資源循環から循環価値へ―日本企業のサーキュラーエコノミー変革(全3回) 第2回 どのRを重点領域とするか:R-Ladderで見える日本企業の収益機会

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2026.11.04
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第1回では、我が国の3R(Reduce、Reuse、Recycle)政策や企業実務が資源循環の基盤を形成してきた一方、競争軸が、回収量やリサイクル率といった「循環の量」から、製品や部品、材料に残る価値をいかに失わせずに循環させ、収益につなげるかという「循環価値」へ移りつつあることを整理した。リサイクル率や回収量を高めることは引き続き重要である。しかし、それだけでは、製品、部品、材料、さらには顧客が得る機能に残る価値を十分に維持し、事業収益へつなげることはできない。

では、企業はどの価値を残し、どの循環ループで競争すべきなのか。第2回となる本稿では、その問いを考えるためのフレームとしてR-Ladderを取り上げる。R-Ladderを環境対応の分類にとどめず、収益構造や競争優位を考えるための戦略フレームとして読み替えることで、日本企業が自社の強みを活かしてどのRで戦うべきかを考察する。

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  • 遊佐 昭紀

    遊佐 昭紀

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1. R-Ladderを「残す価値」と「収益構造」で読み替える

R-Ladderは、サーキュラーエコノミーにおける多様な取り組みを整理する枠組みである。一般には、Recycle(素材リサイクル)やRepair(修理)、Reuse(再利用)、Refurbish(再生)、Remanufacture(再製造)、Rethink(再考)などの循環アプローチを段階的に捉え、資源や製品をできるだけ高い価値の状態で使い続ける考え方として説明される。

たとえば、使用済み製品を廃棄するより、素材としてリサイクルする方が価値を残せる。さらに、素材に戻すよりも、部品や製品として再使用する方が価値を維持しやすい。製品の使い方や提供方法そのものを見直すRethinkは、製品を売り切る事業から、顧客が必要とする機能や成果を継続的に提供する事業への転換につながる。

ただし、企業経営の観点では、R-Ladderを「上位のRほどよい」という単純な序列として捉えるべきではない。重要なのは、自社の製品特性や顧客との関係、回収可能性、保守体制、データ取得能力を踏まえ、どのRであれば価値を残し、収益化できるのかを見極めることである。

第1回で整理したとおり、サーキュラーエコノミーにおける残存価値は、材料価値、製品価値、機能価値の3層で捉えることができる。金属や樹脂など素材としての「材料価値」、製品や部品が形状や性能、品質を保った状態で持つ「製品価値」、そして顧客が製品から得る機能や成果に着目した「機能価値」である。この視点でR-Ladderを読み替えると、各Rは単なる環境対応の違いではなく、異なる「価値の残し方」と「収益構造」に結び付く(図1)。

図1 R-Ladderのフレームワークと残存価値の3層構造との関係性

Recycleは、使用済み製品や部品を素材として回収し、再生材として利用する取り組みである。主に残すのは材料価値であり、再生材の供給、資源回収、調達リスクの低減、再生材品質の保証などが収益機会となる。資源制約が強まる中、再生材を安定的に確保・供給できる能力そのものが競争力となる。

ReuseやRepairは、製品や部品の使用を継続し、製品価値を維持する取り組みである。ここでは、修理サービスや保守契約、交換部品、延長保証、二次流通などが収益源となる。製品販売後も顧客との接点を維持できるため、単なるアフターサービスにとどまらず、顧客関係を継続するための事業基盤となり得る。

RefurbishやRemanufactureは、使用済み製品や部品を再整備・再製造し、品質を確認したうえで再び市場に戻す取り組みである。単なる中古品ではなく、品質基準や保証を備えた再生品として提供できれば、新品とは異なる価格帯や顧客層にアクセスできる。ここでは、分解や検査、部品交換、再組立、品質保証といった工程能力が競争優位となる。

Rethinkは、製品の使い方や提供方法そのものを見直す取り組みである。製品を売り切るのではなく、顧客が必要とする機能や成果を継続的に提供することで、PaaS(Product as a Service)や従量課金、稼働保証、成果報酬といった収益モデルにつながる。ここで重視されるのは、材料価値や製品価値だけでなく、顧客が得る機能価値である。

このように、R-Ladderは環境対応の分類ではなく、企業がどの価値を残し、どの収益構造で競争するかを考えるための戦略フレームとして読み替えられる。したがって、企業は「どのRに取り組むか」を考える前に、「自社はどの価値を残せるのか」「その価値をどの顧客に提供できるのか」「どの収益構造に転換できるのか」を明確にする必要がある。

2. 自社の強みを再点検し重点化すべきRをどう見極めるか

日本企業は、サーキュラーエコノミーへの移行において、ゼロから新しい能力を獲得しなければならないわけではない。むしろ、これまでの我が国の3R政策や企業実務の中で培ってきた強みは、R-Ladder上の複数の領域で活かすことができる。代表的なものとして、次の3つが挙げられる(図2)。

図2 我が国の3R政策や企業実務の中で培ってきた日本企業の代表的な強み

一つ目は、回収・リサイクルのスキームである。さまざまな製品分野で回収や再資源化の制度・スキームが整備されている。回収した製品を一律に素材化せず、状態に応じて再使用や修理、再整備、再製造へ振り分けることができれば、より上位のRへ進むための入口ともなり得る。

二つ目は、高品質なものづくりと耐久性である。長期間使用できる製品、信頼性の高い部品、品質のばらつきが少ない製造工程は、Reuse、Repair、Refurbish、Remanufactureの前提条件となる。逆に、製品が短期間で故障する、分解しにくい、部品交換が難しいといった状態では、上位のRの実装は難しい。

三つ目は、保守やアフターサービスの体制である。多くの製造業は、販売後の点検や修理、部品供給、顧客対応の仕組みを持っている。これは製品状態を把握し、顧客接点を維持しながら製品価値を長く保つ基盤であり、循環価値を創出するための重要な要素となる。

一方、これらの強みが自動的に循環型の収益機会につながるわけではない。既存の強みを循環価値の収益化に十分生かしきれていないケースも少なくない。たとえば、「回収はしているが、残存価値に応じた振り分けができていない」「高品質な製品をつくっているが、再使用や再製造を前提とした事業モデルが設計されていない」といった状況である。

したがって、日本企業に求められるのは、既に持っている強みをR-Ladder上で再点検し、それをどう収益機会につなげるかを再設計することである。
R-Ladderで示される複数のRのうち、どのRを事業戦略の重点領域とするかは、業界や製品特性によって異なる。重要なのは、他社や他業界の取り組みをそのまま模倣するのではなく、自社製品に残せる価値を見極め、その価値を回収し、顧客に提供して収益化できるRを選ぶことである。

そこで、当社は、重点化すべきRを見極めるための4つの視点と、それぞれで確認すべき要素を提案する(図3)。

図3 重点化すべきRを見極める4つの視点

第一に、製品寿命と耐久性である。これは、製品や部品としての価値がどれだけ残るかを左右する。長期間使用でき、部品交換によって性能を維持できる製品であれば、RepairやReuse、Refurbish、Remanufactureに適している。一方、劣化が早い、陳腐化しやすい、分解や部品交換が難しい製品では、上位のRに進もうとしても、品質保証や採算性の面で限界が生じやすい。この場合は、Recycleの高度化や、設計段階での易解体性の向上(Rethink)、省資源化(Reduce)が重要となる。

第二に、顧客接点の有無である。これは、残した価値を収益化できるかを左右する。販売後も保守契約や点検、部品交換、利用データなどを通じて顧客との関係を維持できれば、RepairやRethinkへ展開しやすい。顧客接点があれば、故障前の保守や稼働保証、機能提供、契約継続といった収益モデルも設計しやすくなる。逆に、販売後に顧客との接点が途切れる製品では、修理や再使用の機会があっても、それを自社の収益に結び付けることは難しい。

第三に、回収可能性である。これは、循環ループを事業として成立させるための供給量と安定性を左右する。ReuseやRefurbish、Remanufactureは、使用済み製品や部品が安定的に戻ってくることを前提とする。「回収量が少ない」「品質がばらつく」「回収コストが高い」などの場合、再使用や再製造の仕組みを構築しても事業として拡大しにくい。したがって、回収ルートや下取り、リース、保守契約、パートナー連携などを通じて、製品が戻る仕組みを設計する必要がある。現時点でこの仕組みがなくても、今後整備できる可能性も含め見極めていくことが必要である。

第四に、データ取得能力である。これは、残存価値を評価・保証し、適切に価格設定できるかを左右する。製品の使用状況や修理履歴、部品交換履歴、回収後の状態を把握できれば、どの製品を再使用し、どの部品を再製造し、どの製品を素材化すべきかを判断しやすくなる。また、再生品や再製造品を市場に戻す際にも、品質や履歴を説明できることが信頼につながる。データがなければ、価値が残っていてもそれを証明できず、結果として低い価値で処理せざるを得ない可能性がある。

この4つの視点は、単独で見るのではなく、組み合わせて考える必要がある。たとえば、耐久性が高く、顧客接点があり、回収可能性とデータ取得能力も高い製品であれば、RepairやRemanufacture、Rethinkへ展開する余地が大きい。一方、耐久性は高くても顧客接点や回収ルートが弱ければ、まずは回収や二次流通の仕組みを整える必要がある。製品としての再使用が難しくても、材料価値が高い場合には、Recycleの高度化やトレーサビリティ強化が有効となる。

したがって、企業は「上位のRを目指すべきか」と抽象的に考えるのではなく、自社にとって実現可能で、競争優位を築けるRを見極める必要がある。R-Ladderは、すべてのRを網羅的に実施するためのチェックリストではない。自社の製品寿命や顧客接点、回収可能性、データ取得能力を踏まえ、重点化すべきRを選ぶための戦略フレームである。

3. 企業は「どのRを重点化するか」を決める時代へ

重点化すべきRを見極めるには、第2章で示した4つの視点、とりわけデータ取得能力について、自社の実態を把握することが出発点となる。その入口として、いま製造業で関心が高まっているのが、デジタルプロダクトパスポート(DPP)への対応である。

2024年7月にEUのエコデザイン規則(ESPR)が施行されて以降、製造業のクライアントから、DPPへの対応に関する相談が増えている。DPPの実装には、従来のものづくり工程で流通してきた情報だけでは、想定される要件を十分に満たせない可能性が高い。準備には相応の時間を要するため、何から着手すべきかが課題となっている。

そこで、アビームコンサルティングは、製造業のサプライチェーン改革、製品ライフサイクル管理、環境価値の可視化に関する知見を活かし、クライアントの各種システムに蓄積された情報を精査して、DPPの想定要件とのギャップを可視化する支援を進めている。

たとえば、電気・電子機器のクライアントでは、はじめに規制を実務データ項目まで翻訳した上で「必要最低限の水準」と、市場動向・当局要求の厳格化を見込んだ「競争優位性観点の水準」の二段階のターゲットを設定し、プロジェクトを推進した。その上で、保有するデータの要件適合性とギャップを明らかにし、DPPの実装に向けた具体的な課題の可視化を伴走支援した。法規制にどう備えるかという課題に向き合うところからプロジェクトはスタートしたが、今後は明らかになった課題への対応やデータ取得能力の強化を通じて、自社がどのRで競争優位を築くかを見据えた将来の事業戦略の検討にも伴走していく。

この事例が示すように、もっとも重要なのは、まず自社の実態を把握し、強みを再点検することである。その上で初めて、サーキュラーエコノミーの実装に向けた検討に着手できる。さらに具体的な検討フェーズでは、すべてのRに一律に取り組むことが目的ではなく、どの価値を残せるのか、どの循環ループで競争優位を発揮できるのか、どの段階で収益化できるのかを見極めることが重要である。こうした問いに向き合える企業こそが、サーキュラーエコノミーを競争力へ転換できる。

企業は、環境上望ましい取り組みを網羅的に並べるだけではなく、自社が重点化すべきRを選ぶ必要がある。その選択は、事業領域や製品特性だけでなく、顧客接点や保守体制、回収網、データ基盤、品質保証能力によって変わる。つまり、R-Ladderは外部から与えられる正解ではなく、自社の強みと市場機会を照らし合わせて読み解くべき戦略フレームである。

第3回では、R-Ladderの中でも特に上位に位置づけられるRethinkを取り上げる。Rethinkは、単なるサービス化やサブスクリプション化ではない。設計や販売、保守、回収、データ、KPIをつなぎ直し、製品ライフサイクル全体から価値を生み出す経営変革である。売り切り型事業から循環型収益モデルへ移行するには、何を変える必要があるのか。次回は、その実装に向けた論点を整理する。

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