AI時代の営業スタイルの変化 第2回 顧客理解を組織の競争力へ変える、人とAIの連動モデル

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2026.10.19
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AIの進化により、営業活動の自動化・高度化が進む中、営業担当者には、企業固有の文脈を捉え、顧客の意思決定を支援する役割がこれまで以上に求められている。本稿では、顧客理解を担う「顧客の付き人」、その理解を顧客にとっての価値へ変換する「戦略パートナー」、そして両者を支援するAIが連動する営業モデルを提示する。さらに、このモデルの実現に向けて、非公式・非構造的な顧客情報をデジタル資産として組織的に蓄積・活用するあり方を考察する。

執筆者情報

  • 藤井 慎一

    藤井 慎一

    Senior Manager

第1回の振り返り:「顧客の付き人」の知見を組織の力へ

本連載の第1回では、今後、より価値が高まる存在として、AIが代替しにくいスキルやノウハウを持ち、顧客の意思決定に日常的に伴走する「顧客の付き人」を取り上げた。そして、そうした人材が担う顧客の意思決定プロセスに生じる隙間へのアプローチ(信頼関係の構築、企業固有の文脈理解、合意形成の支援)を組織知として継承し、組織全体で活用できるようにすることが、営業改革の中核課題であると述べた。今回は、そうした「顧客の付き人」と、その顧客理解を提案価値へ変換する「戦略パートナー」を中心に、どのような営業体制がAI時代の勝ち筋となるのか、その世界観を深掘りする。

AI時代に変わるBtoB営業の競争軸

AIの活用が営業活動に広がる中で、BtoB営業の競争軸は、情報提供や提案作成から、企業固有の文脈を捉え、意思決定を支援する力へと移りつつある。
AIは、営業の役割や仕事の進め方、さらには営業組織そのものを大きく変えつつある。これまで人が担ってきた営業活動の多くをAIが支援・代替する場面が広がることで、営業担当者は苦手な領域を補完できる。一方で、AI活用が広く浸透するほど、自らがどのような価値を提供し、差別化するのかを明らかにすることが求められる。

人間が価値を発揮する「入口」と「出口」

AI時代において、営業はどこで、どのような価値を発揮すべきなのか。言い換えれば、一連の営業プロセスにおいて、AIが代替しにくい領域をどこに見出し、営業としての独自の強みを明確にして差別化していくのかという論点である。
具体的に、営業担当者の役割を掘り下げていく。カギは「入口」と「出口」である。入口とは、顧客の真のニーズや、投資してでも解決したい課題を導出する段階を指す。汎用的なAIモデルが広く利用可能になるほど、AIの性能だけで差別化することは難しくなる。差を分けるのは、企業固有の情報や文脈を、いかに質の高いインプットとして与えられるかである。
顧客が示すニーズや要件、RFP(提案要求書)などをインプットするだけでは、競合との差をつけることは難しい。差別化するためには、顧客企業の組織事情やキーマンの関心、判断基準、懸念、意思決定に影響する心理的要因などを踏まえ、個社に最適化された提案を行う必要がある。顧客は、自社固有の事情や意思決定の背景を踏まえた提案を、より高く評価する。
こうした情報は、CRMやSFAに蓄積される案件情報や活動履歴だけでは捉えにくく、キーマン同士の力学、意思決定の背景、組織内の温度感などは、顧客との継続的な対話を通じて初めて把握できる。ここに、「顧客の付き人」が入口を担う意味がある。
一方の出口とは、顧客に対して実際に提案し、その後のフォローを行う場面である。汎用的な情報をもとにAIで作成した提案は同質化しやすく、企業固有の文脈を踏まえた内容と、その「伝え方」の双方が差を分けるようになる。ここでカギとなるのが、相手の理解と納得を促すナラティブ(ストーリー)である。「なぜ今、必要なのか」「取り組まなければ、どのようなリスクがあるのか」を論理的に語ること自体はAIにもできる。しかし、相手の事情や社内の力学を考慮し、自然に受け入れられる筋立てへと組み替えていくには、対話を通じて得た顧客理解が欠かせない。さらに、意思決定に至るまで、顧客の関心や懸念に応じて働きかけを調整し、丁寧にフォローしていくことも求められる。AIによる支援は可能であるものの、顧客との関係性に責任を持ちながら合意形成を進めることは、人間が中心となって担う領域である。
CRMのトップランナーであるSalesforceも、AIが営業活動の幅広い領域を代替する一方、人間には、顧客との信頼関係やクロージングなど、AIだけでは担いにくい領域が求められるという見方を示している。※また、他のCRM領域に関わる有力ベンダーも、それぞれAI時代における営業の世界観を打ち出しているが、各社に共通するのは、人間の営業が担うべき役割が「情報提供」から「関係構築・文脈理解・意思決定支援」へ移行しているという見方である。

※出典:Salesforce, “Agentforce Sales: Agents Handle The Grind, Sellers Focus on the Win.” 2026年3月16日

「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」の有機的な連動

AI時代における営業モデルの一つの姿が、「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」の役割を明確に分け、三者を循環的に連動させる体制である。
第一に、「顧客の付き人」は営業活動の入口と出口を中心的に担う。入口では、顧客との信頼関係を通じて、明示された要件だけでは捉えにくい組織事情、キーマンの関心、意思決定上の懸念や制約といった企業固有の文脈を把握する。出口では、その文脈を踏まえて提案の伝え方を調整し、意思決定に至るまでの働きかけとフォローを通じて、合意形成を支援する。
第二に、「戦略パートナー」は、顧客の付き人が得たインプットを起点に、課題仮説を組み立て、提案の方向性や解決策を検討する役割を担う。顧客がまだ明確に言語化できていない課題を先回りして捉え、事業・業務・組織の観点から、顧客価値に直結する提案へと磨き込んでいく。
第三に、AIは、顧客情報、業界動向、過去提案、競合情報、社内知見などを多面的に分析し、顧客の付き人と戦略パートナーの連携を支援する。つまり、AIが仮説構築や論点整理、打ち手の比較検討を支え、顧客の付き人が企業固有の文脈と意思決定の機微を補い、戦略パートナーがそれらを提案価値へ変換する。この三者が一方向ではなく、仮説提示、顧客反応の取得、提案内容の再設計を繰り返すことで、提案はより個社に最適化され、競合との違いを生むものへと進化していく。
「顧客の付き人」と「戦略パートナー」の連携自体は、従来から個別案件の中で行われてきた。しかし、そこで得られた顧客理解や商談の勝ちパターンは、営業個人の経験や記憶にとどまりやすく、組織全体で継続的に活用できる状態にすることは容易ではない。
第1回で提示した暗黙知の継承という論点をさらに進めるならば、ここでの違いは、個人の経験にとどまっていた顧客理解を、AIを活用しながら形式知化し、組織全体で再利用できる資産へと転換する点にある。これにより、「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」の連動を、一時的な取り組みではなく継続的な営業モデルへと発展させることができる(図1)。

図1 「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」の三者連動による顧客価値創出サイクル

非構造的な顧客情報をデジタル資産へ

最後に、この三者の有機的な連動に欠かせない要素を取り上げる。それは、「顧客の付き人」が日々の対話を通じて把握する、さまざまな非公式・非構造的な顧客情報である。ここでいう非公式・非構造的な顧客情報とは、公式資料やCRMの定型項目には表れにくい、キーマンの関心や判断基準、組織内の力学、意思決定の背景などを指す。これらの情報を組織内でも再利用可能なデジタル資産として蓄積・更新していくことが、三者の継続的な連動を支える基盤となる。
営業が持つ非公式・非構造的な情報をデジタル化し、顧客に最適な提案につながる打ち手の検討に活用する動きは、一部のグローバルBtoB企業で既に始まっている。例えば、商談後の簡易メモや会話の自動文字起こし、メールの文脈などをAIで分析し、過去の成功事例やベストプラクティス、案件固有の制約・リスクと照合する。その上で、有効なアプローチや次に取るべき行動を営業担当者にフィードバックする。
今後はその活用もより広範囲にわたり、組織的な営業活動に組み込まれていくと予測される。人間が関与する非公式・非構造的な顧客情報をデジタル資産化していく取り組みは、経営の意思と継続的な取り組みによって推進することができる。そして、この取り組みを加速するためには、AIの特性を最大限活用できる組織のあり方や人の役割、業務プロセスまで視野を広げて見直していく必要がある。
AIツールの導入だけで営業改革が実現するわけではない。問われているのは、前述の三つの役割をどう再設計し、連動させるかである。既存の営業組織や業務の延長線上でAIを活用するだけではなく、AIを前提として営業活動全体を組み直す、いわばAIネイティブな視点が求められる。

まとめ

AI時代においては、従来の営業活動の多くがAIに置き換わっていく潮流の中で、より個社に最適化された提案の価値が高まっていく。そのような提案においては、顧客のキーマンの関心、判断基準、懸念などの入口と、それらを踏まえた筋立てで提案を伝える出口が、人間ならではの価値を発揮する領域である。その中心にいるのが、非構造的な顧客情報を引き出す「顧客の付き人」であり、「顧客の付き人」と連携して顧客オンリーワンの提案に仕立てる「戦略パートナー」である。彼らの重要性は、AI活用が進展する中でますます高まっていく。重要なのは、「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」三者の有機的な連動を、一時的なものではなく恒常的な状態へと引き上げていくことである。

AI時代の営業競争力を分けるのは、AIの性能そのものではない。企業固有の文脈を提案や合意形成に生かせるか。さらに、そこで得た顧客理解を個人にとどめず、組織の資産として活用できるか。この二点が問われる。
自社に引き付けて確認すべきは、誰が企業固有の文脈を把握しているのか、その知見がどこに、どのような形で残っているのか、そして共有を促す仕組みと動機づけが設計されているのか、という点である。これらの問いに答えるには、AIツールの選定にとどまらず、営業プロセス、役割分担、評価、情報管理を一体で検討することが求められる。
こうした考え方と、これまでの営業改革支援で培った知見を踏まえ、当社では「顧客の付き人」「戦略パートナー」「AI」が連動する、AIネイティブなオペレーティングモデルの構想・実現に取り組んでいる。AI時代における営業競争力の源泉はテクノロジーそのものではなく、顧客理解を起点に継続的に顧客価値を創出できる組織能力にある。だからこそ、その組織能力をどう設計し、現場に定着させるかを、クライアントと共に描いていきたいと考えている。

次回は、この営業改革を実現するためのチェンジマネジメントを取り上げる。特に大きな障壁となるのが、自らの知見を開示することに抵抗を抱く「顧客の付き人」の意識であり、その転換を組織としてどう進めていくかを詳述する。

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