【イベントレポート】サプライヤー管理は何を目指すべきか ――経営が判断できるサプライチェーンリスク対応とは

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2026.09.02
  • サプライチェーンマネジメント
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サプライチェーンリスクへの対応は、サプライヤー情報を集めるだけでは完結しない。重要なのは、その情報をもとに、経営がどのリスクにどこまで対応するかを判断し、説明できる状態をつくることである。多くの企業では、主要サプライヤーの選定、SAQ(自己評価アンケート)の送付、スコアリング、エンゲージメントや是正といった取り組みが進んでいる。それ自体は妥当な取り組みである。しかし、こうした施策を積み重ねているにもかかわらず、サプライヤー起因のインシデントが発生した際、なぜそのリスクを見ていなかったのか、どのような判断に基づいてその対応を選んだのかを経営として説明できない企業が少なくない。問題は施策の精度ではなく、集めた情報を経営の意思決定にどこまで活かせているか、という構造そのものにある。

2026年7月14日に開催された「サプライチェーンを経営として扱う ―サプライヤー情報はどこまで判断に活かせているか」では、アビームコンサルティング株式会社 Sustainable SCM Strategy Unit / Senior Managerの北村健一と、エコバディス・ジャパン株式会社 ストラテジック アカウント エクゼクティブの宮田昌彦氏が登壇。経営が意思決定できる形にリスク対応を落とし込むための考え方と、サプライヤー情報の信頼性を巡る国際動向について解説した。その内容をダイジェストでお伝えする。

(本稿は、本セミナーを再構成しています)

写真:左からアビームコンサルティング株式会社 北村 健一、エコバディス・ジャパン株式会社 宮田 昌彦 氏、
株式会社GXコンシェルジュ 清水 寛章 氏

1. サプライチェーンが「経営アジェンダ」化している理由

セミナー冒頭では、アビームコンサルティングの北村健一が登壇。委託先工場の労働環境が問題視され不買運動に発展したケースなど、サプライヤー起因の問題が自社のブランド価値・企業価値に直接跳ね返った実例を紹介した。重要なのは、これらが他社の不祥事ではなく自社の調達・管理の問題として経営の説明責任を問われる構造に変わってきている点だという。

この変化の背景には、3つの構造変化がある。地政学リスクの顕在化や供給途絶の発生といった外部環境の不確実化、SNS普及によって問題が瞬時に可視化される影響の顕在化、そして開示・デューデリジェンス規制の制度化による責任範囲の拡張である。かつては個別部門が対応すれば足りたサプライチェーンの問題が、今や経営が説明責任を負う領域へと変わってきている。

図1 サプライチェーンの経営課題化

また、サプライヤーマネジメントの評価軸そのものも変化している。従来はいかに安く・高品質なものを安定的に調達するかというQCDが中心的なミッションだったが、これに加えてBCP対応やサプライヤー依存度に表れる継続性(供給が止まらないか)、そして人権・環境などのサステナビリティ基準や規制・顧客要求への対応に表れる適合性(求められる基準に応えられているか)――この2つが、取引を継続できるかどうかを左右する前提条件になってきているという。

サプライチェーンマネジメントを難しくしている要因として、サプライチェーンという構造そのものの特性を挙げる。自社ではコントロールが効かない外部依存、多層構造で全体像を把握しきれない不可視性、そして問題が起きた際の責任は自社に帰属するという構造――把握・コントロールが難しい対象であっても、結果に対する説明責任は自社に問われるという構造にあるという。Tier1のサプライヤーであれば直接把握できても、そこからさらに上流に遡れば全体像を完全に把握することは現実的に困難である。サプライチェーン管理に求められるのは、すべてを把握することではなく、把握できない領域があることを前提に、重点的に見るべき対象と対応すべきリスクを判断することだ。北村は、この考え方こそが、サプライチェーン管理の出発点になると述べた。

2. 目指すべきは「網羅」ではなく「意図的な意思決定」

では、こうした環境下で企業は何を目指すべきなのか。北村の答えは明快だ。すべてのリスクを網羅的に把握することよりも、どのリスクにどこまで対応するかを決め、その判断を説明できる状態を目指す必要があるという。

見るべきリスクを根拠を持って選べていること、対応する/しないの判断を経営が意図的に決定し説明できること、そして想定外が起きた際の初動があらかじめ設計されていること――この3点が、経営に求められる姿勢だ。問題はリスクの存在そのものではなく、どのように判断していたのかを説明できないことにある。判断が不在・不十分であれば、防げたかもしれないインシデントを招く可能性がある。そして、さらにクリティカルなのは、問題発生後に判断理由を説明できないことで、外部からの経営責任を問われ問題が雪だるま式に肥大化していくことだ。

図2 サプライチェーン管理で目指すべき状態

現場ではすでに主要サプライヤーの選定やSAQ(自己評価アンケート)の送付、外部評価によるスコアリング、改善が必要な先へのエンゲージメントといった取り組みが進んでいる。しかし北村は、そこに現場と経営の見えにくいギャップがあると指摘する。

「サプライヤーの評価をひととおり実施していても、そのデータが経営の意思決定に使えるだけの粒度で整っているかというと、そうなっていない企業が多いのが実情です」(北村)

この目線のズレを解消するために示したのが、①対象の設定、②情報取得、③判断、そして④対応設計という4つのステップで意思決定プロセスを整理する考え方である。何を判断の対象に載せるのか、何を根拠に判断するのか、どの基準で判断するのか、そして判断結果をどのような行動につなげるのかを、あらかじめ設計しておくという考え方だ。

図3 本質を実現するための4つの意思決定

① 対象の設定

すべてのサプライヤーを見ることは現実的ではないため、止まったらどれだけ困るか(事業影響)、問題視されるか(外部リスク)、代えられるか(依存・制約)という3つの観点で対象を絞り込む。判断に迷う際の切り口として、北村は「その事業が止まったとき、ステークホルダーに対して業績影響を説明する必要があるか     が1つの目安になります」と補足した。

② 情報の取得

現場からよく聞かれるのが、「サプライヤーから提出される情報が、本当に正しいのか自信が持てない」という声だという。経営に判断を仰ぐ以上、その情報が信頼できるものであることを、きちんと説明できなければならない。

「情報が意思決定に使えるかどうかは、信頼性と比較可能性で決まります」(北村)

信頼性を担保するにはエビデンス(証跡)による裏付けと、検証プロセスの整備が欠かせない。また、複数のサプライヤーから集めた情報を横並びで判断するには、比較可能な粒度に揃えることも重要になる。

具体的には、自社でSAQを送付・回答・とりまとめを行う方法と、外部の評価ツールを活用する方法の2つがあるが、いずれの方法にも一長一短がある。自社でSAQを実施する場合は自社のリソースがかかるうえ品質がばらつきやすく、外部ツールを使う場合はコストが発生する。

「リソースとコストのトレードオフをどう社内で判断するかも、重要な意思決定のひとつです」(北村)

③  判断

対象範囲の設定で使った視点をさらに一段掘り下げ、事業影響(起きた場合の影響は許容できる水準か)、発生可能性(現実的に無視できる水準か)、制御可能性(実行可能な打ち手で低減できるか)という観点でリスクを判断していく。

④  対応設計

リスク度合いに応じた基本対応(リスク高=低減・是正・回避、中=モニタリング、低=受容等)を土台としつつ、それだけでは足りない2つのケースに備える必要があるという。1つは、リスクが高いサプライヤーが自社のサプライチェーン上で重要な事業を支えており、速やかに取引を止めることが難しい場合の例外対応だ。是正計画の策定やモニタリングの強化、条件付き継続といった個社ごとの精緻な対応に加え、恒久的には代替の可能性も含めて検討する必要がある。もう1つは、想定外は起こりうるという前提に立った想定外対応である。想定していない事案が発生した際に速やかに動けるよう、エスカレーションルールや、再評価のための追加情報の取得ルールをあらかじめ定めておくことの重要性を強調した。

北村は締めくくりとして、ここまで述べてきた意思決定の設計はあくまで自社単独の取り組みである点に注意を促した。サプライヤーは、内容や回答形式が異なる同様の調査に10社、20社と別々に対応する負担を強いられ、社会全体で見れば非効率な運用になってしまっている。同じ業界であれば同じサプライヤーと取引していることも多く、業界レベルでSAQやツール、ルールを共通化・標準化することで、サプライヤーの負担軽減とエンゲージメント向上の両立が可能になるという。すでにこうした取り組みに着手している業界もあり、他の業界にも横展開できる余地があると述べた。

「サプライチェーンリスクは、個社で判断し、全体で最適化する領域になってきています」(北村)

3. サプライヤー情報の「信頼性」が経営判断を左右する時代に

続いて、エコバディス・ジャパン株式会社 ストラテジック アカウント エクゼクティブの宮田昌彦氏が登壇し、サプライヤー情報の信頼性を巡る国際動向について紹介した。

経営判断にサプライヤー情報を活用するうえでは、その情報がどこまで信頼できるものなのかを説明できることが欠かせない。特に、非上場企業や中小企業を含むサプライチェーン全体を対象とする場合、自社だけで情報の真正性や比較可能性を担保することには限界がある。こうした課題に対し、第三者評価を活用することも有効な選択肢となる。

エコバディスは、サプライチェーン全体を対象に企業のサステナビリティを評価する機関である。一般的なESG評価機関が上場企業の公開情報をもとに、株主・機関投資家向けの企業価値を評価するのに対し、エコバディスは情報公開義務のない非上場企業や中小企業も含めたサプライチェーン全体を評価対象としている。同社は自らを「SSCM(持続可能なサプライチェーン管理)評価機関」と位置づけ、サプライヤー情報の信頼性を高める仕組みの重要性を訴求している。

宮田氏は、サプライヤー情報の「信頼性」が今なぜ経営判断に必要なのかを、2つの国際規制の動向から解説した。

1つ目は、米国通商法301条を巡る動きである。講演時点では、米国通商代表部が、強制労働産品の輸入禁止措置を十分に導入・執行していない国・地域を対象に調査を進めており、日本もその対象に含まれていた。

こうした貿易措置への対応では、サプライチェーン上の強制労働リスクを把握し、必要に応じてその対応状況を証跡に基づいて説明できることが重要になる。その土台となるのが、信頼性のあるサプライヤー情報である。情報の信頼性を欠けば、規制対応の遅れや追加的なコストにつながる可能性がある。だからこそ、サプライヤー情報の「信頼性」は経営判断に不可欠な要素となっているというわけだ。

2つ目は、EUにおけるESG評価機関への規制強化である。EUではESG評価活動の透明性と健全性を高めるための規制が整備され、欧州証券市場監督局(ESMA)がEU域内でサービスを提供するESG評価プロバイダーを監督する枠組みが始まっている。ESG評価機関の評価結果のばらつきや、評価手法が不透明なブラックボックス化、評価とコンサルティングの両立による利益相反リスクなどが問題視され、評価手法の透明性やガバナンス強化が求められるようになっている。宮田氏は、この規制によって形だけのサステナ対応が淘汰され、本質的な取り組みが評価される時代への転換が進んでいると位置づけた。

サステナビリティへの取り組みは、ともするとコスト負担としてのみ捉えられがちだが、宮田氏が講演の中で紹介した海外大手メーカーへのインタビュー映像は、それが競争優位への源泉へと転換しつつある現実を示していた。同社の担当者は、投資を継続する意義として優秀な人材の確保や調達のレジリエンス向上、新規規制への備えを挙げたうえで、「サステナビリティの本質は、非常にシンプルな言葉で言えば、より少ない資源で、より多くの成果を上げる(do more with less)ということです」と語っていたという。これから取り組みを始める企業へのアドバイスとしては、「完璧主義を捨てること」、そしてサプライヤーに個別アンケートを重複して依頼するのではなく「本当に必要とされる核心(コア)に集中すること」を挙げていたと紹介した。

最後に宮田氏は、こうした完璧を目指さず、絶えず改善を重ねていく姿勢がなぜ重要なのか、その裏付けとしてCFA協会のブログで紹介された、2009~2024年の米国株式を対象とする分析を取り上げた。同分析では、ESGスコアの水準そのものよりも、前年からESGスコアを改善させた企業の方が高いリターンを示す傾向が報告されている。また、E・S・Gを個別に見ると、ガバナンスは全サンプルでプラスのプレミアムを示したとされる。宮田氏はこのデータを踏まえながら、完璧な状態を最初から目指す必要はなく、低いスコアからでも絶えず改善を重ねる動きが、市場から評価される可能性を示す結果だと総括した。

4. 現場の疑問に答える

第三部では、株式会社GXコンシェルジュ 営業開発部 部長の清水寛章氏によるファシリテートのもと、事前アンケートおよび会場からの質問に対するトークセッションが行われた。まず問われたのは、サプライチェーンリスクへの対応はどこまでやるべきか、というものだ。北村は、すべてに対応するのではなく、事業影響・外部リスク・代替可能性という観点で対象範囲を絞り込むことが重要だと指摘した。清水氏も、日頃多くの企業と対話する中で、グローバルを含む同業他社の先進的な取り組みを参考にしている企業が多く、ベンチマークの設定が重要になっていると付け加えた。

続いて、サプライヤーをどのように巻き込んでいくべきか、との問いが投げかけられた。宮田氏は、バイヤー企業向けのオンボーディングプログラムの提供や、評価を受けた企業自身がサプライヤーに直接効果を伝える取り組み、トップダウンでのKPI設定、業界横断でサステナブル調達を標準化する枠組みづくりなど、複数のアプローチを紹介した。北村も、「サプライヤーの負担を最小化する工夫を大前提としつつ、協力へのインセンティブと、調達評価基準への組み込みを適切に組み合わせることが重要です」と述べた。

会場の参加者からは、サプライヤーへの調査依頼が複数社から重なり負担になっている実態をどう解消すべきか、という率直な質問も寄せられた。宮田氏は、業界内の複数企業が共同でサプライヤーと対話する枠組みづくりを進めている事例を紹介し、国内の通信業界でもすでに複数キャリアが共通の調査様式を採用した例があることに触れ、「誰かがまず声を上げてリードすることが、どの業界でも必要です」と述べた。北村も、いきなりすべてを標準化・共通化するのは難しいので、業界団体やコンソーシアムといった枠組みをつくり、まずは共通化できるベースラインを定めて小さな成功体験を積み重ねていくアプローチが有効だと補足した。

最後に、予測が難しい時代において企業は何を強化すべきか、という問いも挙がった。北村は「予測することにすべての労力を注ぐべきではないと思っています」としたうえで、想定外は起こるという前提のもと、企業としての体力・土台をあらかじめ作っておくことの重要性を語った。過去の他社事例を踏まえて自社への影響を評価し、対応可能なリスクはあらかじめ手を打っておくという、予測と備えの両輪が必要だとまとめた。

5. まとめ

サプライチェーンリスクへの対応は、もはや現場部門だけの課題ではなく、経営がどのリスクにどこまで対応するかを意図的に判断し、その根拠を説明できる状態を目指す経営アジェンダになっている。QCDに加えて継続性・適合性が取引の前提条件となる中、企業には対象範囲の設定・情報取得・判断・対応という一連の意思決定プロセスを整備し、現場と経営の目線を揃えることが求められる。同時に、米国通商法301条やESMA規制といった国際的な動きは、サプライヤー情報そのものの信頼性を経営判断の前提条件へと押し上げつつある。

個社での対応には限界があり、業界横断での標準化・連携を通じてサプライヤーの負担を軽減しながら、社会全体で持続可能な調達の仕組みを築いていくことが、これからのサプライチェーン管理の方向性として示された。

サプライチェーンリスク対応は、情報の収集・可視化にとどまらず、経営が根拠を持って判断し、その判断を説明する段階へと進化している。

アビームコンサルティングは、対象サプライヤーの選定、リスク評価軸の設計、サプライヤー情報の信頼性確保、経営判断に必要なデータ基盤・モニタリング体制の構築まで、企業の事業特性に応じて一貫して支援する。


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