まだ課題の多いメタバース決済であるが、参入を検討するタイミングとしては、2023年前半が一つのターニングポイントとなると考える。特に銀行・資金移動業者にとって参入余地があると考えられるため、その点について述べていきたい。
メタバース上での商取引が発展するに際し、決済手段は重要なポイントとなる。先に述べた通り、ステーブルコインは価格変動リスクが低く、決済利用に適している。日本においては、2022年6月に法律(資金決済法等改正法)が成立(1年以内に施行)し、ステーブルコインの発行は銀行(信託銀行を含む)、資金移動業者、信託会社に限定されることとなった。また、現在国外で流通しているステーブルコインも、日本で発行・利用するには、取り扱う事業者が金融庁へ登録する必要がある。そのため、グローバル展開している事業者にとって、日本のマーケットだけのために資金移動業などを取得しなければならず、登録・維持コストを考慮すると、日本での取り扱いを回避する動きが出る可能性がある。そのため、既存国内金融機関にとっては、海外で先行していたステーブルコイン事業を、フラットな状況でスタートできるタイミングとなる。
メタバース金融活動は、アバターと実在人が紐づいている状態で行われる必要性があると考えられるが、銀行や資金移動業のサービスを利用しているユーザーは、既に本人確認を行っているケースが多く、メタバース金融サービスの申込ハードルが低いことも利点である。また「銀行口座」という切り口でアプローチが難しくなっているZ世代・ミレニアル世代に対しても、Walletという新しい資金管理ツールを提供することにより、アプローチを行う契機になると考えられる。
ただし、銀行においては、ステーブルコイン以外の暗号資産などを管理するWalletの提供が、銀行法における業務範囲規制、および暗号資産交換業に抵触する可能性があり、留意が必要となる※8。Walletに関してはもう一点動きがあり、内閣府令の改正※9により、信託銀行が暗号資産の信託の受託(カストディ業務)を行うことが出来る方向性が示された。
これらの動きを踏まえると、金融機関が取り得る基本的なビジネスモデルとして、以下3つの案が考えられる。
①ステーブルコイン発行事業
②Wallet事業
③カストディ事業
①および②は、主に銀行(信託銀行含む)や資金移動業者が、③は信託銀行が、必要な登録を行った上で事業展開することが想定される。単体で事業として成り立つものもあれば、②のWallet事業など、基本無料で提供されている他社サービスがあり、どのように競争優位を築き、マネタイズ可能な事業とするか、検討が必要な場合もある。顧客との新たなタッチポイントとして捉え、既存事業とのクロスセルを実現するなど、①~③の基本的なビジネスモデルから、更にマネタイズの幅を広げることが重要であると考える。
金融は世界を発展させるのに不可欠なイネーブラーとして重要な役割を担い、それはメタバースにおいても同様である。メタバース上のより自然な決済体験を実現するために、決済に関するUI/UX(ユーザー接点およびユーザー体験)の洗練は今後も進展していくものと考えられるが、その裏側の新しい決済手段(ステーブルコインなど)も、法改正などをきっかけに急速に浸透する可能性がある。
アビームコンサルティングでは、メタバースに関する技術動向やニーズをいち早く捉え、インサイト発信などの業界発展に向けた活動や、ビジネス構想策定などのクライアント支援を行っている。
メタバース空間で、誰もが様々な商品を安心して購入できる世界が、早期に実現されることを期待している。