資源循環から循環価値へ―日本企業のサーキュラーエコノミー変革(全3回) 第1回 リサイクル率だけでは勝てない:日本企業が向き合う「循環価値」の次の競争軸

インサイト
2026.09.16
  • 機械
  • 電機
  • サステナビリティ経営
  • 経営戦略/経営改革
1360884566

サーキュラーエコノミーは、いまや廃棄物削減やリサイクル率向上にとどまらず、企業の競争力や事業モデルのあり方を問い直す経営テーマとなっている。多くの企業はこれまで「資源をいかに回すか」という観点から回収や再資源化に取り組んできたが、問われるのはそれだけではない。資源制約や脱炭素、経済安全保障、欧州を中心とする規制・情報開示要請の高まりを背景に、製品・部品・材料、さらには顧客が得る機能に残る価値をいかに維持し、事業収益へつなげるかが、新たな競争軸となりつつある。

本シリーズでは、日本企業が3R政策を軸に、品質・保守・回収・リサイクルの実務を通じて培ってきた強みを、サーキュラーエコノミー時代のビジネス変革へどう活かせるかを、全3回で考察する。第1回では、我が国の3R政策や企業実務の到達点を踏まえ、競争軸が「循環の量」から「循環価値」へ移りつつあることを整理する。第2回では、R-Ladderを環境分類ではなく企業戦略のフレームとして読み替え、日本企業がどのRで収益機会を見いだすべきかを考える。第3回では、Rethinkを単なるサービス化ではなく、設計・販売・保守・回収・データ・KPIをつなぎ直す経営変革として捉え、実装に向けた論点を整理する。

執筆者情報

  • 遊佐 昭紀

    遊佐 昭紀

    Individual Contributor

1. 我が国の3R政策が築いてきた資源循環の基盤

はじめに、我が国が3R政策を通じて築いてきた資源循環の基盤を振り返る。そのうえで、この蓄積が今後のサーキュラーエコノミーにおいてどのような強みとなるのか、同時にどこで発想の転換が求められるのかを整理し、以降の議論の出発点を示す。

我が国における資源循環の取り組みは、長年にわたり3R政策(Reduce、Reuse、Recycle)を基本として進められてきた。廃棄物の発生抑制、使用済み製品や容器包装の回収、再資源化の仕組みづくりは、社会制度としても企業実務としても成熟してきた。

家電や自動車、容器包装、オフィス機器など、さまざまな領域で回収・再資源化の制度や実務が整備されてきたことは、我が国の資源循環政策の大きな成果である。家電リサイクル法や小型家電リサイクル法、容器包装リサイクル法などの制度的枠組みに加え、消費者や自治体による分別、企業の回収ルート整備、事業者の処理技術の高度化など、これを支える社会的な基盤も整えられてきた。

企業側に目を向けると、日本企業は、品質管理、耐久性、保守サービス、部品供給、使用済み製品の回収、素材リサイクルなどにおいて多くの経験を蓄積している。特に製造業では、製品を長く使えるようにする設計思想、故障時に対応するサービス網、品質を保証する検査・管理の仕組みが、事業活動の中に組み込まれてきた。

これらは、サーキュラーエコノミー時代においても有力な資産となり得る。サーキュラーエコノミーとは、新しい環境概念の導入にとどまらず、製品ライフサイクル全体を通じて価値を維持し、再利用し、再び市場に戻す仕組みを構築することだからである。日本企業が培ってきた品質、保守、回収、再資源化の能力は、その土台となる。

ただし重要なのは、これまでの3R政策の成果をそのまま延長すれば十分ということではない。我が国の3R政策は資源循環の基盤を築く大きな役割を果たしてきたが、今後は回収量や再資源化量を増やすだけでなく、そこに残る価値をどう見極め、どう収益化するかが問われる。回収して素材に戻すこと自体を目的とするのではなく、その手前でどれだけ高い価値の状態を保てるかが、企業の収益と資源効率の双方を左右する。そのためには過去の蓄積を次の競争力へと転換する視点が必要になる。

2. なぜ「循環の量」だけでは不十分になったのか

次に、リサイクル率や回収量といった「量」の指標だけでは循環を捉えきれなくなった背景を、四つの潮流から整理する。

従来の資源循環では、廃棄物を減らし資源を有効利用するうえで重要な指標としてリサイクル率や回収率、廃棄物削減量、再資源化量といった「量」の指標が重視されてきた。その結果我が国では、3R政策や各種リサイクル制度を通じて、資源を回収し再資源化する仕組みが社会に定着してきた。

しかし、現在のサーキュラーエコノミーをめぐる議論は、「資源を回収し、再資源化する」からさらに一歩進みつつある。その背景には、社会的要請や我が国の政策動向、国際的なルール形成、そして企業の競争環境の変化という四つの潮流がある(図1)。

図1 サーキュラーエコノミーの社会実装を後押しする主な要因

第一に、資源制約や脱炭素、地政学リスクが高まる中で、企業には、限られた資源をより高い価値の状態で使い続けることが求められている。資源を廃棄段階で素材として回収するだけでは、調達リスクの低減や温室効果ガス排出削減、製品寿命の延伸といった課題に十分に応えられない場合がある。

第二に、我が国の政策文脈においても、サーキュラーエコノミーは廃棄物対策や再資源化にとどまらず、資源制約への対応や産業競争力の強化、国内資源循環システムの自律化・強靱化と結び付けて捉えられている。第五次循環型社会形成推進基本計画成長志向型の資源自律経済戦略、さらには2026年4月に閣議決定された循環経済行動計画に見られるように、循環を経済活動や成長戦略として捉える段階へと重心が移りつつある。

第三に、国際的にも企業には製品ライフサイクル全体での説明責任が問われている。欧州のエコデザイン規則(ESPR)やデジタルプロダクトパスポート(DPP)に見られるように、製品がどのような材料で構成され、どのように使われ、修理され、回収され、再利用・再資源化されるのかを把握し、開示することが取引条件になりつつある。

第四に、企業戦略の観点では、回収した製品を一律に素材としてリサイクルするだけでは、事業機会を取りこぼす可能性がある。まだ使える部品や再整備可能な製品を素材化してしまえば、部品価値や製品価値、顧客との接点が失われる。これからは、回収後にどの価値を残し、どの形で再収益化するかが問われるようになる。

これら四つの潮流は、いずれも同じ方向を指している。すなわち、循環を廃棄物処理の延長ではなく、価値をいかに保持するかという経営の問題として捉え直す動きである。

したがって、これからのサーキュラーエコノミーでは、「どれだけ回収し、どれだけリサイクルしたか」に加えて、「どの価値を、どの段階で、どれだけ維持できたか」が重要になる。リサイクルの重要性が低下したのではない。社会や政策、国際ルール、企業競争のいずれの側面においても、企業には資源を回す力に加え、価値を失わせずに循環させる力が求められるようになっている。

3. 残存価値で捉えるサーキュラーエコノミー

次に、循環の対象を3層の残存価値として捉える枠組みを示す。

競争軸が「量」から「価値」へ移るとき、企業はまず、自社が循環させている対象を何と捉えているかを問い直す必要がある。サーキュラーエコノミーをビジネス変革につなげるには、循環する対象を材料だけで捉えるのでは不十分である。なぜならば製品ライフサイクル上には、材料、部品、製品、機能、顧客接点など多様な価値が存在するためだ。一般的にサーキュラーエコノミーは製品や資源の価値をできるだけ高い状態で維持しながら循環利用するための優先順位を示したフレームワーク(R-Ladder等)で整理されることが多いが、事業変革の観点からは、材料・製品・機能という残存価値の三層で捉え直す方が、収益への打ち手を特定しやすい。価値の層を区別することで、自社の製品がどの層で価値を失っているのかを可視化でき、打つべき手の優先順位が見えてくる(図2)。

図2 残存価値の3層構造

第一に、材料価値である。使用済み製品や部品を構成する金属や樹脂、ガラス、紙などの素材としての価値を指す。リサイクルや再生材利用は、この材料価値を回収・再利用する取り組みである。資源制約や調達リスクが高まる中で、材料価値の確保は引き続き重要である。

第二に、製品価値である。製品や部品が、形状、性能、品質、信頼性を維持した状態で持つ価値を指す。修理や再使用、リファービッシュ、リマニュファクチャリングなどは、この製品価値や部品価値を維持する取り組みである。素材に戻すのではなく、製品や部品として再び使える状態を保つことができれば、より高い経済価値を残せる。たとえばコピー機やプリンターなどの事務機器の分野では、回収した機体を分解・洗浄・部品交換し、新品同等の品質保証を付けて再供給するリマニュファクチャリングが、国内外で事業として成立している。

第三に、機能価値である。これは顧客が製品から得る機能や成果に着目した価値である。製品そのものを売るのではなく、提供機能や移動機能、稼働時間、処理能力といった機能を継続的に提供するモデルでは、企業は製品の所有や使用状況を把握しながら、顧客に価値を提供し続けられる。PaaS(Product as a Service)や稼働保証、成果提供型のビジネスモデルは、この機能価値を起点とする。たとえば産業機器分野では、装置の稼働時間や処理量に応じて課金するモデルが広がりつつあり、提供者は稼働データを通じて保守と回収を最適化できる。所有権を企業側に残すことで、製品は使用後に確実に回収され、次の製品価値・材料価値へと循環させやすくなる。機能価値の設計は、上位の循環ループを回収の面からも下支えする。

この3層で見ると、リサイクル中心の資源循環と、事業変革としてのサーキュラーエコノミーの違いが見えてくる。リサイクルは主に材料価値を回収し、修理や再使用、リファービッシュ、リマニュファクチャリングは製品価値をより高い状態で維持する。PaaSや機能提供モデルは、顧客が得る機能価値を継続的に提供し収益化する取り組みである。

重要なのは、いずれかの価値が常に優れているという単純な序列ではない。自社の製品特性や顧客との関係、回収可能性、保守体制、データ取得能力によって、維持すべき価値は異なる。大量に流通し素材回収が重要な製品もあれば、部品交換や再整備で製品価値を維持できる製品もある。顧客との継続接点を持ち使用状況を把握できる製品であれば、機能価値を起点にした収益モデルへ展開できる可能性もある。

たとえば大量に流通する消費財では、確実な回収と高品質な再生材の供給を通じて材料価値を最大化することが現実的な戦略となる。一方、事務機器や産業機器のように保守を通じて顧客との接点が続く製品では、製品価値や機能価値を残す循環ループのほうが高い収益をもたらしやすい。同じ「循環」でも、製品特性によって狙うべき価値の層は異なる。

このように、残存価値の視点は、企業が自社の戦略を考えるうえでの起点となる。自社はどの価値を残せるのか。その価値はどこで失われているのか。残した価値をどのように顧客価値や収益へつなげるのか。こうした問いを立てることで、サーキュラーエコノミーは環境対応から事業戦略へと位置づけを変えていく(図3)。

図3 残存価値の視点は自社の戦略検討の起点

4. 日本企業の次の競争軸は「価値を失わせない循環」へ

日本企業が培ってきた品質、耐久性、保守、回収、リサイクルの強みは、循環価値を高めるための有力な資産である。高品質な製品をつくる力は、長寿命化や再使用、再製造の前提となる。保守サービスや部品供給の仕組みは、製品価値を維持する基盤となり、回収やリサイクルの経験は、使用済み製品を再び事業の中に戻すための入り口となる。

しかし、これらの強みが自動的に競争力につながるわけではない。従来の売り切り型モデルでは、販売後の使用状況や修理履歴、回収後の状態が十分に把握されていない場合も多い。回収された製品が、品質や残存価値に応じて再使用、再整備、再製造、リサイクルへと適切に振り分けられていなければ、価値を最大限に活かすことはできない。

さらに、社内の評価指標や組織構造が新品販売を中心に設計されている場合、修理、再使用、再製造、再販といった取り組みは、成長領域ではなく周辺業務として扱われがちである。新品を一台多く売ることが評価される一方、一台を長く使い続けてもらう取り組みが評価されにくい構造では、循環価値を残す事業は育ちにくい。したがって、サーキュラーエコノミーを事業変革につなげるには、これらを単なる環境施策やアフターサービスではなく、ライフサイクル全体で価値を生み出す収益機会として捉え直す必要がある。

その意味で、今後の競争軸は、「価値を失わせない循環」をどう構築できるかに移っていく。これはリサイクルを否定するものではなく、従来の取り組み基盤を活かしながら、より高い価値を残せる循環ループへと拡張していくことである。

こうした発想は、サーキュラーエコノミーを環境対応から経営戦略へと引き上げる。企業に求められるのは、すべての循環手段に一律に取り組むことではなく、自社がどの価値を残せるのか、どの循環ループで競争優位を発揮できるのか、どの段階で収益化できるのかを見極めることである。

まずは自社製品が図2のどの層で価値を損失しているかを可視化することが出発点となる。そのためには、販売時点から使用・保守・回収に至る製品情報をデジタルにつなぎ、個体ごとの残存価値を可視化することが必要となる。そのうえで、再使用・再整備・再製造・リサイクルへ振り分ける判断基準と、価値保持そのものを評価する指標を組織に組み込むことが求められる。

アビームコンサルティングは、DPPを単なる規制対応ではなく、材料・製品・機能の残存価値を可視化し収益化する経営インフラと捉え、その情報開示支援を通じて、日本企業が培ってきた品質・保守・回収の強みを循環価値へ転換する取り組みを支援している。

第2回では、この問いを考えるためのフレームとしてR-Ladderを取り上げる。R-Ladderは単なる環境対応の分類ではなく、企業がどの価値を残し、どの収益構造で戦うかを考えるための戦略フレームとして活用できる。日本企業が持つ品質、保守、回収、再資源化の強みを、どのRで活かしどのような事業機会へつなげるのか。その選択こそが、サーキュラーエコノミー時代の競争力を左右する。


Contact

相談やお問い合わせはこちらへ