事業開発において素早く解を見つけられるチームが持つ多様性とは

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2020.08.01
  • 新規事業開発
事業開発において素早く解を見つけられるチームが持つ多様性とは

執筆者情報

  • 菅原 裕亮

    BizDev Mentor

なぜ、事業開発において多様性が必要になるのか?

最近「ティール組織」という本が書店に並んでいて、手に取って読まれた方もいるかと思います。詳細は書籍に譲ることにしますが、メッセージとしてあるのは、変化の激しい時代において、よりオープンでフラットな多様性を持った組織やチームが強さを発揮するということです。
これまでの組織は、成果の出ているプロセス(明確な正解)を確実に実行するために均質なチームで、変わったことが起きないように管理することが主流でした。しかし、事業開発の取り組みは、前例や正解がなく、決められた方法を実行していけば良いわけではありません。そのため、様々な試行錯誤を繰り返して、未知の領域にある解を見つける必要があります。平均的なパフォーマンスを犠牲にしてもブレイクスルーを生み出すために、チームとしての多様性を担保していくことが重要になります。以前、「イノベーションを成功させるための出島」の中でもご紹介した図表を見られた方もいらっしゃると思います。

既に、チームにおける多様性の確保に取り組まれている方々の中には、様々な出自のメンバーを集めたものの、まとまりがないために管理しにくいという状況に直面している方も多いかと思います。価値観が異なるもの同士を集めたことで、意見のすり合わせや集約が図りにくくなるといったことが出ていないでしょうか。多様性のあるチームが目指しているものは、異なる視点から問題や課題を紐解き、それぞれの意見を戦わせながら建設的な議論を進めることで、均質なチームでは発想出来なかった解決策を出すことです。多様性を持つということは異なる価値観を持つもの同士を単純に混ぜればよい訳ではない点に注意が必要です。
多様性が価値を発揮することが出来る状態にしておくための工夫として、所属するメンバーのマインドセットと組織としての仕組みが必要です。

マインドセット:個人と組織の前提を目指す姿を起点に考える
(企業ごとの文脈を反映して、共感や相互理解を促進する)
 仕組み:多様性の質を保つ環境を整える
(個人やチームとという「点」ではなく、組織、企業という「面」で環境を整える)

マインドセット:個人と組織の前提を目指す姿を起点に考える

コロナの影響によって大きく働く環境が変わってきているのを実感されている方も多いと思います。私自身も世代や価値観の違いによって、コミュニケーションの取り方が異なることをより実感するようになりました。コミュニケーションの取り方一つとっても、会社、部門、チームやプロジェクトなどそれぞれに、所属するもの同士が認識の違いの理解し、それぞれの文脈にあった合意形成をすることで環境変化に対応しているのではないでしょうか。
関係者同士がお互いに環境変化によってもたらされた新しい現実を認識して、多様な価値観を活かして価値を発揮していくためには、どちらが正しいという対立関係ではなく、「何を重視すべきか、チームとしてどうしたいのか」を定義するパーパスやビジョンが大切になってきます。これは、イノベーション創出の取り組みにおいても同様です。
パーパスやビジョンにより定義された共通のゴールに向かってそれぞれが考えていることをオープンに突き合わせていくことで、コミュニケーションにおける誤解が少なくなり、共感や相互理解が促進されて、価値発揮に向けたベクトルが揃ってきます。我々が考える事業開発を推進する上で重要な要素の5つのうち、最初に掲げている「Purpose & Vision」も、多様性を共通の世界観(Vision)です。理屈では分かっていても、これらを定義して、実際の事業と活動で実践させるのは意外に難しいことだと認識しています。日常的な実践の中でこれらを機能させるためには、組織の仕組みとして浸透を図る工夫が必要になります。

仕組み:多様性の質を保つ環境を整える

組織の中に事業開発活動を芽吹かせるために『共通言語』の重要性をご紹介しました。事業開発を推進するチームだけが、多様性を担保できるのではなく、組織全体として様々な取り組みを支援できる環境の有無が、組織的なケイパビリティの優劣を左右します。
『共通言語』があることで、組織内の連携が進むだけではなく、自社内に閉じないオープンな取り組みとして、様々な外部のステークホルダーとの係わりを深めていくことにもつながります。正解がない活動だからこそ、内外の知見者やパートナーのケイパビリティを活かすことが重要になります。内外のステークホルダーからの多様なケイパビリティの取り込みに基づく複眼的な仮説検証ができる組織は、変化の激しい環境の中でもより早く解を発見することができます。
内外のステークホルダーを巻き込むために、前述のパーパスやビジョンを具体的な業務レベルに浸透させて、日常的な取り組みの中で、実践できる環境を作るコミュニケーションが重要になります。
先日、働く環境を充実して社員のエンゲージメントを高い状態で保っているサイボウズ株式会社の記事を読んで驚いたことがありました。従前から多様な価値観を前提に組織として仕組みや制度を積極的に取り入れて変化しているサイボウズにおいても、コロナ禍の環境変化に適応しながら、更なる改善をしている様子について触れていました。
記事の中で青野社長が語っていた「僕はもう出社しちゃダメだ」に、個人的には衝撃を受けました。グローバルで1000人いるそれぞれの社員に対してフラットに伝えるには、オンラインでの発信や対話が、フラットでオープンに近いというのがその理由でした。私は、「社長が出社しない??」という記事のタイトルで思わすクリックして、読み始めていく中でタイトルの意味に納得しました。
これまでオンラインとオフラインの垣根なく実施していた社長会議(ただし社長はオフラインの会議室からの発信)が、実は知らず知らずのうちのオンラインとオフラインの参加者間に見えない壁を作っていたという反省の弁とともに語られていました。こうした青野社長の取り組み姿勢から見て、全社員が相互に対話しながら、会社としての共通的な価値観を日々醸成しているので、結束力のある組織なんだと改めて理解しました。
サイボウズ株式会社が実践しているチームや組織としてオープンでフラットなコミュニケーションにより、常にやり方を変えていくという組織としての仕組みが、ビジョンを経営から業務レベルまで浸透させている良い例だと言えます。
組織全体として、パーパスやビジョンを浸透させる組織的な仕組み(共通言語とオープンなコミュニケーション)を作り出すことで、組織全体のエンゲージメントが高まり、多様性の価値発揮をしやすい環境が整うのではないでしょうか。

チームの多様性を確保していく上での課題感

多様性の価値を発揮するためにマインドセットと実践のための仕組みの両方を整備するというのは、言うのは簡単ですが、非常に時間の掛かる取り組みだと理解しています。チームを構成する個々人の行動原理や日常の癖などを変革していく必要があることがその要因です。
特に、企業側がこれまで組織の中で人事制度を中心に行ってきた育成の仕組みでは、画一的な枠組みの中で活動する個人を量産することになり、既定の枠を越えて、動的に環境変化に対応するということが難しくなっています。
現場で起きている変化に対応するために、個々の従業員の日常的な仕事の課題解決やチームとして連携やエンゲージメントを高めるための有効な手段としての「コーチング」や「1on1」に注目が集まっています。しかし、形式的な1on1(雑談の場)では、社員のエンゲージメントが一向に高まらない、といった課題に直面しているようです。
そうしたケースに陥らずに、新しい環境に早く適応するために、企業内の仕組み化の推進と管理者層の意識変革を進めることが近道になります。ヤフー株式会社では、1on1を通じて、新しい文化を根付かせるために、経営体制の変更に合わせて、トップマネジメントの承認を得つつ、組織の仕組みとして定着していったそうです。もちろん、最初は懐疑的な管理者も多かったそうです。しかし、制度としての強制力や周りでうまく回り始めている事例などに影響されて徐々に変化していたことで、全社としての1on1が仕組みとして定着し、密度の高いコミュニケーションによって機動力のある組織に変わったそうです。

必要な環境を疑似的に作り出す

Co-Creation Hubでは、新しい事業のコンセプト創造や検討支援のみならず、事業開発を推進するチームメンバーに対して、事業開発における基本的な振る舞いができるような支援をするコーチングのライセンスを持ったメンターが伴走しています。
これは、一朝一夕でチームの多様性を確保することが難しいという事情を踏まえて、事業開発の検討の取り組みと並行して、チームとしての事業開発を実践するためのメンバーそれぞれの意識変革を促すための工夫です。正解がない事業開発という取り組みの中でも自走しつつも、個人では不足するケイパビリティをチームで補うための対話力や動き方などを、参加者の内省を促すことで、効果的な行動変容を実現できます。
事業開発の実践を通じた学びは、日々の課題解決の繰り返しによる気付きによって正解がない中でも考えを巡らせ、行動によって検証するという一連の動作につながっていきます。そうした内省による意識や行動の変化によって、参加直後よりも回を追うごとに動きが良くなっていくのを我々も実感しています。
この様な事業開発を交換的なパーパスとビジョンをもった調整のあるチームを育ている環境を一度借りてみるという意識で参画いただく企業も少なくないので、興味がある方は、一度問い合わせをいただければ幸いです。

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