態とその要件を抽出することをGain(実現したいこと)としてまとめています。
このジョブ理論が強力なのは、顧客がプレミアム価格を払ってまでも雇用したい(6章:体験とプレミアム価格)で触れているように、事業開発における「Nice to Have(あった方が良い)」を形にするのではなく「Must Buy(買うべきもの)」にたどり着くために必要な検討プロセスやガイダンスを提供しています。また、ジョブを解決するビジネスモデル設計していくために、必要となる組織の構築や文化の醸成といった観点までカバーしているところが良書としてお勧めする理由です。